年下って眩しい
今日も空は青くて、陽の光りが眩しい。
いつもと同じ様に朝食を済ませて、ダサい仕事着を着て家を出る。
暫く歩けば、登校中の学生で溢れた道に出て。
朝からよくもまぁ、あんなに元気に話す事があるよなぁ。
私が学生だった時は、あんなに元気だっただろうか。
そんなに友達が多い方ではなかったけど、それなりに学生時代を楽しんで居た様な気もする。
何だか懐かしくなって、同級生はどうしているかななんて考えて歩いていた。
「おはようございます。」
不意に声を掛けられて、今までなかった事に不思議になって顔を向けると、そこには満面の笑みで私を見下ろす彼が居て。
「ひょえ!」
昨日の事なんてすっかり忘れていた。
あれは夢でも何でもなくて、実際にあった事で。
彼は間違いなく、私に挨拶をした。
驚いてしまって、なんとも間抜けな声をあげてしまった。
そんな私を彼は声をあげて笑って、面白いねなんて言う。
目尻に涙を溜めて、腹を抱えて笑う姿は可愛い。
けど、一応私の事好きなんだよね。
そんな相手を涙を溜めてまで笑うなんて。
「お前笑い過ぎ、失礼だっての。」
笑われた事もそうだけれど、恥ずかしさでムッとしている所へ、気だるげな声が真後ろから降ってきた。
振り返れば、降ってきたと言うのが的確な表現だと言える程の長身の男の子が立っていた。
制服を着て居るから、彼と同じ高校生だ。
けれど、表情が大人びた美形で。
歳を誤魔化しても誰も気付かない位、彼からは高校生特有の覇気みたいなモノが感じられなかった。
これが、同じ人間だと言っては失礼な程の美形。
きっと、女子にモテるんだろうなぁ。
「桜華さん、明に見惚れ過ぎ!」
どれ程の女子を泣かしてきたんだろう、経験豊富そうな顔しちゃってさ。
なんて考えながら見ていれば、不意に腕を引かれて。
声からもあからさまに不機嫌が出ていたけれど、頬を膨らませてムッとしている姿が可愛い。
あぁ、年下なんだな。
こんな子供っぽい仕草をする男の子が、本気で私を好きだなんてあり得る訳がない。
ドキドキしたのも、初めて異性が側に寄ったからだ。
「春はそういうとこがガキだから、相手にされないんだよ。」
見透かされた様な気がした。
咄嗟に彼を見れば、ダルそうな視線が向けられていて。
何だ違うのか、そう言われてる気がした。
いや、違わないんだけど。
年上なのに、なんだか昨日から振り回されてばかりだ。
「明に何がわかんだよ!」
ギャーギャーと騒がしくなって、仕事前に疲れるのは嫌だからと歩き出せば、彼らは隣を歩いて。
変な子に目をつけられてしまったな、なんて空を仰いだ。
真っ青で雲一つない空は、キレイだった。
「桜華さん、仕事頑張って下さいね。」
後ろから声がして振り返れば、校門の前で大きく手を降る彼が居て、隣でやれやれと頭を抱える姿も見えた。
頑張って、なんていつ以来だろう。
それなりに自分の出来る範囲で、そういう人生を選択してきた私だったから、頑張れなんて誰も言わなかった様な気がする。
頑張らなきゃいけない様な選択は、私にはなかった。
努力したって、結果が変わるとは思えなかったし。
なるようにしかならない、だから頑張る事が嫌いで。
「あ、ありがとう。」
もう一度頑張ってと言う彼が、あまりにも眩しい笑顔を向けていたから。
感じた事のない、温かくてフワフワした何かが体を駆け巡った。
だからって訳じゃないけれど、私も小さく手を振り返して仕事場への道を急いだ。