年下って怖い
齢24、彼氏居ない歴=年齢。
化粧もしないし、奥二重でニキビ面。
それが私、桜華咲。
名前負けしているのは、自分でもよく分かってる。
だけど、今のこの状況は全然分からない。
「あの、俺の事覚えてますか?」
仕事場の近くにある高校の制服を着た、仔犬顔の男の子。
童顔なくせに、私より頭一つ以上も上から見下ろしてくる様は、何だか腹立たしい。
覚えて居るかと問われたけれど、こんなイケメンな年下に知り合いも居なければ関わる事すらない。
眉の下がった表情は、柴犬みたいに見えて少し可愛いけれど。
「えっと…、人違いでは?」
正直、仕事着の私に男子高校生が声を掛けている時点であり得ない事で。
まして、周りは下校時刻で沢山の学生が行き交っていて。
そんな中でイケメンが、こんな年上の、しかもお世辞にもキレイなんて言えない私に話し掛けているなんて。
自慢じゃないけど24年生きてきて、異性と話したのなんて数える程度しかないから、耐性がなくて緊張する。
「いえ、桜華咲さん…あなたで間違いありません。」
私を真っ直ぐ見下ろしてくる彼は、平然と私の名前を。
「ちょっと待って、何で名前…!?」
怖い、怖いんですけど。
名前知ってるなんて、ちょっと、いやかなり怖い。
個人情報をなんで何事もないように言ってるの、この子。
脳内パニックを起こす私なんて、お構いなしに彼は話を進める。
無視ですか、私は。
「俺、玉宮高校2年の立花春って言います。」
別に聞いてないんたけど、自己紹介するから一応聞いておく。
今後、名前知って悪用されたら仕返してやるんだ。
「桜華さん、俺…あなたが好きです。」
全く今時の子は、ネットで何でも個人情報探ったり、人に好きだとか平気で言うんだからけしからん。
「ん?…えっと、今なんて?」
顔の筋肉がひきつって、上手く笑えない。
何か、凄い処理しきれない爆弾を投下された様な。
えっと、先ず仕事帰りにいつも通り高校の前を通って、そしたらこの子に呼び止められて。
覚えて居るかって聞かれたまでは、普通だったよね。
「桜華さんが好きです。」
なんの躊躇いもなく、目の前の男の子は言う。
真剣な眼差しで、私から目を反らす事もなく。
「ないない、罰ゲームかなんかだ…。」
あり得る訳がないんだ。
私みたいな年上で女子力もまるでない私を、こんなイケメンな年下男子が好きだなんて。
馬鹿にされているみたいで、腹が立って。
早く帰って熱いお風呂に入ろう、今時の若い子は年上を何だと思っているんだろうか。
一人でぶつぶつ呟きながら家に向かおうと、足を踏み出した時。
「俺、本気ですから!」
後ろから、突然大きな声がして手を掴まれて。
何事かと周りの人が振り向いて、沢山の視線が私達を見ていた。
「や、あの…えっと、ちょっと。」
注目される事が、こんなに怖い事だなんて知らなかった。
向けられる視線が痛くて目眩がして、吐き気がする。
足がふらついてよろめく私を、支える様に彼が私の手に触れる。
「考えて、もらえませんか?」
耳に触れそうな程近くで、見た目からは想像も出来ない様な男の色香漂う声音。
一気に耳にも顔にも熱が集まってくる。
吐息すら聞こえてしまいそうな、それくらいの距離に居るんだと分かるだけで、今までにない位胸は早鐘を打っていて。
ドキドキする、だけど、けれど。
「む、む…無理ぃ!」
握られた手を振り払って、耐えられなくなって。
私は全速力で家に向かって走った。