水風船
※恋愛成分は薄めかも
ねえ、君は覚えているかな?
初めて君と行った夏祭り。近所の小さい神社のお祭りだったけど、まだ子供だったわたしたちは、まるでテーマパークに行ったかのようにはしゃいでいたね。普段はひっそりとしたあの場所が、打って変わって夜でも明るくなっていて、キラキラ輝いていたよ。
君はグレーの甚平で、わたしは紫の浴衣を着ていたね。いつもしないようなおしゃれをした。お祭り前の着付けのときに来た君は、「似合わない」とだけ言ってリビングに去って行ってしまったけど、それが本心じゃないことくらい気づいていたんだ。だって、顔が真っ赤だったんだもの。
お祭りの屋台は、普段行くようなお店とは全然違って新鮮だった。屋台と人の合間を、君と手をつないで巡っていたのは、大航海をしているようで、とてもワクワクしていた。人の波にもまれながらも、君はきちんと手を握っていてくれていたね。とても頼もしかったよ。
そして、君は少ないお小遣いの中から、わたしに水風船を買ってくれたの。君からもらった初めての贈り物だった。わたしは嬉しくてうれしくて、思わず君に抱き付いてしまったんだっけ。あとから思い返すと、恥ずかしくて仕方がないよ。君はあの時、どんなことを思っていたのだろう。
お祭りが終わってからも、君とわたしはたくさん遊んだ。山に行ったり、イタズラをして怒られたり、二人だけで遠出もした。いつしか君と一緒にいるのが当たり前になっていて、それがずっと続くものだと思っていた。でも、夢は朝になったら覚めるように、楽しいお話にも終わりがあるように、君はいなくなってしまった。
今でも夏になると、近所の神社で水風船を二つ買う。またあの夏に戻れるようにと願いながら。
Fin