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飾伝説  作者: 仙堂ルリコ
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飾の正体

偶然、真弓と尚美が死んだ、それも納得できない。


何故真弓は川へ入っていった? 

誰かとぶつかって倒れたんだ。自分が倒された方なのに「ゴメン」と謝っていた。


……そんな態度は操にしかしない。


その後操は血が出ていると叫んだ。

怪我して立ち上がれないと心配した。

それから?

中州で乞食が父が立ち上がった。皆逃げた。

真弓もやっと立ち上がったと思ったら河原に来ないで川の中を逃げた。

股から血が流れていた。

乞食が襲おうとしていると見えたが、父は真弓を殺す必要は無かった。

あれが父なら、ただ危ないから助けようと寄っていったのかも。

真弓は血を流しながら何故、皆が呼ぶ方に来なかったんだろう?

あ、あれは……。


分かるのが遅すぎた、あれは怪我なんかじゃない。

真弓の股からの血は……生理の出血だったんだ。


真弓は、男子が居る方へ来れなかったんだ。

操は知らずに大きな声で叫んだのか? 

わかっていて意地悪を言っただけなのか。自分が叫んだせいで、あんな事になるとは予測はできなかったのか。

確か尚美が落ちたのも、きっかけは、確か、操だ。

パンツ丸見え、汚れてるで、と喚いてた。


側に居た私にはパンツも、ましてや汚れなど見えやしなかった。

でも尚美は嘘だと分からない。恥ずかしくて焦ったにちがいない。


操は、バスの中で吐いて操の服を汚した子にも、「臭い汚い、アタシから離れて。もっと離れて」と言い続けていたっけ。あの子は汚くも臭くもなかったのに。

そんな昔のシーンまで、思い出してしまうのは、あの子も川で死んだからか。


七夕の日だった。死んだ、名前も忘れた桜本の子が、川の中へ振り返りながら行ったのは、操がいつもの言葉を投げかけたからでは、なかったか?

「もっと、もっと離れ」聞き慣れた言葉だから特別誰も気にしなかった。


「どうした? 急に黙って。疲れたなら横になった方がいい」

聖が優しく肩を抱いてくれた。


「もう忘れや。僕らの飾伝説はあの夏で終わったんや。事実がどうあれ、な」


私たちの飾伝説と事実……飾伝説は実話を元にしているのだった。

最後の人身御供、水野飾だ。

飾は川へ投げ込まれたのに生きて帰ってきて、水神に会ったと言い……。

「それは、知らん。人身御供は聞いた事無い。村にはそんな秘密もあったんやなあ。本当の飾は親に殺されたんか。けど、なんかその話矛盾してないか? 水神に会ったというくらいやから狂ってたんやろうけど。水野飾は人身御供やろ。水神への捧げ物や。自分の身代わりに水神が毎年一人寄こせと言ったって何のこっちゃ」


 伝説の元になる事実が先にあり、それが村の人身御供の始まりの方が辻褄が合うと聖は言う。

「綺麗な娘がおって、その娘の妄想から人身御供が始まったんかもなあ。水神信仰が先にあったから昔の人は信じたんか。もし不細工な娘が言うたんやったら伝説にならんかったやろうなあ」


では水野飾は伝説の起源を再現したのか。

自分も水神に会い命乞いをして、伝説と同じ条件、代わりに毎年一人喰うと言われたと。

しかし結末は違う。

飾は伝説の娘と違う選択をした。自分の代わりに誰かを殺せないと……。


もしかして新しい伝説を語ることで人身御供を終わらせようとしとのではないだろうか。

結局殺され、事件になり人身御供は終わった。


自分が犠牲になることで多くの命を救った飾は、人殺しでは無いし、気狂いでもなかったかもしれない。


つけっぱなしのテレビはまた川を映してる。番組もレポーターも変わってる。

故郷の川が人食い川とネットで噂になってると話している。

過去の水死者数を表にして見せる。

「人食い川か。確かに死人が多すぎるな。昔の人身御供が知れ渡ったら密かに、ずっと続いてたん違うかと疑われるな」

冗談のように言って聖はぶるっと震える。


本当に毎年のように、死人が出ている。

ゼロが二回続いた後には三人死んでる。「ずっと続いてたかも」私が言うと聖は大笑いした。


「人身御供になり手がない、やろ」

「そうや、無理になってもらうしかないな。今度死んだ子は名前からして余所者やろ。三人で川へ行って、後の二人が村の子やとしたら、怪しいやん、自分は『飾』やと思ってる子が溺れさせたかもしらんで」

三年死者が出ない年にだけ、飾が出るとはかぎらない。

そして一人だけとも限らない、そんな気がしてきた。


村の、女の子は幼い頃から伝説を聞かされている。

村で一番美しい娘が飾、頭に植え付けられてる。


「けど、村で一番って、たいしたことないやんか」

聖は分かってない。

たとえそれが五人の中でも一番綺麗なのは誰か女はこだわる。

五人の中で一番は百人の中でも一番の可能性があると思える。

女なら誰だって自分が美しいと思いたいし、神が認めた美女なんて最高のステイタスじゃないか。

その願望が、妄想を呼ぶのではないか。

私だって、只の異形より伝説の主人公になりたいもの。


……あの夏、茜の他にも、自分こそ飾だと信じている娘がいたとしたら?


物心付いたときから飾伝説を聞かされ、

繰り返し聞かされ

村で一番綺麗な娘、と聞かされ


物心付いたときから(べっぴんさんや)と褒められ

ちやほやされ

特別扱いされ


村一番の美人、とは自分の肩書きだと

信じて疑わぬ娘がいたとしたら。


そして父のようにためらう事なく、

茜のように手を汚しもせず飾の仕事を済ませたとしたら? 


それはとても簡単だった。

指一本触れない、言葉だけの力で生け贄を川へ、死へ追い込んでいったのだ。


川へ流すのは自分以外なら誰でもいいのだ。

チャンスはいくらでも、ある。


不細工な茜が飾のはずない、と操は言っていた。

三人死ぬなら三人目は茜が死ねばいい、真弓や尚美みたいに勝手に死んでくれたらいい、と


操は、あっさり恐ろしい言葉を口に出していた。



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