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飾伝説  作者: 仙堂ルリコ


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19/22

あの夏へ

「操の息子かな」

塾の経営者は顔がわからないように加工されていても、体つきが操にそっくりだった。


「元気に挨拶して、てっきりまっすぐ家に帰ったと思っていました。可愛そうで残念で言葉もありません」

長い沈黙の後、はっきりした声でそれだけ言って、目頭を押さえているらしいリアクションだ。

一瞬、背後に居た人物が写った。横顔で鼻から上が見切れているから、画像処理は無い。

男は操の夫だ。譲に似ている。細い鼻筋、薄い唇。でも讓では無い。

譲の兄で医者になっている筈の男だとわかった。操は村の優秀な血筋に相応しい伴侶を得たのか。


「水神様に捕られたんかなあ」

呟いた私を聖が見つめている。

長い間鏡を見ていないので、聖のまなざしに今までと違う煌めきを見て不安になる。

私の顔は様変わりしているのだろうか。


「鏡を見せて」

見ない方がいい、昨日も一昨日も同じ願いを口に出したが聞いてくれなかった。

それが今、黙って手鏡をかざしてくれた。

一月前まで、子供の顔だったのが、そこには青黒い肌、落ちくぼんだ目と深い皺……この顔には見覚えがあった。

「茜や、茜の顔や」

文化住宅の、飾が取り憑いたと疑ったあの子に似てる。気味がわるいと思い始めてからの顔に。

そういえば、聖に茜のことを聞いたことがあっただろうか。


写真の茜を指さして、知ってるな、と聞いた。

聖は即座に「水野茜やったな」と言った。

茜を知らないと父も母も操も譲も進も嘘をついたと訴え、その理由も知っているかと聞いた。


「茜はな、前の飾や」

 しばらくの間、意味がわからなかった。

「潤は知らんやろ。僕らが生まれる前にも飾が出たんや。桜本の子供三人死んで川に流れてたんや」

それは知っている。西先生から聞いた事件だ。

しかし、確か父や母と同世代だった……まさか、


「そうや、潤といっしょや。年をとらない身体やったんや、中身は四十過ぎのおばちゃんやったらしいで」

大層驚いて、ショックで息を吸いっぱなしになって、苦しいモノだから反射的に上半身をがばっと起こした。

「それ、いつ、誰に聞いたん?」

聖は座り直すようにして私から、距離をとった。


「さあ、もう昔すぎて忘れたなあ。太った子が川で流された後やったな。讓にきいたんや。謙は親が話してるの聞いたんや。盆踊りの時には、皆も知ってたのは確かや」

えーっつ、とまた私は変な声を出した。

「どういうことなん? 教えて、アタシが知らないこと全部教えて、な、なあ、教えて、」聖の服をつかんで詰め寄った。


「わかった。落ち着いて。頼むから。昔の話や。だから、興奮するなよ」

聖はやっと全て話せるのが嬉しい、と一層私を混乱させる前置きした。

そして茜は昭和十五年に起きた事件の犯人だといった。

三人河原で殺したと言ったのは本当だったのだ。


私が一夏自転車の後ろに乗せていた友達は、子供の身体をしたオバサンで、しかも人殺しだった。



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