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飾伝説  作者: 仙堂ルリコ
17/22

永遠の少女

「やっぱり、潤や。気になってずっと見てたんや。その荷物、旅行か?」

もの凄く嬉しそうに、男は私の肩をぱんぱん叩きながら一気に喋る。

こんなにしてくれるのは、誰だったろうか。護でも進でもない……まさか。

聖だった。

間違いない、雰囲気は変わっているが顔立ちは聖だ。

でも聖の、大きな特徴がない。ごく普通に流ちょうに喋る。


聖は、東京の大学に行きずっと東京に居る、今日は葬式で村に帰っていたと話してくれた。

大学と聞いてまた驚いた。

何が聖に奇跡をおこしたのか。それともこれは白昼夢かもしれない。

それで、どこに住んでいるのかと聞かれ、口軽く切羽詰まって行く当てがないと喋った。

「俺、一人やし、出張が多いから殆どおらへんし、来たらいい」

私はそのまま聖に付いていき、新大阪駅から新幹線に乗った。

聖の仕事はコンピュータの技術者、プログラマーだと言った。

別人のように知的になっていたが大きな丸い目と笑顔は純朴な昔のままだった。

「潤は全然変わってない」

 聖は笑っていた。だけど私の異常さは一目でわかった筈だ。内心驚いてるにちがいない。


「気味悪いやろ?アタシ、実はね、」

 父から告げられた信じがたい話、私は一度死んで「飾」になったらしい、と話していた。

 他に説明が無いのだ。

 言いながら泣けてきた。

 この身体さえ違っていたら、あれは父の戯言だったと忘れていただろうに。

 聖は、「かわいそうに」と一番短い言葉で慰めてくれた。

 驚いて居ない。


 もしかして、知っていた?

「うん」

「誰に聞いたの?」

 言いにくいのか答えてくれない。

 私が村を出た後、父の口から私が飾だと村中に広がったんでしょ、分かってる……。

 聖は「違う」という。


「潤は飾じゃないって。飾なんか、ただの迷信や。大きくならないように生まれついたのは知ってたって事。本人は気がついてないから、潤にだけは、黙ってるように言われた」

 大きくならないように生まれついた? 

 元々普通の身体では無かったという事か。つまり「徴」と同じなのか。

「まあ、そうかな」

 また何でもないことのように笑う。

「これは障害? 年取らない病気なんか聞いた事も見た事も無い」

 心の中に病気ならいいと思っていない、自分がいる。

「神流村だけの病気があっても不思議はないやろ。血が濃いから滅多に出てこない障害が出るんや」

 私は「徴」か。

 村では「徴」と呼んでいたが重度の障害児を隠して育てていたのだと、この頃はわかっていた。

 確か、聖も「徴」だった。

 幼い間は幼なじみの中に聖は存在していなかった。

 「徴」が「徴」で無くなるのを不思議に思って母に聞いたら、聖は特別な「徴」と言っていた。

 障害を持ち生まれたが、治ったのか?

 聖には聞けなかった。


 私が普通で無いのは珍しいただの病気。それが真実なら疑惑と恐れから解放される。水神に選ばれた飾ではなかった。

 ……しかし、一旦捕らわれた、自分は飾だという感覚が、どうしてだか簡単には手放せなかった。

 何故だか自分でもわからない。

「でも、水神を見た。白い乞食は本当は水神やったんや。私は飾やから皆には見えない水神がみえたんや」

 聖は、それには答えてくれなかった。

 真弓と尚美は事故で死んだのでは無い。

 私が指一本触れずに殺したのかもしれない。

 私は飾だから、人には見えないモノが見え、人には出来ないことが出来るのだ……私はムキになって訴えていた。

 頭がどうかしていると理性がはたらく。

 西先生が言っていたではないか(関係があるかのように見えますが、無いのです。皆さんは惑わされずに、真実を見極める知性がありますか?)

 一度死んだから成長しない身体、二人の死、私だけが見た水神、繋げれば『飾伝説』……だけども違う、そんな筈は無いと理性が働く。

 真実は、わたしは障害者、二人は事故死、偶然続いただけ。

 そして白い乞食は……私の幻覚だったのか。

 聖の言葉を待った。

 私が障害者とあっさり教えてくれたように白い乞食は幻覚と、答えを出して欲しい。 

 知らない間に根付いてしまった飾の妄想を頭から消して欲しい。


「白い乞食か。そういえば、河原に乞食を見に言ったなあ。潤が水神と思うなら、そう思っていたらいい。もう遠い過去の話や。人殺しでもとっくに時効やで。潤が思いたいように思って、気が済んだら忘れたらいい」

 聖は、幻覚とは、言わなかった。

 私にとってはそれだけが重要だった。

 私は水神を見た。……だから私は飾だ。

 私のせいで二人死んだ、それでもいい、十一才で死ぬ運命を生きながらえてる化け物でもいい……間違って産まれてしまった化け物より神に選ばれた化け物の方がいい。


 東京に移ったのを機に大人の服を着るのを止めた。

「永遠の少女」でいいと居直った。


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