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飾伝説  作者: 仙堂ルリコ


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再会

「チビちゃんは、悪くないよ。でも客商売やからな、ごめんな」

突然、夫婦で手をついて謝って、出て行って下さい、とお願いされた。

常連のホステスのうなじを剃っていて傷つけてしまった、すぐ後だ。

かすり傷で出血は僅かだった。客は怒っていなかった。

まさかこんなことでクビになるとは思いもよらなかった。理不尽で納得できない。不満を経営者夫婦と従業員仲間にぶつけた。店を去るのが辛くて耐えられないと泣いて居座った。そんな有様に仲が良かった美容師が本当の理由を教えてくれた。


十五年過ぎても、全く変わらない私が気味悪い、化け物だと客が言い出したらしい。

百四十三センチ、四十二キロ。それだけなら小柄な女で済むだろうが、三十を過ぎても私の容姿は五年生で止まっていた。生理も結局始まらなかった。

そういう自分に慣れてしまって人と違うという自覚が全く無かった。

膨らみのない薄い胸、つるりとした下半身は奥さんに見られていた。化粧が馴染まない張りのありすぎる肌と未完成な顔は三十年生きた内面と合っていないのだ。


……お前は一回死んだから、大きならへんのと違うか?

父の声が生々しく頭の中に再生される。


成長が止まる低身長という病なら今では知っている。お客さんにも居るし、街で見かける。でも私は、身体が大きくなっていないだけでなく、老けてもない。

これじゃあ、化け物と言われても仕方ないじゃないか。

過分な退職金をもらい店から去った。

子供達は引き留めてくれた。それが有り難く嬉しくて、諦めが付いた。


それから、化粧を工夫し、なるべく従業員の多い、寮のある店を選んで、二、三年で職場を変えた。奈良、京都、神戸と転々とした。村へかえろうとは考えなかった。両親に電話もしなかった。

四十を過ぎると実年齢に、どれだけ工夫しても見えなくなった。履歴書や資格証明書をごまかし、嘘がバレないように若々しく振る舞って、努力はした。それでも無理があるのか異様さが露見してきたのか、面接で断られ続けた。美容師の職は諦めるしかなかった。

 独り身で保証人が無いからアパートも借りられない。先の見通しも無いまま一時しのぎに安いビジネスホテルに長期滞在し、蓄えは底をついてしまった。携帯電話も支払いが怠り使えなくなっていた。

この頃には、自分は化け物だと認めていた。

いつか父から聞いた一度は死んで飾になったと、それしか思いようが無かった。


四月というのに風邪の強い寒い日だった。

暖かさを求めて電車に乗った。環状線を何回も回った。大阪城の桜が満開で散り始めていた。綺麗だがどこか寂しい風景を車窓から眺めた。

諦めの涙が滲んだ。そして死のうと決めた。

キャリーバッグ一つと一緒に大阪駅中央待合所のベンチに座り、財布に残った数千円で行ける場所を死に場所にしよう、北へ行こうか西へ行こうかと思案していた。

その時、眼鏡をかけた痩せた男が私の前を言ったり来たりして、顔をじろじろ見た。

スーツ着てネクタイしているし、ビジネス鞄を持っている。銀行員みたいなきちんとした雰囲気だ。

もうすっかりホームレスに見えて、遠慮無く見られるのか。悲しくて逃げようと立ち上がりかけた。すると男は正面に来て間近に顔を寄せてきた。

目が合った。私は睨み付けた。

男は笑っていた。

その顔は村の顔だ。

理性は逃げろ、と警告した。でも懐かしくて、あまりに懐かしくて微笑み返していた。


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