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飾伝説  作者: 仙堂ルリコ


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12/22

人身御供

「さて、『飾伝説』の飾ですが、実在した神流村の水野飾、です。最後の人身御供です。何故最後のなったかというと、警察が介入する事件がおこり、忌まわしき風習が公になったからです。事件は記録に残っています」


人身御供に選ばれた被害者水野飾十二才は、風習に従い手首足首を紐で縛られ橋の上から川に投げ込まれた。ところが、二日後、夜更けに家に帰ってきて「一口でいいから、白い飯と味噌汁を食わしてくれ」と言った。

飾の両親は死んだはずの娘が帰ったものだから恐ろしくて要求通り、ご飯と味噌汁を食べさた。

飾は、とても満足した様子だった。

両親が、なんで戻ってきたかと聞くと、恐ろしい話を始めた。

「鬼か神か分からんけど、白い人に会った。どうか食わないで、命を助けて下さるなら何でもしますとお願いした。そうしたら、鬼か神かわからん人が、お前は食ってしまうには美しすぎる。助けてやろう。その代わり、この先もずっと毎年一人、水へ流して食わせてくれ。約束するなら、助けてやろう、そう言いなさった」

飾の父は娘を差し出した褒美の酒に酔っていた。

それで娘の言葉を最後まで聞かずに釜で娘の喉を切った。

飾は、血に咽せながら、最後の言葉を残した。

「神か鬼か解らぬものと約束したけれど、考え直し、人殺しするくらいなら、もう一度川に入ろうと思っていた……一目あなた達を見て飯を食って汁をすすれば、悔いは残らぬと」

水野飾の父親は、翌朝自首した。

その供述から神流村が密かに人身御供を続けていたのが知れ渡り騒ぎになったという。

その後、神流村の老朽した橋は取り壊され、新しい橋が離れた場所に架けられた。


「今皆さんが知ってる赤い橋ですね」

この話は、全然知らない。

飾は実存したのだ。

村に橋が架かっていたのも、村で聞いた覚えが無い。

飾の姓は水野、水野って? 


水野茜と言う名前を、思い出した。

村で水野という名字は知らない。知っているのは迫水、速水、清水、水田、四つの名字だ。しかし、ずっとその四つだと聞いたわけではない。水の文字が入っていて、名前は一文字、村の子と同じだ。

一夏だけ居て盆踊りの夜に消えた、余所者の茜。

本当に余所者だったのか?


「水野飾は、鬼と約束はしたけれど自分一人が犠牲になる覚悟だったのです。これが『飾伝説』へと変化したのは、不思議な事件があったからです。大正元年のことです。神流村の女の子が『水神に捕まった。でもお前は飾のように美しいから助けてやる。でも代わりに殺せ、三年分、三年殺せ。と言われた』そう言って友達を襲い、幼い弟を川へ流して殺しました。この子は父親に殺されました。母親はショックで娘の死体を抱いて川へ入って自殺してしまいました。結局三人川へ流されたんです。実は川では毎年のように誰かが溺れて亡くなっていましたが、この年は死者が無いのが続いた、三年目でした。飾の名を女の子が口に出し、飾の語った水神との約束と符合したものですから、女の子は飾に取り憑かれた、飾になったと噂になりました」

前に聞いた話だ。本当に実話だった。

先生と西ちゃんのお姉さんが同じ人だと改めて思った。

西先生は時計を見た。まだ時間が余っている、という顔をして、「飾伝説」知ってる人、と聞いたが反応はない。

「あんた、神流村やな、」

先生は進をあてた。

「人身御供は聞いた事が無いです。『飾伝説』という言い伝えがあるのは知ってます。でも男は関係ない、女の話です」

最後にちらりと後ろを、私を見やったのを、先生は見逃さなかった。


「では、女の子、知ってる話、教えて。みんな聴きや、来週は続きやるよ」

進を恨んだ。席は斜め前、文句を言いたい。進は私の視線を避けた。諦めて立った。

「私が知っている、飾伝説は」

それから先は口ごもってしまった。

喋ってはいけないのだ。村の戒めなど、忘れていたのに、身体が、村の血が覚えていた。だから正直に、知ってるが話せないと説明した。話すと飾を呼ぶと。

それが返って皆の好奇心を煽る結果になるとも知らずに。

授業では飾伝説を話さずに済んだが、休み時間に数人に囲まれ、話して聞かせてとせがまれた。

できない、と謝るしかない。

嫌でも五年の夏が蘇ってしまった。

川に流された真弓,落ちた尚美、「徴」の葬式、飾伝説、乞食……一連の出来事が、ばらばらに、ごちゃごちゃに思い出された。


次の週の人権の授業も、予告通り、また「飾伝説」だった。

「この前は大正時代に飾が出た話をしましたが、飾るが出たのは一回きりでは無かったのです。昭和十五年に再び同じような事件が起こりました。事件の年、水死者はゼロです。その前も、二年前もゼロでした。つまり三年川で死ぬ人は無かったのです。桜本の三人の子供が、亡くなる痛ましい事故がありました。川へ遊びに行って行方不明になったのですが、そのときに、一緒に遊んでいた神流村の女の子が、『水神と約束したから河原で包丁で三人殺した』と言ったのです。死体も包丁も見つからなかったので虚言と見なされました。そして数日後に無残な死体が川に浮きました。子供達は野犬の群れにかみ殺されていたのです」

これも前に聞いた話だった。皆は熱心に聞いているが私は辛い。神流村の忌まわしい過去を晒されてるようで嫌だ。西先生は何のために話すのか。

「皆さんは、これを、聞いて、飾の祟りと思いましたか? それとも神流村の子が嘘をついていると思いましたか? 嘘では無く妄想かもしれませんが。皆さんは惑わされずに、真実を見極める知性がありますか? 覚えている人もいるでしょうが、五年前にも、また三年水死者が出なかった年に貴方たちと同じ年の子が川でおぼれて亡くなりました」

教室の半分が、えーっつと叫ぶ。

怖いと言い合いながら笑っている。

桜本小学校出身の生徒は忘れかけていたのを繕うように神妙な顔つきを先生に向ける。

「夏休みの事です。続けて二人川で亡くなりました。水神を見たという女の子が現れ、『飾伝説』が始まったと騒ぎになりました。でも、死んだ二人は誰かに殺されたのではありません。事故でした。それが事実です。夏の終わりに身元不明の水死体が上がり、水死者は三人になってしまい、三人殺すという飾伝説に数が合ってしまった訳ですが、これも偶然です。川で毎年のように死者が出るのは、この川に限りません。そして人が事故で亡くなるのは珍しい亡くなり方ではありません。『飾伝説』と、誰かが言い出したから、後に起こったことも関連づけて見てしまうのです。惑わされてはいけません。」


西ちゃんのお姉さんは私たちを怖がらせて笑っていたが、西先生は「飾伝説」を否定した。

茜が「こっくりサン」で飾を呼んだこと、真弓の死、尚美の死、乞食、繋がって起こっただけで、関連は無い……それがあの夏の真実だと先生は言っているのか。

「占いも、予言も、同じです。惑わされてはいけません」

それから、ノストラダムスの地球滅亡の予言についても科学的根拠はゼロだと熱く語った。


予言の日は事も無く過ぎた。

同時に巷はノストラダムス熱から急速に醒めていった。



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