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飾伝説  作者: 仙堂ルリコ
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水死者

「事故現場の、神流川河川敷公園からの中継です」

故郷の川がテレビに映っている。

堤防の桜は太くなり、雑草が茂っていた土手は芝生になっている。

河原も整備され、色とりどりのタイヤで作られた遊具も見える。

当たり前だけど四十年前の風景とは違っている。


ワイドショーのレポーターは、小学二年生の女児が流され心肺停止で発見されたと伝えている。

死んだ子は塾の帰りに三人で河川敷公園に行ったらしい。

「ここがタオカユキナちゃんの通っていた学習塾です。寄り道をせず帰るよう、塾では指導していたという事です」

見覚えのある建物は幼なじみの迫水操の家だった。

コンクリート塀の看板が珠算教室から学習塾に変わっている。


「水の事故は今回が初めてではありません。平成十二年に幼稚園児が四人亡くなった事故は大きく報道されました。その後、平成十九年には釣りをしていた男性が流され死亡しました。そして三年前には小学生が溺れてなくなっています。今回の犠牲者、ユキナちゃんと同じ小学校の生徒でした。

子供だけで河川敷公園に行かないよう学校や地域でも注意していたにもかかわらず不幸が繰り返されてしまいました」


画面は航空写真に替わる。

「この神流川は吉野川の支流で、ご覧の通り、現場はS字に蛇行して川幅が細くなっています。この地形が急激な水位変化の原因だということですが、河川敷公園に安全上の問題は無かったどうか……」


村の周りから田んぼが減っている。

また画面が変わりレポーターのオバサンは村を歩いている。日傘を差した老婆が無頓着にすぐ脇を追い抜いてゆく。夏休みだというのに子供の姿はない。

「昨日告別式が行われた集会所です。静かな住宅街の中にあります。昭和にタイムスリップしたような古い町並みです。こちらの、通りをご覧下さい、黒い板塀がずっと続いていますね」

昭和のスターが殺虫剤を持っている看板をわざわざ写す。

「村は注目されるかも」

隣で食い入るように画面を見ている夫に言ってみる。

インターネット上では神流川は人食い川と呼ばれている。昔から毎年のように水死者が出ていたと地元の誰かが広めたのだ。

そのうちに面白がって写真を撮りに来る人があるかも知れない。ついでに村を探索するかもしれない。

迫水、速水、水田、清水、四種類の表札しかないと気が付くかもしれない。

不気味な村だと日本中に晒されれば面白い。

村に伝わる恐ろしい伝説も世間に伝われば良いのだ。


私は十五で逃げるように故郷を出た。

それから四十年、意識して神流村を忘れてきた。思い出すと怖いからだ。でも床に伏してしまってから、目を閉じれば神流村で過ごした遠い昔が浮かんでくる。


死が近づくと、記憶から大人時代が抜け落ちたかのように子供の頃の出来事を鮮明かつ些細に語り出す。

そう誰かに聞いたことがある。死の兆候なら抗えないのか。

それにしても、思い出されるのは十一才の一夏のことばかりだ。死んだ友達、白い乞食、夏休みだけ村にいて消えた転校生。一連の出来事がありありと浮かんでくる。


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