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第2話  面接

 

帝都トッキョーからすこし離れたところに、「シンズク」という町がある。

ここには地上から数十メートルも高く建てられた大きなビルがたくさん並でいる。いわいるオフィス街である。毎日多くのサラリーマンが集まり、さまざまところで取り引きや商談などが行われている。


 そして、シンズクのとあるビルの一室にて4人の男たちがいた。そのうちの3人は40~50代くらいの中年の男性だ。長方形のテーブルに横並びに座っている。

 残りの1人は十代後半の少年だ。少年の横には1人分の椅子がポツンと置いてあり、少年は中年男性たちの正面に向かい合うように立っている。

 中年男性たちの1人が少年になぜかすこし戸惑いがちに話しかける。


「えっと・・・・・とりあえず自己紹介してもらおうかな・・・・?」



「はい!都立バンジョウ高校から来ました。タチバナ・ユートです。本日はよろしくお願いします。」


 

少年・・・タチバナ・ユートは今年、学校卒業を控える高校生である。ユートは卒業に向けてこの会社に就職の面接に来たのだ。そして正面に座っている中年男性たちは会社の重役達であり本日の面接官だ。


 「えっと・・・・・タチバナ・ユート君だね・・・・。どうぞ座ってください。」


先ほどの面接官がユートになぜかすこし戸惑いがちに着席するように促す。ユートは「失礼します。」と言い一礼してから着席した。

 

 「えっと・・・・・どうしよ・・・なぜ君が我が社に入社しようと思ったのか動機を聞かせてくれるかな?」


別の面接官がなぜかすこし戸惑いがちに質問してきた。彼だけではない、ほかの2人の面接官も眉をひそめ困り顔でユートのことを見ていた。 

 しかしユートはそんなこと気にせずに質問に答えようとしていた。


 「はい。わたしが御社に入社しようと思ったのは、御社の”社員達には自由に楽しく働いてもらいたい”という社風に魅力を感じたからです。

  御社では社員達にはできるかぎりの自由を与えるために社員たちの休日希望を優先させようとスケジュールを調整したり堅苦しいのはなしと服装を自由にしたりと、社員たちのことを一番に考えた社風はたいへん素晴らしいと思います。

  近年の御社の利益が上昇しているのも、この社員を大事にする社風があってからこそ社員たちも仕事に励めるのだとおもいます。

  わたしも御社の社風を大事し、そして御社の成長に貢献できるように頑張ります。」


 (よしっ!噛まずに言えたぞ!)


 ユートは心の中でガッツポーズをとった。彼はこの日のために何十回も面接の練習をしてきたのだ。

 

 「なるほど・・・君の意気込みは伝わってきたよ。」


 「ありがとうございます。」


 「ではひとつ君に質問してもいいかな?」


 「はい。なんでしょうか?」




           「・・・・・・・・・なんで君、ジャージなの?」


 


  面接官全員がユートの服―――ジャージに視線を向けている。そのジャージは真っ黒で両腕と両足のサイド、襟のふちに金色のラインが入っている。そして背中には禍々しいドクロのデザインが大きく描かれていた。そう先ほどか面接官が困惑していたのはユートがジャージ姿で就職面接に受けに来ていたからだ。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そこ気になります?」

 

 「いやすごい気になるよ!うん!」

 「ぼく部屋に入ってきた瞬間自分の目を疑ったよ!」

 「俺はそのまま退室してもらおうか、ちょっと悩んだよ!」


などと面接官たちは次々と思っていたことをユートにぶつけてきた。


 「あの落ち着いて!すこし僕の話を聞いてください!これには深いふか~い事情があるんです!」


 「事情?どんな事情があるんだね?」

 

 「・・・・・じつは、このジャージは【呪いのジャージ】なんです。」


 「【呪いのジャージ】・・・だって・・・?」


 「はい。・・・・あれは僕が中学1年生のころ・・・・・僕の家は貧乏でそのことでよく同級生にからかわれていました。そしてある日、クラスのいじめっ子たちが僕への嫌がらせに僕の体操着をビリビリに破いたんですよ。」


 「それはひどいな・・・・」


 「・・・・・・・・・・・・まあ、彼らはあとで病院送りにしましたがね・・・・(ぼそっ」


 「君いま、さらっと怖いこと言わなかった!?」


 ”やられたら十倍にしてやり返す”ユートが母から教わった言葉である。ユートに同情しかけた面接官たちだがユートの発言にその気持ちも一瞬で霧散した。しかしユートはそんなこと気にせずに話を続けた。


 「うちは貧乏なんで新しい体操着を買う余裕なんてありませんでしたし、なにより母にこんなことで迷惑はかけたくないと思ってました。そしたら、学校の帰り道に偶然にも宝箱が落ちていたんですよ!」


 「いやいや!偶然は落ちてないでしょ!?宝箱!?」


 面接官がすかさずツッコミをいれる。しかしユートはそんなこと気にせずに話を続けた。

 

 「ぼくは『やったぜ!ラッキー!ひゃっほう!』と思い宝箱を持ち帰って家で開けてみました。すると中にはこの黒いジャージが入ってたんです。」


 「宝箱とかジャージとか少しは怪しがろうよ・・・・・」


 面接官が呆れ気味にツッコミをいれる。しかしユートはそんなこと気にせずに話を続けた。さっきからなにひとつ気にしていないユートであった。

 

 「さっそく、そのジャージを着てみました。・・・・そしたら脱げなくなったんですよ・・・・・」


 「脱げない・・・・・?」


 「はい。このジャージにはそういう呪いがかけられていたんです。正確には【一度着たらこのジャージ以外の服は着ることの出来ない体になる】そういう呪いです。」

  

 「おいおい・・・本当かい?その話は?」

 

 「本当ですよ。試してみましょうか?どなたか上着貸してもらえませんか?」


 ユートがそんなこと言ってきたので、面接官のひとりが着ていたジャケットをユートに貸した。


 「いいですか。見ててください。」

 

 ユートは上に着ていたジャージを脱ぎ貸してもらったジャケットを着た。するとどうだろうか。

ジャケットがバンッ!!!と音をたて破裂したのだ。


 「おおっ!?」「俺のジャケットがッ!?」 


 面接官たちがその光景を見て驚いている。その内の一人はショックを受けている。

 

「お分かりいただいたでしょうか?これが【呪いジャージ】の効果です。」


  ユートがジャージを着なおしつつ自分が言っていたことは本当だろと面接官に再度問いかける。

 

 「でも君、中にTシャツ着てたよね?」

 「それにタチバナ君、きみ下着とかどうしてんの?ま、まさか・・・」


 と面接官が聞いてきた。


 「ああ、下着とかインナーはセーフなんですよ。」


 (セーフなんだ・・・・・)(なんか雑な呪いだな・・・・・)


 ユートの返答に面接官たちはまたすこし疑いの目をむける。


 「なるほど・・・たしかに君の言っていることは本当みたいだね。」

 

 「信じてくれますか!」

 

 「ああ、信じよう。・・・・そしてタチバナ君、きみはもう帰っていいよ。」

 

 「えっ?それってどういう・・・・・?」


 「わからないか?ならはっきり言おう。君は”不採用 ”ってことだよ。」


 「なっ!?」


 ユートは驚きを隠せない。当然だ。面接はまだろくに始まってもいないのだから。


 「どうしてですか!?このジャージのせいですか?」


 「そうだ。君がそのジャージしか着れないというならウチじゃ雇えない。」


 「で、でもこの会社って社員の服装は自由なんですよね?それに面接時の服装も自由でかまわないと求人票にも記載されてましたよ!」


 「たしかにそうだ。実際、わたしも私服で出勤しているしね。」 

 

 「だったら・・・・・・」


 「でもね、タチバナ君。いくらなんでもジャージは非常識だと思わないか?」

 

 「そ、それは・・・・・・」


 「ウチは他の会社と商談することだってある。もしお客様の前でジャージを着た社員を見られたら、お客様から『なんだあの社員は不真面目じゃないか!場違いではないのか!』なんてクレームがくるかも知れないしね。」


 「・・・・・・・・・・・」


 ユートは黙って話を聞いていた。この面接官の言っていることは実際正しいと思ったからだ。


「悪いけど、今回はそういうことなんで。」 


「・・・・・・はい。わかりました。」


 ユートは席を立ち退室しようとした。そのとき・・・・・


 「待ちたまえ!」


 面接官のひとりが呼び止めた。


 「はい?」とユートは返事をして振り返った。

 

 「帰る前に俺のジャケット!弁償してもらおうか?」


 「・・・・・・あっ!」


 ユートの額に冷や汗がでてきた。

 

 「・・・ちなみに・・・お幾らなんでしょうか?」


 「七万八千円だ!」


 「ナナナっ!?」


 ただでさえ家は貧乏なのに一介の高校生であるユートにとって七万八千円は大金だった。。。。


   




 ―――――――(ここもダメだったか・・・・) 


 ユートはガックシと肩を落としビルから退館していた。その手にはジャケット代の請求書を握り締めて。今回のようなケースは初めてではない。

 ユートも呪いのジャージの件もあるので『面接時の服装自由』『私服での出勤OK』などの会社を選んで面接をうけているのだが、もう30回ほどさっきみたいなパターンで面接に落ちているのだ。

さすがに30回も落ちれば心も少し折れかかる。


(いや・・・まだ諦めるのは早い!仕事なんてまだまだいっぱいあるんだから!)


ユートの家は母子家庭だ。父親はいない。だから小さい頃から母は働きながら自分の面倒みてくれた。ユートはそんな母に感謝してるし、だからこそ進学せず早く就職して母を楽させたいと思っているのだ。


 「そろそろバイトの時間だ、帰らなきゃ。」


 またあとで新しい求人探さなきゃ・・・・とユートは考えつつ駅に向かい歩き出す。



 



 

 


 


 

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