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【12】「瞳子様がお呼びです」その2

 その後のことを簡潔に述べる。

 三宅の話によると、海の家で大量に買った食べ物は戦闘に伴い飛んできた砂を被り、とても食べられる状態ではなかったので、全て処分したそうだ。

 リボンに乗って飛び去ったこころたち三人は、月子の誘導でかねてより決めてあった人目につかない合流地点に降り立った。突発的な戦闘に備え、外出時は事前に合流地点を決めておくのだと言う。

 如月、三宅の乗るリムジンと合流。月子とこころは元より、こころにくっついていたほむらまでイカスミで汚れていたため、ビーチで使ったレジャーシートをリムジンの後部座席に敷き、三人を乗せて月影家に帰った。

 三人は大浴場へと直行。如月と三宅も一緒に入浴し、イカスミを落とすのを手伝った。

 途中、鼻血を出して三宅が退場するというハプニングがあったが、無事にイカスミを落とすことができ、三人はきれいな身体で風呂を上がった。

 月子などは、「落ちなかったら髪を切らないといけないかもしれない……」と、かなり深刻に凹んでいたのだが、意外にサラッと落ちた。

 着替えてさっぱりした三人を待っていたのは、メイドの「瞳子様がお呼びです」の言葉だった。月子はわかりやすくサーッと青ざめた。

 

 

     ☆

 

 

 瞳子の部屋。二十畳の何もない和室に、三人は並んで正座した。

 瞳子も「一日座っても足はしびれません」という顔で、ピシッと背を伸ばして正座し、相対している。

 ほむらはいつもどおりのマイペースな無表情だが、こころと月子は青い顔をしていた。今回の戦いは失敗が多すぎたと自覚しているのだ。

「二度目の“悪しきココロ”との戦い、誠にご苦労でした」

 静かな声で瞳子は話し始めたのだが、こころと月子にはそれがボクシングのゴングに聞こえた。

「“悪しきココロ”を撃退できたのは結果として良かったのですが……今回の戦いは、少々苦言を呈さねばなりません……こころさん」

「はっ、はいっ!」

 宙に浮きそうな勢いで、背筋をビッと伸ばす。

「いくら空腹だったとはいえ、具現化した“悪しきココロ”を食すなど、いったいどういうおつもりですか? 魔法少女が“悪しきココロ”を体内に入れたら何が起こるのか、わたしでさえ予想もできません。あなた一人の身ではないのです。軽率な行動はお控えください」

 言葉は穏やかだが、守護者としての月影家の立場をわきまえて憤りを抑えているのは、雰囲気でわかった。こころは畳に頭をつけてひれ伏した。

「ご、ごめんなさい! も……もう二度とあんな食いしんぼなことはしません! すみませんでした!」

 全身全霊で謝罪するこころに、瞳子は溜息をついた。

「敵は何に憑依するかによって、性質が大きく変わります。戦闘では何が起こるかわからないのです。あなた方は臨機応変に対応しなくてはなりません。冷静かつ適確な判断が求められるのです。不用心な行動は許されません。……おわかりいただけましたか」

「は、はいっ! これからは絶対変なことしません! 気をつけます!」

 頭を下げたままもう一度謝る。親や先生に怒られるより桁違いに怖かった。

「よろしゅうございます。次に……月子」

「はっ、はいっ!」

 ビクッとする月子。矛先が変わり、こころは安堵の溜息をついてそろそろと顔を上げた。

「何ですか、あの無様な戦いは? 頭を使いなさいと言ったでしょう? それが、大蜘蛛の糸と同じ類の、イカスミによる攻撃をまともに食らってしまうとは何事ですか? 前回の反省が全く活かされていません。臨機応変に対応するどころか、同じ失敗を二度してどうするのですか? あなたにはこころさんをお守りする大役があるのですよ? 戦闘の場であなたが先に倒されてしまったら、誰がこころさんをお守りするのですか? 己の力を過信しているから油断が生じるのです。猛省なさい」

「は、はいっ! 慢心しておりました! 以後の戦いは敵の性質をよく見極め、守護者として最善を尽くします!」

 イカスミを浴びたのはこころがバカなことをしでかしたためなのだが、月子は言い訳しなかった。もっとも、言い訳などすればさらに怒りを買うだけだということは、月子も承知している。

「それに、人が捕らえられているのに何故火炎魔法のほむらを呼ぶのですか? 安全を考えて、冷気魔法の雪乃を使えばよいではないですか? 頭の中にイカ焼きがあるから、火で焼こうという考えしか思いつかないのです。そんないやしいことで戦闘中に正しい判断ができますか? あなたは剣を振るうばかりが役目ではありません。皆を指揮しなくてはならないのです。何度も言うようですが、頭を使いなさい」

「は、はい……反省いたします……」

 月子は真っ赤になって謝った。単細胞のように言われたのがいたく恥ずかしかったようだ。

「月影家の名に恥じない戦いをなさい。さて、最後に……ほむら」

「……」

 驚いたことにほむらは、瞳子に名を呼ばれても返事をしなかった。ニュートラルな表情で瞳子を見返す。

「先ほど言ったとおり、今回の戦闘では火炎魔法は最適ではなかったかもしれません。しかしあなたは能力をよくコントロールし、女性たちも月子も怪我させることなく、敵を弱らせることに成功しました。現場へも迅速に駆けつけています。良い働きです、ご苦労でした」

「……」

 ほむらは一センチくらいうなずいた。

 無礼な所作を瞳子は別に咎めもしない。月影家でほむらは特別扱いされているようだ。

「各自、よくよく今回の戦いを反省し、今後に活かしてください。わたしの話はこれで終わります。昼食も食べずに戦ったと聞いています。こころさんも、どうぞ月子たちとご一緒にお食事を召し上がってからお帰りください。……あと、月子」

「えっ、あっ、はいっ!」

 気が緩んだところへ名を呼ばれ、月子は焦って返事した。

「髪くらいちゃんと乾かしてからいらっしゃい。わたしが呼んだからといって、そこまで急ぐ必要はありません。身だしなみを整えるのは女子のたしなみです。第一、風邪など引いては役目がおろそかになります」

 戦闘についての小言ではなかったので、月子はホッとした。

「いえ、お母様、これはよく乾いております」

「そうなのですか? ずいぶんと艶があるように見えますが?」

「それはたぶん、イカスミの効果かと……」

 瞳子が眉を寄せ、険しい顔をした。

 うっかり、「イカスミのおかげ」と受け取られかねない発言をしてしまい、月子は後悔した。

「……余計な話をしました。月子、こころさんとほむらを食堂へお連れなさい」

「は、はい」

 それ以上咎められることはなく、月子はこっそり安堵の溜息をついて立ち上がった。

 

 

     ☆

 

 

 三人が出て行くと、部屋の隅に控えていたメイドが瞳子のそばに立った。瞳子がいつもそばに置いているメイド、美園みそのである。

 かかとを揃えて姿勢良く立ち、お腹の前で手を重ねて待機のポーズを取る。いつも空気のように静かに瞳子が指示を与えるのを待っている、メイドの見本みたいな人だった。

 瞳子は三人が出て行ったあとも正座して、何かを考えているような顔をしていたが、しばらくして美園の方は見ずに口を開いた。

「……イカスミというのは、髪に良いのですか?」

 美園が柔らかく微笑んで答える。

「イカスミは旨味があるので、様々な料理に用いられます。旨味の元はアミノ酸です。イカスミはアミノ酸を豊富に含んでいるので、それが髪に良い効果を与えるのでしょう。イカスミを含んだシャンプーなども販売されていると聞いたことがあります」

「……そうなのですか」

 瞳子はそれ以上この話題には触れず、立ち上がって部屋を出た。美園があとをついていく。

 美園は、あとでイカスミシャンプーを通販で購入しておこうと思った。

 長く瞳子に仕えている美園は、喜怒哀楽をあまり表に出さない主人の意向を読み取る能力に、他のどのメイドよりも長けているのだ。







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