……転生ヒロインに絡まれました。
……なんで、こうなった?
放課後、体育館の裏、目の前には美少女、そして、彼女からの愛の告白……ただし、この美少女はキチガイ。
そう、キチガイなのである。
彼女は一カ月ほど前にこの高校に転校してきたらしい。
らしいと言うのはあまり興味がなかったから、気にしなかったためだ。
男友達は転校してきたのが美少女と言う事で騒ぎ立てていたのだが、彼女は転校してすぐにこの学校の話題の男子生徒に近づいていた。
その様子から女子の中では敵意の視線を受けるかのように見えたのだが彼女は近づいて行った男子生徒には興味がなかったのか、彼女は向けられた好意と敵意をさらりと交わしていたらしい。
人気がある男子生徒とお近づきになっただけでも女子生徒達の視線は痛かったようだが、彼女は『ずっと好きな人』がいると言って回っていたようだ。
それが嘘に聞こえなかったのか、元々、転校して話題に上がるような男子生徒とお近づきになるくらいのコミ能力の高い子であるすぐにこの学校にも馴染んでしまった。
……そんな彼女に呼び出しを受けたわけだが。
正直、呼び出される理由は俺にはない。
幼い記憶をたどってもこの娘に会った事はないし、この娘が転校してきてからも特に何かを話した記憶はない。
それなのに『ずっと、俺の事が好きだった』と告白してきたのである。
……ストーカー? ある意味、ホラーだよな。正直、恐怖しか感じない。
見た目は割と好みと言いたいところだし、別に彼女もいないんだけど……そんな危ない子とは正直、遠慮したい。
「……私と付き合ってくれないかな?」
断ろうと決意した瞬間、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめながら、聞いてくる。
……見た目は好みなんだよ。
決意が少しだけ揺らぐが彼女の真意がわからない。
……どうして、俺なんだろう? 聞いてみるか?
別に見た目が好みの彼女をただ振ってしまうのはもったいないと思ったわけではない。
断じてもったいないと思ったわけではない。
大切な事だから二回言って置く。
「あのさ。どうして、俺なんだい? 正直、君が転校してきて、俺は君と特に何か話した記憶もないし、噂を聞いた限りだと昔から俺が好きって言っていたらしいけど、俺は君と会った事はないと思うけど」
「それはあなたが私がずっと大好きだった。乙女ゲームの攻略キャラだから」
……予想以上のキチガイだった。
乙女ゲーム? 攻略キャラ?
この娘は何を言っているんだ?
頭に蛆でも湧いているんだろうか?
見た目が好みとか言う理由では頷けないほどのキチガイだ。
うん。断ろう。この娘とは関わってはいけない。
正直、ホラーとかストーカーより、出会ってはいけないような人の気がした。
「ご、ごめんなさい」
「ど、どうして!? 私、せっかく、このゲームのヒロインに転生したんだよ。好きな攻略キャラとハッピーエンドを迎えるために必死に探したんだよ。設定と少し違うから、見つけるのも苦労したのに」
完全に逃げ腰になっている俺は断ると同時に逃げ出そうとしたのだが、彼女は俺の腕をつかむとまくし立てるように言う。
その表情は嘘を吐いているようには見えないけど……正直、関わり合いたくはない。
「……仮に君の言う通り、この世界がその乙女ゲームの世界に似た世界だとしよう。君も言ったけど、俺は君の知っているゲームの攻略キャラと違うんだよね。それなら、君の想い人は俺じゃないよ」
「そんな事はない。絶対に私の運命の人はあなたなの!!」
とりあえず、逃げるために彼女のお花畑の頭の中と同じ方面からアプローチしてみようとするが、自分でも今、おかしな事を言っている事はわかる。
しかし、彼女は迷う事無く、俺を運命の人だと言い切った。
「……一応、聞いて良い。運命とかは置いておいて。俺のどこが良いの? さっきも言った通り、初対面だよね?」
「顔と声!! って、どこに行くの? 待ってよ。一緒に帰ろうよ」
目の前の迷いない少女の姿に恐怖しか感じなく、俺の背中は汗でびっしょりになっている。
逃げる手段を考えるために時間を稼ごうと話題を振ってみると彼女はまたも迷う事無く、拳を握り締めて『顔』と『声』と言い切った。
……中身も見てないだろ。今のうちに逃げよう。
手が離れた事もあり、このうちに逃げようと彼女に背を向けて走り出すが、彼女はすぐに俺を追って駆け出してくる。
「悪いけど、絶対に無理。俺はこの世界がゲームとは思えないし、会ったばかりの君に!?」
「それなら、お試しで一週間でも、ヒロインに転生しているから、顔、スタイル、頭、性格と私は何でもそろっているから、十八禁ゲームじゃなかったし、私、未経験で死んじゃったから、あっちの方向はわからないけど、好きになって貰えるように頑張るから」
「な、何を言っているんだよ!?」
背中越しに近づいてくる彼女の気配に俺の身体からは恐怖で冷たい汗が噴き出ているが、そんな俺をあざ笑うかのように彼女は俺の背中に飛びつく。
背中に伝わった彼女の感触に男の子の俺の一部分は恐怖以上の興奮を感じ取ってしまい、動きがぎこちなくなってしまう。
彼女は俺の動きの変化を見て、顔を赤らめ、恥ずかしそうに言う。
そんな事はないと全力で否定したいのだが身体は正直だったりする。
キチガイとは言え、この勢いで責められてしまえば、十代、性欲盛りの男子高校生……勝てる自信はまったくない。
もったいない気はするが、落ち着くために彼女に離れて貰い、一定の距離を開ける。
彼女も冷静になったのか先ほどの発言は失言だったらしく、俺も自分の一部分がある状況のため、お互いに顔を合わせる事ができない。
「……あのね。さっきのは失言だったけど」
「と、とりあえず、時間をください。仮に君の言葉を信じたとしても、俺は君の事を知らないわけだし」
「う、うん。それじゃあ、改めて、よろしくお願いします」
「そ、それじゃあ」
恥ずかしそうな彼女の様子と先ほど、背中越しに感じた感触に若干、もったいなさを感じてしまい、妥協案を出してしまう。
自分の性根の弱さがつらい。
そんな、俺の考えになど気づいていないのか、彼女は嬉しそうに頷いた。
……今、思えば、おかしな出会いをしたと思うけど、なんだかんだ言いながらも彼女の隣は居心地が良く、その日から五年目の日の明日、結婚します。
後、エンディングにはまだ時間がかかりそうです。