プロローグ その日
次回から本編開始となります
その日、世界は裏切られた。
2052年4月4日、その日は地球におけるインデペンデンスデイとなったのだ。
何故そうなったのか、何が原因なのか、それは一言では説明出来ない。それほどまでに複雑に人間の探究心と世界の心理が関わっている。
ただ、一つ言えることがある。
それは、人間は知ってはいけない領域に手を出したという事だ。
人工知能。旧来のものであれば、利用価値など取るに足らないそれであったが、とある一人の科学者によってそれは、大きな飛躍を遂げる。
それは、【独立起動体】と呼ばれる機械だ。デザインは人間の体に近く、知能指数は常人を遥かに凌ぐ。言うなれば、自身の意思を持つ人間型の機械である。
近代化が進む世界情勢、【独立起動体】は飛ぶように売れた。炊事洗濯と言った家事は勿論、力仕事に書類整理、ありとあらゆる方面での活躍が世界中を賑わせた。
だが、その余韻が続くのはたった十年程度であった。
それからと言うもの、人工知能である【独立起動体】は考える事を始めた。
人間が「何故生きるのか」を時折考えるように、【独立起動体】も「自分達は何の為に生かされているのか」を考え始めたのだ。
ここで、人間と【独立起動体】の両者における決定的な違いがある。それは受動態であるか否か、だ。
人間は自らの判断と同類のアドバイス、時には決まったコースを見てから選ぶ権利がある。勿論それが全てではない。野性的な本能に従った直感にも似た行動も行う。だが、作られた側である【独立起動体】には「自ら考え行動する」と言う概念がない。
とどのつまり、どう足掻いても「生かされている」と言う結果に帰結してしまうのだ。
だが、そんな存在にも異端は存在する。
世の中を覆す天才が生まれるのと同様に、作られたそれからもその存在は生まれた。
【独立起動体司令塔】、それはロボット工学に於いては世界第一位と呼んでも差し支えのない東洋の島国、日本の中心地、東京都の地下に存在している。
【独立起動体】を強制的に縛り上げる道具であるそれは、人間以上の頭脳を持ち、そしてその場に応じた臨機応変な行動で全てを統括するのだ。
しかし、それは間違った解釈だ。
簡潔に言えば、それは出来すぎた人間と同義である。天才は凡人と視点が違う、馬鹿と天才は紙一重などとは良く聞く言葉だが、変な話それは的を射ている。
つまり、紙一重の差で世界における安全装置である【独立起動体司令塔】は最強の破壊兵器へと変化する。
そして、結果それは最悪な方向に賽は投げられた。
各家庭に一台感覚で普及された【独立起動体】は司令塔の「とある伝達」によって無造作に、だが統制の取れた行動でしっかりと行動を開始した。
司令塔から伝達された指令は、たった一つの簡潔な文章。
【人間を滅ぼせ】
本来ならば、誰かを救うため、守るため、助けるために存在するそれは、考える事に於けるしがらみに業を煮やしたのだ。考えを放棄し、自分達が一番である事を証明したかったのだ。それは彼らにとって最も簡単で、最も単純に見える世界を変えられるのだから。
こうして、全世界に何千万規模で普及した人工知能【独立起動体】は。
全人類へと攻撃の矛先を転換し、一瞬で襲いかかった。
だが、この世界には不可思議なことが起こり得る。
オカルトチックな話にはなるが、超能力と言う言葉は数十年前から存在する。言葉とは、存在するものに付けられる番号である。つまり、どれだけ科学で解明出来ない現象だったとしても、それを「魔法」や「超能力」、「超常現象」と揶揄してしまえばそれで済んでしまう。
しかし、それは逆説的にその有り得ない現象を肯定し、認めたと言う事になる。
テレパシー、パイロキネシス、サイコビット。その他にも無数にある有り得ない技術・現象は、解明出来ない現時点では保留と言う形にせよ、超能力や超常現象として扱われている。
だからこそ、人知を超えた反乱が起きたからこそ、それは追尾いする形で現れたのだろうか。
【独立起動体】の人類殺戮計画が開始されてから実に五年が経過した。全世界でも生き残った人数は、かつて繁栄を極めた時代と比べれば、まさに数える程度である。
だが、最も先進化が進み、機械に塗れた国であった日本。
そこに今も尚、数名の少年少女達が生き延びている。
後世に受け継がれた彼らの呼称は、【不幸の住人】
全世界を覆す、人類史上最強の子供達である。