僕の同居人は殺人鬼
後書きに設定があります。見なくても見てもOKです。
僕の同居人は殺人鬼です。
名前は無いのでリィナと名付けました。年齢も分かりませんが多分10歳程だと思います。
闇の様な黒髪はあちこちに跳ねていますが柔らかく、白い頬っぺたは丸くふくふくしていて蒼い目は大きな、可愛らしい女の子です。
だけど外見に騙されてはいけません、要注意ですよ皆さん。
なにせ彼女は国が捕まえようてしている殺人鬼なのですから。
「リュー、おなかへった。」
そう言って小さな手を僕に伸ばし抱っこをせがむ彼女は、頭から足先まで血濡れです。
「…リィナ、目を離した隙に何をしているのかな。」
自分でもうんざりした声に聞こえます。でも仕方が無いでしょう。
そこかしこに転がる人間“だった”肉片や内臓達。動くとパシャリと波打つ程の血の海。
買い物中でも手を繋いでおくべきでした。
「おに。」
リィナは肉片を指差します。
「また鬼ごっこかい?リィナ、貴女は僕との約束を忘れたらしい。」
顔に飛び散った血をハンカチで拭いてあげます。
すっきりしたリィナの顔に僅かばかりの不安が過ります。何を怒っているかまでは分かっていないらしいですが僕が怒っていることに気付いたのでしょう。
「僕と一緒にいる限り、鬼ごっこはしない、って約束しただろう。君は約束を破ったんだよ。」
知恵が年齢に追いついていないリィナにも分かるようゆっくり話します。すると、リィナの大きな目にみるみる涙が盛り上がり長い睫毛にふるふると揺れ始めるではないですか。
いや、ですが、ここで許してはなりません。今後の為に注意をしなければ。僕は捕まりたくないので。
「…っりゅ、りゅー、いない。いっしょちがう。おにっ、ひっぱ、る…リィナいやいやし、た。」
ひくっ、と喉が鳴るとついにリィナの目から涙が零れ始めます。
しかし、成る程。
つまり「一緒」とは彼女にとって「片時も離れない」と言う事であり、彼女に肉片にされたこの人達はよりにもよってリィナを拐おうとした憐れな男?女?と言う事でしょう。
残念ながらこの街は治安が良くない国の中でも上位に治安が良くありません。
加えてリィナは天使の様に可愛らしい顔ですからね。
愚かで憐れな者達の絶好の獲物(に見える)でしょう。
…引っ越しましょうかね…。
けれど、リィナと暮らし始めてもこの街に居続けるのは彼女の為にわざわざ引っ越すのが何だか悔しかったからだと記憶しています。
いやだって、ホラ。
一緒に住むようになったのはリィナが僕に懐いたからでして。
勝手に住み着いた殺人鬼に出てけと言える程勇気もない訳でして。
じゃぁ自衛団に連絡しろよ。なんですが後が怖いし、と言うより何故か最初からその気はおきなかった訳でして。
そんな自分の最後のプライドと言いますか、抵抗と言いますか…。
そう考えていた時シャツを下から思いきり掴まれ沈んでいた思考から浮上した僕が見たものは、
ボロボロと大粒の涙を流しながら必死に僕に登ろう(多分抱っこ)としているリィナでした。
「ちょ、血が。シャツに血が。」
慌ててシャツを握るリィナの手を剥がそうとした僕にリィナの嗚咽が届きます。
「…ひっ、やぁ、りゅっ、ふぅ…っ、やぁ、りゅ、ぅっひぐっ。」
「……………。」
剥がそうとした手を離し、代わりにリィナが首を必死に横に振ったせいで丸い頬に張り付いた黒髪を優しく剥がします。
そのままリィナのお尻の下に腕を入れ持ち上げ目線を合わせ、コツリと額を合わせます。
僕も血だらけになるのはこの際気にしません。
「リィナ。」
「…ふ、ぅうっ、…っく、…っ」。
リィナは右手の指を口の中に入れながら泣いています。不安な時などに爪を噛むのは幼い彼女の癖です。
「リィナ、大丈夫。置いていかないから。」
極力優しく聞こえる様に話しかけます。
多分、僕がぼぅっとしていたため怒った僕に(何か)悪い事をしたであろう自分が置いて行かれると思ったのでしょう。
「リィナ、気付いてあげられなくてすみません。けれど人を殺してはならないんだよ。」
「リ、リィナっ、いやいやし、た…っく。」
「そうだね。だけどリィナなら、お兄さんやお姉さんを細かくしなくても逃げられた筈だろう。」
リィナの口に入っていた右手を口から出し、涎にまみれたその手を掴みます。噛まれすぎた爪は深爪よりも更に深く、小さな指からは血が流れていました。
「それに、鬼ごっこは僕とリィナだけの遊びにしましょうと約束したよね?」
深い蒼い目を覗きながら聞くと、また新たな涙が盛り上がってきます。
まるで海の底から太陽を見上げたかのようにキラキラと、ユラユラと揺れる其れに説教の最中だと言うのに見とれてしまいます。
「ひぐっ、ぅうー…っ!ふっ、ふぇっ!」
ついに本格的に泣き出してしまいました。こうなれば取り敢えずリィナを泣き止ませなければならないでしょう。
僕は泣きすぎて赤くなった目尻に、同じく赤い鼻頭に、額、頬、顎。順々に口付けしていき、血で湿った短いフワフワの髪を撫でます。
彼女には“悪”が存在しません。何処までも気分屋で無邪気で純粋で命を消すことが悪いと言うことを、自分が行っている行為が如何におぞましく恐ろしいか知らないのです。
そう育て上げられたのでしょう。2年程前、裏の世界の人間達が殺され続けるという事件がありましたから。
『鬼ごっこ』
それは言葉通りに“鬼”と彼女の遊び。
『おにごっこ、する?』
真ん丸な目でそう質問する彼女はいつもの甘えたや子供っぽさが抜け、背中が痺れる程の妖しい艶やかさがありました。
ここで思わず頷けば、彼女が“鬼”
子供とは思えない身体能力で相手を捕まえるまで追い続け、一思いに死ぬこと無く追われる恐怖を味わいながら。
拒否したり答えなければ相手が“鬼”
捕まえよう、殺そうとすれば悲鳴を上げる事なく下に飛び散る彼等の様に。
どちらにしても生き残った人は居ません。…僕以外に。
僕は「目撃者」でした。
所謂、僕は情報屋と呼ばれる人間でありまして、あるお方の情報を売った所(今思い出してもレアでした)、バレてボコボコにされ連れ去られ監禁されまたボコボコにされたのです。
一気に殺さなかったのは僕の持つ情報が必要だったからでしょう。
それは置いとき、監禁され連日続く拷問で体力の限界に達した僕が『あー、駄目ですねコリャ。』と白旗を上げようとしたその時。
「おにごっこ。」
鈴を転がした様な声が暗い地下室に響いたのです。
いつの間にそこに居たのか、否、どうやってここへ入ってきたのか。
悪趣味にも僕の拷問を目の前で眺めていた爺、僕が売った情報の当人(名前を出すのも憚れる程裏では有名でした)が座る革張りのソファの目の前に
白いワンピースを着た裸足の少女が立っていたのです。
突然現れた少女に当たり前に騒然とする周り。黒スーツの男達が爺を素早く囲みます。
何者かと問う怒声や向けられる銃に構わずもう一度、今度は首を傾げながら少女は問いました。
「おにごっこ、する?」
そう微笑んだ少女に目を奪われたのば僕だけではない筈です。
しかし、いち早く現実に戻った男が少女に近づき
「訳わかんねぇ餓鬼だ!!何が鬼ごっこだ、死ね!!!」
そう、言ったのと、倒れている僕の目の前に男の顔の上半分が飛んできたのは同時だったと記憶しています。
顔の上半分を無くした体は舌をダラリと出し血を噴き出しながらゆっくり爺へと倒れ込みました。
そこからはもう、阿鼻叫喚。
気付くと僕までも血の海に浸り、地下室の中は火薬と生臭い臭いが充満していました。
肉や臓物はヌラヌラと不思議に鈍く光り、唯一、白い布が引っかかる肉片があの爺であったと分かります。何故なら爺は白い仕立ての良いスーツを着ていたのですから。
呆然とする僕の目の前の海がパシャリと跳ね、小さな足が目の前に現れました。
見上げると顔中真っ赤に染まり、フワフワの髪がペタリとなった少女が無表情に見つめ
「あなたも、おに?」
そう、聞いてきたのです。
その時の僕は色々麻痺していたのでしょう。恐怖よりも勝ったある思いが通常なら有り得ない僕の行動を取らせました。
「手、ほどいてくれます?」
後ろに縛られた手を彼女に向け聞きます。
瞬いた後彼女は血濡れのサーベルナイフで縄を切ってくれました。警戒心がないですね。
そして僕は、いきなり彼女を抱き上げたのです。
いきなりの行動に彼女は咄嗟に僕の肩に掴まり大きな目を零れんばかりにし、僕を見つめました。
そんな彼女に頓着せず、先程まで傷1つ無かったボロボロのソファに彼女を座らせ、まずその顔を拭い出したのです。
まぁ、拭っていたのが僕のYシャツなのは仕方無い。
ある程度綺麗になった少女に満足し、ポカンする彼女の今度は裸足の小さな足を拭いました。
そして誰かのものであっただろう革の靴を軽く磨き彼女の足に履かせたのです。
「…靴を買いましょう。」
「?」
キョトンとした少女は実に少女らしく、フっ。と笑いながらビショビショの彼女の髪を指で梳き僕は言ったのです。
「服もそれじゃあ汚れています。もっと貴女に似合うワンピースも買いましょう。鬼ごっこはそれからでも良いでしょう。」
ああ、髪も洗わなければ。
死ぬ恐怖はありませんでした。
目の前で人間がまるで玩具のようにバラバラにされていくのを見ておきながら、目の前の恐ろしい殺人鬼はその時僕にとって何処までも“少女”だったのです。
僕には彼女がこんな汚れた格好だと言う方が、何か大変な事の様に感じました。
そして、何も言わない彼女をボロボロの体の僕が抱き上げ地下室から夜の外へ出たのでした。
その後僕の家へ行き綺麗になった彼女のお腹が鳴った事で、簡単な手料理とデザートのアイスを与えたりしました。
餌付けに成功したの分かりませんが再び彼女が鬼ごっこをするか尋ねる事は無く、僕の家に居着くと言う状態になったのです。
正気に戻れば何と言う事をしたのか、どうすればいいか、と後悔しました。麻痺した恐怖が戻ってきましたが彼女が僕を害する気は無さそうなので取り敢えずどうでも良い気分になってしまったのです。
それに、保護者は?と聞いた時の彼女の捨てられた子犬の様な目を見ては何も言えません。
多分彼女をこのように育てた人間がいたでしょうが、ある組織(表向きは普通の会社)の人間が皆殺しにされたニュースを見て何も考えない様にしました。
こうして、彼女は僕の同居人となったのです。長い回想でした。
血濡れである事を抜かせば目の前で泣きじゃくる少女を誰が殺人鬼と思うでしょうね。
僕は長い回想の間にもリィナの顔中にキスをし、出血している指を口に含み血を舐めとりました。
「今度綺麗な色のマニキュアでも買いますかね。」
ちゅ、と口から指を出し独り言を言います。するとまだ嗚咽しながらリィナが問うような目でこちらを見てきました。
「爪に色を塗るんだよ。リィナに似合う可愛らしい色を一緒に探そう。」
そうすれば爪は噛まなくなるかもしれません。
常識と言うものを学ばなかったのだろうリィナは、子供らしく好奇心が旺盛なのです。
僕の言った言葉にパッとリィナの顔が晴れます。ただ、目にはまだ少しの不安がありますが。
僕はそれを除くため優しく彼女を抱き締め、あやすように背中を叩きます。
「心配したんだ、リィナ。貴女はとても強いけれど万が一怪我があったら僕は悲しい。」
悲しいと言う軽い感情では無い。僕は多分もっと汚くてドロドロした感情に支配されてしまうでしょう。
仕方無しに、恐ろしいから一緒に居るなどと言う事が自分の中で言い訳になったのはいつからか。もしかしたらあの血溜まりの地下室ですでにそうであったのかもしれません。
「リュー、かなしい?」
濃い蒼い目が僕の薄い蒼い目を覗きます。
「ええ。とても、悲しい。」
悲しい。
殺人鬼を手離せない自分を悲しいと思えない事が。
無邪気で純粋でとても残酷な彼女をドロドロとした感情で穢してしまう自分が。
「リュー。」
リィナの柔らかな唇が僕のソレと重なりました。
「…っ!リィ、」
「リィナ、リューといっしょいる。」
ちゅ、ちゅ、と愛らしい音をさせながら僕を安心させるよう優しく二・三度と口付けられました。
僕は離れようとしたリィナの後頭部を強く引き寄せ、自分の感情をぶつけるかの様に唇を貪ります。
長い時間貪り、最後にリィナの舌をひと撫でしてから離します。
「…そうだな。俺とリィナはずっと一緒だ。」
言って、スリと鼻同士を擦り合わせます。
「…うん。」
初めての感覚にとろんとしていたリィナはそれでもしっかり僕の目を見て微笑みました。
「帰ろうか、リィナ。」
「ん、いっしょに。」
「ふふ、一緒に。」
今が夜で良かったです。
それは僕達が血だらけなのを見られない事もそうですが、誰かにこんな幸せそうな顔をしたリィナを見られたく無いから。
あぁ、狂っている。
けれど裏社会の情報屋など、ある程度狂ってないと務まらないでしょう。
なんて、また1つ言い訳を増やして。
「ご飯、何が食べたい?」
「みねすとろぉね。」
「ミネストローネだね。」
小さな少女を抱き締めながら僕は家へと帰る。
足下の海に波紋をたてながら。
僕等の家へ。
僕の同居人は、可愛い愛しの殺人鬼です。
リューディ・マロエイ(23)
優秀な情報屋
金髪に空の様な蒼い瞳で顔立ちは甘めでまぁまぁ整っている。チキンだが腹黒。チンピラに勝つくらいは喧嘩は出来る。
最近の悩みは自分がロリコンと言う事(リィナ限定)
リィナ(15)
どこかの組織に飼われていた殺人鬼。外見は10歳程だが実年齢は15歳短い黒髪であちこち跳ねている。海の様な蒼い目の可愛らしい顔付き。
悪い事の判断がついていない。リューディに懐いたのは初めて優しくしてくれた人間だから。
++++
いかがでしたでしょう(^-^)
ホントるーとは無邪気で残酷な設定好きだな…笑
思いつけば続編を書こうと思います。