◆二十話
「唐突に思い出したんだけどさ……」
「ん?」
「あの他人の事これっぽっちも考えない横暴馬鹿女神って、ここじゃどういう印象なのさ?」
言い終わるとほぼ同時に、ツァンドさんが盛大に吹き出した。
「…………」
「あははっ、ごめんごめん。いやー、言うねぇ。“創世の女神”の事を“横暴馬鹿女神”と呼ぶとはね。いやはや、流石と言うべきかな?」
「そんなに笑われるような事言った?」
リディアにそう尋ねると、彼は無言で一度だけ頷いた。
「ツァンドが笑い上戸なのも有るだろうがな」
とフォルトが付け加えた。当のツァンドさんはというと、未だに笑いは止まらないらしく、それどころかテーブルに突っ伏してぴくぴくと震えている。そんなに笑うなと言いたい。
ツァンドの隣に座っているフォルトが、いい加減痺れを切らしたのか、大きく一つ溜息を吐き、ツァンドを一睨みしてから言った。
「お前が言ってるのは、女神・クレフの事だろう?」
「らしーね。前にアクリアが言ってたよ。何? アイツ、そんなに偉いの?」
「お前の基準でどうかは分からんが、この世を創ったとされているんだ。それなりだろう」
「あぁ、未だに笑ってる誰かさんがさっき言ってた“創世の女神”ってヤツね」
こくりとフォルトが頷く。ツァンドは私の言葉通りまだ笑っている。一体いつまで笑っているつもりなんだ、この人。私の中のツァンドさんの株がだんだん下がってるっちゅうに。
「時々……至極稀に地上にもその姿を現すらしいが、その時には“クレフ・クレシュエンド”を名乗ると聞いている」
「アキエスの源流だもんねー。“クレシュエンド”名乗って当然か」
「だな。他にはもう大丈夫か?」
大丈夫、というのは質問もな事だろうと思った私は、次にいつこの人達に会えるか分からない為、聞けるだけ聞いておこうとも思った。聞ける機会を逃してしまってはきっと聞ける事も聞けなくなるのだから。故に私は脳をフル回転させて、何か他に聞きたい事――聞くべき事が無かったかを思い出す。
「あ、そうだ!」
そうして思い出した事柄が一つ。これ以外は思い出せない為、とりあえず現時点での最後の質問。
使い物にならなくなったツァンドさんに代わってすっかり進行役になってしまったフォルトへと、私はその疑問を投げかけた。