◆十二話
アクリアの話を聞いた後、私はずっと呆けていたらしい。気が付いたら宿に戻って来ていた。しかも夕方になってた。
夕飯の後にリディアに詳細を聞いたら、彼が半ば引きずるように連れて帰ってくれたとか。マジ感謝……。
ちなみに今は既に日付が変わった後。異世界生活三日目である。
「世界の末路、かぁ……」
まだ来て間もない異世界。その命運が私にかかってると言われて、誰がそれを実感出来よう。そもそも自分が何の為にこの世界に送られたのかも分かっていないというのに。
ぼけぇーっとしながら部屋の天井を眺めていると、部屋の扉がノックされた。
「ヒヨリ、居る?」
扉からひょっこりと顔を出したのはリディアだ。
「うにゅ?」
「ヒヨリ。とりあえずその格好、変」
変とは失礼な。起き上がらずに首を反り返らせて頭側の扉んとこに居る君を見ているだけではないか。……充分変だね。
「うー…よっと。……んで、何用かな?」
仕方なく勢いを付けて起き上がり、リディアに尋ねた。
「昨日言われた内容の要点言いに来た。どうせろくに聞いてなかったんでしょ」
「…………覚えてるの?」
「アクリア王女が言ったのを一字一句違わず言える自信有るけど」
すげぇ。私には絶対出来ない所業だ。勉強も詰め込み型だったもん。
入室うんぬんの許可がどうとか言わずに、リディアは部屋に入って来て適当な場所に座った。
「…………リディアってさぁ」
「ん?」
「ませてるよねぇ……」
「よく言われる」
言われるのか。やっぱりみんな同感なのか。
「んで、アクリア王女の伝言だけど」
「あっ! うん、忘れるトコだった……」
「忘れるの早すぎでしょ……」
うん、ついさっきの事なのに思いきり忘れてた。すんません。
まぁ、私が言い訳をする前に、リディアが昨日の話の内容を言い始めた。
「んで、まず一つ目。能力に名前を付ける事」
「なにゆえ?」
「出鼻挫かないでよ……。なんでも、名前を付けて能力の“存在”をはっきりさせないと能力の効果を発揮出来ないとか」
めんどくさっ!!
しかしながら、名前を付けない事には能力が使えないとアクリアは宣ったらしい。仕方なく、リディアの話を聞きながらにでもそれを考える事にした。
「二つ目。“予言”についての詳しい事は、ヒヨリが関わっちゃってる“予言”に同じように関わってる奴が居るから、聞きたかったらそっちに聞いてくれって。男二人組の片方らしいけど」
「げぇーっ……」
男二人組と言われて真っ先にフォルトとツァンドを連想してしまった。多分あいつらじゃないのに。つか違う事を祈る。
ま、男二人組はあいつらに限った事じゃないから、きっと大丈夫だけども。もう軽く因縁に近い物が有るからね、昨日の事だけど。仮に奴らだったとしてもフォルトでない事を切に願う。
「次いい? 三つ目。何か有ったら気兼ね無く自分の元を訪れる事。力になれそうならやれる事をやってくれるとか」
「え、マジ? アクリア嬢が後ろ盾になってくれると!?」
「嬢って……まぁ、そういう事なんじゃない?」
やべぇ、すごい嬉しい。あの人が後ろ盾だったら相手が何であろうとほとんど勝てる自信が有るわ。一部無理なのも居るだろうけど。
「あとは?」
「大まかには以上。強いて言うならば今話した三つの細かい説明くらいだけど、ヒヨリそういうの嫌いなタイプでしょ?」
「なぜ分かる!!」
エスパーかこの子は。それか観察眼に優れているか。
「いや、ヒヨリって、フツーに説明とか嫌いそうだし」
「本は親友だろう。面倒臭いのは嫌いだが」
「…………そういうタイプね…」
こら、何かを悟ったような目で見るでない。そういうタイプだけどさ。
「そういや、これってどういう能力なの?」
昨日帰ってから首に下げたペンダントを襟元から引っ張り出して言った。
「オレ達一般人は普段能力のお世話にならないんだから分かる訳無いでしょ……。王女は“何でも出来る能力”とか言ってたけど、そんな強引な能力聞いた事が無いよ」
「…………似たような能力を既に持ってるよ……」
あの女神に押し付けられた能力が。《リンク》という名の“何もかもが有る”、もとい“何もかもを作れる能力”が。私の解釈からそういう言い方に変えただけだけど。
「……何でも出来る、ねぇ」
「もういい? オレ、部屋戻るよ」
そう言ってリディアは私の部屋から立ち去った。
残された私は、結局さっきと同じ事を考えるしかなかった。
しかし、実感の無い事を考えても結論など出る訳も無く。
半ば仕方なしに、能力のネーミングをする事にした。
……私、三日でこの世界に馴染んでる気がするのは気のせい?