◆十一話
アクリアから箱を受け取ると、何もしていないのに、カチャッという音をたててカギが開いた。
「!?」
「私が預かったのはその箱ごとですから、彼女が貴女にだけ開けられるようにしたようです」
そんな事まで出来るのかあいつ。万能じゃないとか言ってたくせに。
「それには、私共は何も手を加えておりません」
蓋を開け、中に入っていたのは、見事な赤色の石が使われたペンダント。私の髪と対照的でよく映えそうだ。
「これが…能力石?」
「そうです。能力石は普通、使用者を選ばないのですが、この石は例外のようですね」
「分かるの?」
「仮にも彼女の末裔ですから」
そう言ってやんわりと微笑む。笑顔一つでも高貴さが違う。流石に王女様だ。
そういえば。
「私…バリバリタメ語してましたよね……」
王女様相手にタメ語を使っていた。リディアが殴ってなかったのが不思議なくらいだ。そろりと彼を窺うと、白い目で私を睨んでいた。やっべぇ。
ところが。
「私は構いません。むしろ貴女の方が私より地位が上の方なので」
「…………………………」
「今何と?」
聞き返したのはリディア。私は驚きのあまり声が出なかった。というか開いた口が塞がらなかった。慣用句の方ではなくリアルに。
アクリアは気にした様子無く、再び、驚きの言葉を口にした。
「本来なら、日和様の方が、私よりも高い地位にいらっしゃるのです」
「なんで? 私一般人よ? フツーの女子高生よ?」
女子高生というのがアブソリュート・コンパスに有るかどうかは別として。
「この世界に来てから、“予言”をお聞きになりましたか?」
「予言?」
その“予言”の内容を答えたのは、意外にもリディアだった。
「いずれこの大地に禍訪れる時、異界より来たりし有彩色の者によって我らは救われる……」
それは、あの村で言われた内容とほぼ一致する。
異界より来たりし有彩色の者。なるほど、私をそのまま形容しているようだ。青は立派に有彩色だもんね。
しかし、アクリアの次の発言ははそれをほとんど否定した。
「一般にはそう伝わっているみたいですね」
「別のが有るの?」
そう尋ねると、アクリアは言った。
「代々、王家のみに伝わる“予言”は一般に伝わるそれとは少し異なるのです」
「それは外部には出せない、と」
「……はい…残念ながら」
申し訳なさそうに俯くアクリア。逆にこっちが申し訳なくなるのはなぜだ。
「ですが、一つだけ言わせてください」
俯いた顔を上げ、真剣な瞳で、アクリアは私にこう告げた。
「“予言”をどのように解釈しようと、この世界の命運は、貴女にかかっているのです。貴女が指揮者を選ぶか、観客を選ぶかによって…この世界は、大きく末路を変えるのです……」
それを聞いた後、私はしばらく何も言えなかった。