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第ニ十ニ章 初めての大舞台

 つづみに大きなチャンスが舞い込んでから、一週間。


 学校、配信、ラウンジ。


 今までと変わらない毎日を送りながらも、つづみの頭の中にはずっと一つのことがあった。


 ――企画本番。


 今回の企画では、数名の配信者が集まり、トークやゲームをしながら配信することになっていた。


 普段のつづみは、一人で配信している。


 コメントを拾いながら話すことには慣れている。


 でも、人気のある配信者と一緒に配信するのは初めてだった。


 しかも、その配信は普段よりずっと多くの人が見ることになる。


「……緊張する」


 配信前。


 控室で、つづみは何度も深呼吸をしていた。


「大丈夫、大丈夫」


 自分に言い聞かせる。


 そのとき、スマートフォンが震えた。


『今日だよね?』


 蓮からだった。


 つづみはすぐに返信する。


『はい。今からです』


『緊張してる?』


『めちゃくちゃしてます』


『つづみなら大丈夫』


 続けて、もう一通。


『いつも通り楽しんでおいで』


 その言葉を見た瞬間。


 つづみは少しだけ肩の力が抜けた。


『ありがとうございます』


『終わったら連絡しますね』


『待ってる』


 つづみはスマートフォンを胸元に抱えた。


「……よし」


 そして立ち上がった。


     


 配信が始まる。


「こんばんはー!」


 出演者たちが次々と挨拶をする。


 画面には、普段の配信とは比べものにならないほど多くのコメントが流れていた。


『誰この子?』


『初めて見た』


『つづみちゃんっていうの?』


『かわいい』


 コメントを見た瞬間、つづみの心臓が跳ねる。


 いつもの何倍もの人が見ている。


「えっと……つづみです! 今日はよろしくお願いします!」


 緊張しながら笑う。


 最初は少し言葉に詰まった。


 けれど、他の出演者が話を振ってくれる。


「つづみちゃんって普段何してるの?」


「美容師の学校に通いながら、配信してます」


「え、学校も?」


「はい。あと夜はラウンジでも働いてます」


「めちゃくちゃ忙しくない?」


「……結構忙しいです」


 その答えに、出演者たちが笑う。


 つづみもつられて笑った。


 少しずつ緊張が解けていく。


 いつもの自分に戻っていく。


     


 そして、配信の後半。


 ゲーム企画が始まった。


「つづみちゃん、これ得意?」


「いや、全然です!」


「じゃあ一緒にやろう!」


「お願いします!」


 ゲームが始まる。


 最初は普通にプレイしていた。


 けれど、つづみが思わぬミスをする。


「あっ!」


 画面の中のキャラクターが落下する。


「えっ、嘘!」


 出演者たちが一斉に笑う。


「つづみちゃん面白すぎる!」


「ちょっと待ってください!」


 つづみ自身も笑ってしまう。


 コメント欄も一気に流れ始めた。


『この子おもしろい』


『つづみちゃん初見だけど好き』


『反応かわいい』


『また見たい』


 その瞬間。


 つづみは、今まで感じたことのない感覚を覚えた。


 自分の言葉が。


 自分の笑顔が。


 たくさんの人に届いている。


「……」


 一瞬だけ、画面を見つめる。


 そして思った。


 ――もっとやりたい。


 もっとたくさんの人に、自分のことを知ってもらいたい。


     


 配信終了。


「ありがとうございました!」


 最後の挨拶を終える。


 画面が暗くなった瞬間。


 つづみは椅子にもたれかかった。


「……終わった」


 緊張が一気に抜ける。


「お疲れさま」


 スタッフが声をかける。


「ありがとうございました」


「つづみさん、ちょっといいですか?」


「はい?」


「今回、かなり反応が良かったですよ」


「……本当ですか?」


「ええ。コメントもかなり増えてました」


 スタッフがスマートフォンを見せる。


 そこには、つづみの名前について投稿されたコメントがいくつも並んでいた。


『今日初めて知ったけど、この子誰?』


『つづみちゃんの配信見に行ってみよう』


『雰囲気好き』


『また企画に出てほしい』


 つづみは言葉を失った。


「……私のこと、知らない人が……」


「ええ」


「見に来てくれるんですか?」


「たぶん、かなり増えると思います」


 胸がいっぱいになる。


 夢だった。


 ずっと欲しかったもの。


 自分の名前を、もっとたくさんの人に知ってもらうこと。


「……ありがとうございます」


 つづみは深く頭を下げた。


     


 帰宅したのは、いつもより遅い時間だった。


 玄関を開ける。


 部屋に入り、荷物を置く。


 そしてスマートフォンを見る。


 蓮とのトーク画面。


 少し迷ってから、メッセージを送る。


『終わりました』


 すぐに返信が来た。


『お疲れさま。どうだった?』


『……楽しかったです』


『それならよかった』


『それと』


 つづみは少し考える。


『今日、私のことを知ってくれた人がたくさんいたみたいです』


『本当に?』


『はい』


『すごいじゃん』


 その一言を見て、つづみは笑った。


『夢に少し近づけた気がします』


 しばらくして。


『うん』


『俺もそう思う』


 そして続けて。


『頑張ってきたもんな』


 つづみの目に、少しだけ涙が浮かんだ。


「……蓮さん」


 誰もいない部屋で、その名前を呟く。


 夢を追いかけている自分を。


 ずっと応援してくれている。


 その存在が、今のつづみにはとても大きかった。


『これからもっと頑張ります』


『応援してる』


『ありがとうございます』


 そこで一度、会話が終わる。


 けれど、つづみはもう一度メッセージを打った。


『……今度、会いたいです』


 送信。


 数秒後。


『俺も会いたい』


 つづみはスマートフォンを胸に抱えた。


 夢への道が、少しずつ開き始めている。


 そして同時に。


 蓮との関係も、少しずつ深くなっている。


 これから先。


 つづみの名前が広まれば広まるほど、二人の時間は今までのようにはいかなくなる。


 それを、二人はまだ知らなかった。


 **夢が叶い始めたとき――恋もまた、新しい試練を迎えることになる。**


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