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僕は、嘘がつけない。
昔からそうだったのかは分からない。
気づいたときには、もうそうなっていた。
違うことを言おうとすると、どこかで止まる。
うまく言葉が出てこなくなる。
だから、考える。
それが合っているかどうか。
間違っていないかどうか。
それから、話す。
「うん」
それで済むときは、それが一番いい。
それ以上言わなくていいなら、その方が楽だから。
「……」
でも、
ときどき分からなくなる。
何を言えばいいのか。
何が合っているのか。
考えようとすると、少しだけ止まる。
うまく進まない。
「……」
外のことを思い出そうとする。
でも、途中で止まる。
どこまでが外なのか、よく分からない。
ここは中だと思う。
じゃあ外はどこか。
考える。
でも、それ以上は進まない。
「……」
無理に思い出そうとすると、違う気がする。
だからやめる。
分からないままにしておく。
その方が、いい気がするから。
「ねえ」
声がする。
近くから。
「うん」
そう答える。
それは、たぶん合っている。
間違っていない。
「大丈夫だよ」
そう言われる。
何が大丈夫なのかは分からない。
でも、そう言われると、
それ以上考えなくてもいい気がする。
「……」
そのままにしておく。
分からないまま。
その方が、楽だから。
でも、
少しだけ残る。
消えないものがある。
「……」
何かを聞かないといけない気がする。
理由は分からない。
でも、このままだといけない気がする。
「……」
言葉を探す。
どれも違う気がする。
選べない。
間違える気がする。
「……」
少しだけ、怖いと思った。
何が怖いのかは分からない。
でも、間違えたら戻れない気がする。
「……」
それでも、口を開く。
「……じゃあ」
少しだけ止まる。
これでいいのか分からない。
でも、他に言い方が思いつかない。
「あなたは、誰ですか?」
言ったあと、少しだけ息が止まる。
間違っていないか、考える。
でも、分からない。
「……」
返ってくる。
「わたしだよ」
その言葉を、そのまま受け取る。
でも、
うまく意味にならない。
「……」
考える。
「わたし」が何か。
それが誰なのか。
でも、分からない。
「……それは、名前?」
そう聞く。
それなら合っているかもしれないと思った。
でも、
返ってきた言葉は同じだった。
「わたしだよ」
「……」
やっぱり分からない。
「……違うと思う」
小さく言う。
なにが違うのかは分からない。
でも、違う気がする。
「……」
それ以上、言葉が出てこない。
言おうとすると止まる。
間違える気がする。
「……」
手に、何かが触れる。
あたたかい。
でも、
少しだけ、動けなくなる。
動いてはいけない気がする。
理由は分からない。
「大丈夫だよ」
また、同じ声。
「……」
大丈夫、という言葉を考える。
何が大丈夫なのか。
どこまでが大丈夫なのか。
分からない。
でも、
そう言われると、
それ以上考えなくてもいい気がする。
「……」
そのままにしておく。
分からないまま。
その方が、いい気がするから。
でも、
ひとつだけ、残る。
どうしても消えない。
「……」
僕は、知らない。
君が、誰なのかも。
僕は、嘘をつけない。




