⑫
ワシは最近のお気に入りの遊びがなくなった気分やった。
こんなモブみたいなワシが話題の中心人物みたいなんになるんて初めてやからな。
だって、ただのトラック運転手やで。
まぁ異世界転生希望者をトラックで送る。
みたいな仕事やからな。
レア職であるのは、たしかやけど。
アニメとか小説見てても、だれも興味もたんやろ。
あのトラックの運転手どうなるんやろって。
なぁ。
そやから、このほんの一時スターになったような気がしてうれしかったんや。
トラックの運ちゃんがスターになったんって、
デコトラとか、トラック野郎とかの時代やろ。
ワシは転生者やからリアルタイムではみとらんけど、
雑誌とか古本屋で見たわ。
しかし、最近はあんまり見ないなデコトラ。
まぁワシは、長距離は瞬間移動するから、仕方ないかもしれんけどな。
ドライブインのウエイトレスの姉ちゃんとの恋とか、トラック仲間との恋とか、まぁないな。
あれ絶対フィクションやで。
そらそうか。
映画やもんな。
そういえば、神っぽい上司から、依り代を捨てた親みつけたで。
ってメール入っとったな。
まぁワシが一回見てみたいな。
いうたから、探してくれたんやけど。
これどないしよかな。
まぁ行こか。
という事で、ワシは依り代を捨てた親のところに向かった。
その依り代の母親は、ちょうど庭で作業をしとった。
これ高級住宅街やな。
ワシはトラックを縮小して、外から声をかける。
「なぁ、あんた●●●●さんやろ」
「どちら様ですか?」
と依り代の母親は目を細めた。
「あんた。40年前、大事なもん捨てたやろ」
とワシは言った。
その言葉に、依り代の母親は明らかに動揺した。
「あなたは一体……」
と怯えた口調で依り代の母親は言った。
「名前は付けてもらってへんからな、名無しや。一応トラックの運ちゃんしとるから、運ちゃんとは呼ばれる。回りくどいな。あんたが捨てた大事なもんや。あっ失敬失敬。大事ちゃうわな。大事やったら捨てへんもんな」
とワシは言った。
依り代の母親は、膝から崩れ落ち、ぶるぶると震えている。
「復讐しにきたの」
と依り代の母親は言った。
「復讐とか、ただの里帰りや」
とワシは言った。
「私はあなたを捨てたのよ」
と依り代の母親は言った。
「お前、アホなんか。そんなもんわかっとるわ」
とワシは言った。
「そうよね。なんの用?」
と依り代の母親は言った。
「そんなもん、産みの親に会いに来るのに、用がないとあかんのか」
とワシは言った。
「それもそうよね」
と依り代の母親は言った。
「家に入ってもええか?」
とワシは言った。
「ちょっと主人もいるし、ここではマズいはどこか他で話しましょ」
と依り代の母親は言った。
「なんや。ワシは迷惑なんか」
とワシは言った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。そうじゃないの、とりあえず全部言うから、他で話をさせてください。お願いします」
と依り代の母親は言った。
「まぁしゃあないな、ママがそういうなら、聞いたるわ」
とワシは言った。
そしてワシらは、3駅離れた場所の純喫茶に入った。
「なにか食べる?」
と依り代の母親は言った。
「ワシ喫茶店なんか入ったん始めてや」
とワシは言った。
「そう。何が食べたい。私がお金を出すわよ」
と依り代の母親は言った。
「そない、いうても、どんな食べ物か知らんからな」
とワシは言った。
「……このナポリタンというのは、美味しいわよ」
と依り代の母親は言った。
「ママが言うんやったら、それにするわ」
とワシは言った。
「じゃあ。ナポリタンと私はホットコーヒーで」
と依り代の母親は言った。
「じゃあワシはレーコーを頼むわ」
とワシは言った。
「あなた。どうやって生きていたの?」
と依り代の母親は言った。
「それ聞くか?キツイで」
とワシは言った。
「そう……やめておく。今は運ちゃんをしているの?」
と依り代の母親は言った。
「そやで」
とワシは言った。
「よかった。仕事につけてて」
と依り代の母親は言った。
「そやろな。たかられんで済むもんな」
とワシは言った。
と依り代の母親は目をそらした。
「それで本題や。お前はなんで捨てたんや」
とワシは言った。
「お金がなくって」
と依り代の母親は言った。
「なんかえらい豪邸に住んどるやんか。あれお前の家やろ」
とワシは言った。
「主人の家よ」
と依り代の母親は言った。
「それでも、お前が配偶者やな」
とワシは言った。
「そうです」
と依り代の母親は言った。
「なんや。お前の主人いうんわ。ワシの父親か?」
とワシは言った。
「違うわ」
と依り代の母親は言った。
「ほんなら、ワシの父親はどこにおるんや」
とワシは言った。
「わからない。たぶん刑務所にでもいるんじゃない?」
と依り代の母親は言った。
「どういうことやねん。ややこしいな」
とワシは言った。
「あなたの父親はお店のお客さんだったの。
でも失踪したわ。
その時にはもうあなたを……」
と依り代の母親は言った。
「なんや。お決まりのパターンやな。それで捨てたんか」
とワシは言った。
「そうよ。良い人が拾ってくれたらと思って」
と依り代の母親は言った。
「それやったら、せめて孤児院の前とかに捨てろよ。
お前がヘンなところに捨てたせいで、戸籍もないねんぞ」
とワシは言った。
「そうなの。それは大変ね。
でもお仕事できてるんでしょ」
と依り代の母親は言った。
「そんなもん。非合法になるの決まっとるやろ。ボケ。
頭わいとるんか」
とワシは言った。
「そうよね。ごめんなさい。いやごめんなさいなんて、いくらいっても何の意味もないわね。でも謝らせて。ごめんなさい」
と依り代の母親は言った。
「お前、子供はおるんか?」
とワシは言った。
「あなた以外はいないわ」
と依り代の母親は言った。
「そうか」
とワシは言った。
「どうしたら赦してもらえる?」
と依り代の母親は言った。
「さぁな。わからんわ」
とワシは言った。
美味しそうなニオイがした。
「お待たせしました。ナポリタン、ホットコーヒー、アイスコーヒーです」
と髭をたくわえたマスターらしき男は言った。
「マスターかな。その髭シブいな。よう似合っとるわ」
とワシは言った。
「ありがとうございます。ごゆっくり」
とマスターらしき男は言った。
「私、少しだけどへそくりがあるの」
と依り代の母親は言った。
「ヘソクリか。ワシもあるで」
とワシは言った。
「私のへそくりあなたにあげるわ」
と依り代の母親は言った。
「なんや。お年玉かいな。まだ正月ちゃうで」
とワシは言った。
「せめてもの罪滅ぼしよ」
と依り代の母親は言った。
「罪滅ぼし。なんかお前、悪い事でもしたんか?」
とワシは言った。
「あなたを捨てたわ。母親として最悪のこと」
と依り代の母親は言った。
「今のワシ見て、どう思う?不幸そうか?死にそうか?」
とワシは言った。
「いいえ。案外元気にやってると思って、少し驚いたわ」
と依り代の母親は言った。
「せやろ。ほな。お前は悪い事したかもしれへんし、それを悪い事してへんでとは言わん。でもなワシは今立派に生きとる。じゃあな。ここでいうんわ。がんばったね。すごいね。ちゃうか?」
とワシは言った。
「そうだね。すごい大人じゃない。母さん……。
がんばったね。すごいね」
と依り代の母親は言った。
その一言で、ワシのなかの依り代の引っ掛かりが消えた。
あぁそうか。
お前は恨み節じゃなくって、
がんばったね。
すごいね。
って褒められたかっただけなんやな。
ワシは涙がでそうなんをこらえて。
ナポリタンを食った。
「なんや。これメチャクチャ美味いやんか」
とワシは言った。
「そうよ。美味しいのよ」
と依り代の母親は言った。
その眼には涙があふれていた。
(ずずずずず………)
カウンターでマスターが泣いている。
「なんや。ワシが泣くのガマンしとんのに、マスターがなんで泣いとんねん」
とワシは言った。
「いや。これは玉葱のあれで」
とマスターはごまかす。
「あなた。ツッコミも全部上手やね」
と依り代の母親は言った。
「それは最高のホメ言葉や」
とワシは言った。
ワシはナポリタンを食って。
レーコーで流し込み、
「じゃあ。ワシは仕事あるさかい。これで最後や。
達者でな」
とワシはそう言って、店を出た。
ふと喫茶店の看板を見る。
【喫茶トラック&ドラック】
どんな店やねん。
そんな内装とか違ったやん。
ワシは心の中で突っ込んだ。
もう後に戻ることはできないのだから。
ワシは、ふたたびスレを覗いた。
……
224 :モブ:
もしかして、俺らに何か伝えたいメッセージとか、あったりするか?
225 :異世界運ちゃん:
メッセージか……、
あんな、
ワシは何も思想を持ってない。
みんな自分の生きたいように生きればいいと思っとる。
でもな。
こんな特殊な仕事をしているから、世界のいろんな面が見えるから、言うけど、
「どら焼きにとろけるチーズ乗せてレンジで温めると美味い」
これだけはたしかや。
――――――
その投稿を最後に異世界運ちゃんの書き込みは途絶えた。
最後の書き込みをめぐっては、様々な考察がされた。
あれは人生チャレンジが大切だという隠喩だ。
モブでもちょっとした事で変わる事ができるという意味だ。
伝統的なものでも革新が必要だ。
しかし、彼の本心は誰もわからなかった。
ただある男が呟いた。
「どら焼きにとろけるチーズはマジで美味かった」と……
異世界トラック運転手が実在するのかどうかはわからない。
ただ今日も異世界に転生する者達がいるのは……
あなたが一番知っている事だろう。
END




