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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

好きな人

作者: さんさい





「「「かんぱーい」」」





俺たちは今大学のダンスサークルの飲み会に来ている。ダンスサークルに入って1ヶ月。大学の授業にも慣れ、新入生の入部の波もおさまったということで歓迎会が企画された。俺たち1年生は未成年が多いため、もれなくソフトドリンクだ。テレビで見たことはあったが、実際に参加する側となると少し大人に近づいた気分でなんだか落ち着かない。一緒に参加している翔は俺の左斜め前に座っている。来る前は隣に座ろうと話していたが、席はくじ引きで決める方式だったようで微妙に離れてしまった。





翔の左隣は3年の先輩(女)で、右は同級生(女)だ。もはやこの令和において、"女性だから男性が好き"とは限らないし、そう思うこと自体考え方が古いのかもしれないが、明らかに距離が近いとか好意を抱いていそうな目とかを見るとどうしても気になってしまう。俺はウーロン茶をちびちびと飲みながら翔の方をちらちら見ていた。俺がいるのはテーブルの1番端で、自ら話しかけるのが苦手な俺は話題に入り損ねていたため特にすることがなく余計に目に入ってしまった。





「えっと、松川くんだっけ。飲み物頼む?」





隣にいた3年生の先輩(男)が、俺のウーロン茶が無くなりそうなことに気づき話しかけてきた。





「あ、すみません。ありがとうございます。

ウーロン茶でお願いします」





「おけ。俺も追加で頼むつもりだったから気にしないで。てか、ごめん。俺身体大きいから向こうの話題入りにくかったよな」





「ありがとうございます。

いえ、気にしないでください。俺話すの苦手で、聞いているだけでも楽しいので」





「そっか。

松川くんは、なんでダンスサークル入ったの?」





「俺、元々高校までダンスをやってて、ダンス続けたくて入りました」





「へえ〜!じゃあ、結構上手いんだ?」





そこに、俺の前に座っている(つまりは蓮の左隣の女の人)先輩が話に加わってきた。





「上手いってほどじゃないですけど、

ダンスは好きですね」





隣に座っている3年の先輩の真田さんが話しかけてくれたことをきっかけにしばらく真田さんと俺の前に座っているさーや先輩(そう呼べと怒られた。ダンスサークルの人はもれなくみんなそう呼んでいるのだという。)とダンスや好きな音楽の話をしていた。真田先輩は同じ学部だったようで、前期の課題のコツや後期に選ぶといい授業まで教えてくれた。





飲み会といえば必然的に恋愛の話が話題に上がる。好きな人はいるのか、どんな子が好きなのか、誰と誰が付き合っているのか、など話題は尽きない。こういう場だからこそ聞けることもある。





「本田はどうなのよ。好きな人いる?」





のらりくらり先輩に話題を振って交わしていた翔だったが、ついに名指して聞かれた。

俺たちが付き合っていることは誰にも言っていない。もちろん高校の同級生にもだ。俺が、変に揶揄われるのが嫌だと言ったら、「じゃあ言わないでおこう」と翔が言ってくれたのだ。別に翔と付き合っていることは恥ずかしくない。最近は、同性で付き合っていることをオープンにしている人だって増えていて、一定そういう人たちがいることが広まってきてはいる。ただ、実際そういう人たちが自分のそばにいると思う人は少ない。遠い世界の話だと勘違いしている人だっている。だからどれほど頭では理解していても、実際目の前に現れた時に全く偏見を持たずに接することができるかと言われればまた話は変わってくる、、と俺は思っている。だからこそ怖いのだ。外部の反応で、俺たちの幸せな日々が壊される気がして。





「いますよ」





「あ、いるんだ。どんな子?告白しないの?」





「ついこないだ恋人になりました」





「そうなんだ!おめでとうじゃん」





「どんな子なんだよ。本田を落とせるってことはやっぱりめっちゃ可愛い?」





翔に恋人がいるとわかった瞬間、周りの空気が変わった。やはり、翔はモテるのだ。明らかに残念そうな顔をしている人だっている。でも、やはりモテる翔の相手に興味があるようで聞き耳を立てている人もいる。





「そりゃあ、もうめっちゃ可愛いですよ。

繊細ですぐ自信をなくすし、照れたら耳が赤くなってぶっきらぼうな言葉遣いになるけど、俺のことが大好きで、いつも欲しい時に励ましてくれるめっちゃいい子です」





翔は俺の方をチラッと見て、微笑んだ。周りは翔の盛大な惚気に気を取られて気づいていない。

・・・暑い、絶対今耳赤くなってる。お前のこと大好きで悪いかよ。ばか。





「松川くんは知らないの?翔くんの彼女。

2人は同じ高校だったんだよね?」





「あー、はい、同じ高校でしたけど」





「見たことない?」





「見たこと、はありますけど、」





「ちょ、先輩だめですよ笑

俺たち今付き合って3ヶ月経ったところなんで、

取られたくないんで」





「なんだよそれー。飲み会だからって惚気んな。

お前ほんと幸せそうすぎて羨ましすぎるから!!」





「え〜、じゃあ写真見せてよ。それならいいでしょ?」





「ダメです。めっちゃ可愛いので」





「めっちゃ好きじゃん。

え、じゃあ同じ大学?」





「・・・俺と同い年で、経済学部生です。

これ以上は、いくら先輩でも教えませんよ」





「200人もいるじゃねえかよ」





「残念。でも本当に好きなんだね〜

なんか幸せな気持ちになったからもういいわ。また気が向いたらサークルにも連れてきてよね」





「気が向いたら紹介します。

じゃあ次は先輩の番ですよ。

いないんですか、好きな人とか付き合ってる人とか」





翔がさりげなく先輩に話を戻してくれたから俺にはその話題が振られることなく飲み会は終わった。





「じゃあ、俺と蓮はこっちなので失礼します。

お疲れ様でしたー!」





俺と翔はしばらく無言で歩いた。いくつか角を曲がり、居酒屋からだいぶ離れたところで俺は口を開いた。





「さっきの、なに」





「さっきの?・・・・ああ、好きな人の話?

だって、蓮はすぐ不安になるでしょ、ああいう場所だと特に。周り女の人多かったし。だから、言っておこうかなと思って」





「バレてたのかよ」





「まあね、あんなにチラチラ見ながらお茶飲んでたらわかるよ流石に」





「そ、・・・でも嬉しかった」





「ふ、そりゃよかったよ。

よし早く帰って早く寝るぞー」





翔は俺の手を勢いよく握ると、その手を上に挙げた。俺たちはそのまま手を繋いだまま、家に向かって歩いた。






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