07 寂しい生き方
―――さくらSide
次の日の昼休み。
本日は進路希望調査の締め切り日なのだが、委員長が風邪で休みだったので、代わりに私が出していない人の回収を先生に頼まれた。
ほとんどを回収し、出してない最後の人の分を回収しに人気の少ない特別教室棟の更にその奥、今は使われておらず立ち入り禁止になっている小さな旧校舎エリアに繋がる渡り廊下、その近くの小さな教室の前に立ち止まる。
コンコンコン、とドアを叩くと返事が返ってきたので中に入る。
「諸星君、いる?」
「はい。……ああ、阿澄崎さんか」
諸星君は少し怪訝な顔でこちらを見やる。先日の件で警戒されているのだろう。
「また結城さんの件? 言っとくけど俺のスタンスは変わらないよ」
「そうじゃないの。進路希望のプリント、提出してないの諸星君だけだよ」
あぁ忘れてた、と諸星君が頭をかきながら笑う。こういう表情を見ると、他の男子と何ら変わりない普通の男の子のようだ。
「教室戻ったらすぐに出すよ」
「昼休みの間に先生に出さなきゃいけないから探してたの。大変だったんだよ? 諸星君どこにいるかわからないから、見かけた人に聞きだすの」
「そこまでして探さなくても。まぁ出さなかった俺が悪いんだけどさ」
やれやれ仕方がないな、と諸星君は立ち上がり私のもとに来る。
「もう書いてはあるんだ。すぐに出すよ。教室に戻ろう」
「そうしてもらえると助かるよ。ありがとう」
二人で空き教室を出て、我々のクラスに向かって歩き出す。
「この前はごめんね。その、余計なことしちゃって」
「いいさ。こちらこそ事故の時、嫌なものを見せた。人が轢かれるのなんて見ていて気持ちのいいものじゃないだろうに」
「そんなこと気にしなくていいよ。諸星君は褒められるべきことをやったんだから。ただその……一つ聞いてもいい?」
「なにかな」
諸星君はこちらを見ずにそう返す。
「どうしてそこまで人との関わりを嫌がるの?」
諸星君の足がピタッと止まる。不味かったかな、余計なことを聞いてしまったかな、と少し緊張が走る。
諸星君は少し考えてから口を開いた。
「阿澄崎さんはさ。小学校の時、友達は多かった?」
「え? ……うん。みんなと仲良くしてたと思うけど」
藪から棒に振られる質問に一瞬思考が止まりかけたが、少し考えて私はそう答えた。
「だろうね。でも、そんなみんなと今でも付き合いがあるかい?」
「えーっと、特に仲のよかった何人かとは連絡を取るくらいかな」
「でも、時間を重ねる内、頻度は減ってきてるんじゃないかな」
「うーん、確かに、そう、なの、かな?」
言われてみればそんな気がする。最後に彼女達と連絡を取ったのはいつだっただろうか。思い出すのに時間がかかる。
「どんなに仲良くなったとしても、いずれその関係に終わりは来る。人との繋がりなんていつ、どこで、どんな形で終わるかなんてわからないんだ。いい別れ方もすれば最悪な終わり方をすることもある。いずれにしろ結局終わるんだ。だったらいっそ、関係なんて作らなくてもいいじゃないか」
そう言い放ち、諸星君は再び歩き出した。これが自分の考えだ、ついてこれないものは置き去りにする。そんな気持ちを表すかのように、先程より速い足取りで歩みを進める。
……察するに、過去に何か嫌なことがあったのだろう。人間関係に疲れることが彼にあったのだろう。 だから人間関係を作らないようになった、と私は仮説を立てる。でもその考え方はあまりにも……
「でも……それじゃあきっと寂しいよ。長くは続かないと思う」
「そうかもね。多分その感覚は間違っていない」
俯きながら自嘲する様な表情で、諸星君は続ける。
「でもね、そう感じない人もいるんだ。世の中にはいろんな人がいるからね。君が孤独を苦痛に感じるように、人との繋がりを苦に思う奴だっているのさ。だから俺をわからなくたっていい。君も、結城さんも。俺のことは放っておいて、お互い自分にあった生き方をしようじゃないか」
会話が終わり、教室までたどり着いた。諸星君が自分の机の中にあるファイルから、一枚のプリントを取り出して私に手渡す。
「はいこれ」
渡されたプリントを見ると、希望する職業を書ける欄に警察官、消防士と書かれていた。
なんというか、意外ともとれるし、妥当だと思う内容だと思った。
優しそうな表情をする彼には過酷でハードな仕事に就くようなイメージは湧かないが、結城さんの件を経て、命がけで誰かを守る彼に対して説得力のある進路にも見えた。
「……あまりじろじろと見られると恥ずかしいんだけどな」
諸星君は視線を逸らしながら頭をかいてみせる。
ごめんといわんばかりに、愛想笑いを浮かべて私はごまかした。
「あはは、ごめんね。でも確かに受け取ったから」
「ああ、確かに渡した。それじゃあ」
そう言って、諸星君は昼食を摂る為に特別教室棟へ戻っていった。
彼の一面を少し知ることができた私だが、これ以上できることは何もない。この情報を結城さんに渡すべきかと考えたが、また余計なお節介をしてしまうのではないかという葛藤に阻まれ、断念する。
そんな煮え切らない感情を抱えながら、集めたプリントを先生へ渡しに職員室へと向かうのだった。
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