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アヒ  作者: ゲントク
―第五章― 幸福を断つ
30/44

27 捩じ伏せる

―――諸星Side




「諸星とかいう奴、いる?」


 放課後。

 周りからの冷ややかな視線を無視しながら、帰路につこうと席を立つと妙な連中から名指しで呼ばれる。


「……何か用か?」


 扉の前には、比較的厳つい容姿をした三人組が立っていた。


 一人は俺より五センチメートル程身長が高く、がっしりとしていて無表情。

 一人は身長が小さく、ニタニタと浅ましい表情でこちらを見ている。

 もう一人は中肉中背、俺を呼び出した張本人だ。これといって特に特徴はないが、こいつがリーダー格だろうか。見上げるように顎を上げてこちらを見下している。


 上からABCとしようか。


「ちょっとツラ貸せよ」


 親指を後ろに、くっと向けてリーダー格の男は踵を返す。そいつとほかの二人に囲まれるように俺は後に続く。


 行先は特別教室棟の奥だ。荷物は教室に置いてきた。今は身体をフリーにしておきたかったからな。


「お前さ、調子に乗ってんだろ」


 リーダー格の男、Cがだるそうな顔でこちらをねめつける。


「何の話だ?」

「とぼけんなよ。お前、阿澄崎さんとどういう関係だ」


 ……何かと思えば。


「別に。何もないが」

「とぼけんなっつってんだよ。三崎の奴が、お前と阿澄崎さんと結城さんで夏休み遊んでるところを見てんだよ」


 チビのBが頷きながらこちらを見ている。こいつが三崎だろうか。別段、覚える気もないが。

「両手に花で調子に乗っちゃたか? いい気になるなよ。お前みたいなパッとしねぇ奴があの二人と釣り合う分けねえだろうが」

「ああ、なんだそんなことか」


 はは、笑ってしまうな。本当に馬鹿馬鹿しい話だ。


「別に付き合おうなんてこれっぽちもないさ。あんた達が心配するまでもなくな。もういいか?」

「いいわけねえだろ。俺言ったよな? 調子に乗るなって」


 Cの顔が醜く歪む。怒りと侮蔑が入り混じった表情で捲し立てる。


「図に乗りやがって! お前みたいな奴が阿澄崎さんを傷つけてんじゃねえよ!!」


 Bが侮蔑と嘲笑で、口元、目じりを吊り上げながら俺を嗤う。


「聞いたぜ? 朝っぱらからお前イキりちらしてたんだってな」


 噂というものは随分と広がるのが早い。こんなどうしょうもない奴らの耳にもあっという間に届く。


「お前マジで調子に乗んなよ?」


 巨漢のAが俺の胸倉を掴んで、壁に背中を押し付けて胸倉を締め上げる。


「阿澄崎さんに土下座しろや。土! 下! 座!」


 虎の威を借る狐、といったところか。Cが図体のでかいAの後ろで何やら訳のわからないことを言っている。


「んで二度とあの二人に近づくな。次近づいたらマジでフクロに――」

「がああああああああああ!!」


 急にAが苦しそうに呻きだす。BとCも突然の出来事に狼狽えていた。


 それもそのはずだ。俺がAの指を引っ掴んでひねり上げているんだからな。


「空手家に不用意に胸倉を掴むなって教わらなかったか?」


 空手にも色々な技がある。打撃の他に、投技、寝技、空道の分野では関節技も含まれている。

 胸倉を掴まれた時の対象法なんていくらでもある。相手の脇に貫手を刺したり、それこそ腕を極めたりすることができるのだ。


 Aを蹲らせ、前髪を後ろにかきあげながら、怯んだ残りの二人を睨みつける。


「今は虫の居所が悪い。三人まとめて相手してやる……!」


 この程度の奴らならやれる。


 頼みの綱であろうAがこの様だ。あとの二人はおまけのようなものだろう。

 俺の啖呵を聞いて後に引けなくなったのか、二人は臨戦態勢となり、一触即発の雰囲気が流れる。すると――


「お前ら! 何をやっとるか!」


 怒り心頭。いつの間に現れた生徒指導の男性教師がものすごい剣幕でこちらを怒鳴りつけた。


「いや、何もやってないっすよ。はは、ちょっと合気道ごっこを――」

「言い訳なら後で聞く! 全員まとめて生徒指導室に来い!!」


 Cが慌てて言いわけするも、問答無用とばかりに男性教師はそれだけ言い残し、ここを後にする。


 …………………………………………………。


 俺はAの指を雑に放り、ほかの二人を一瞥した後、男性教師の後を追うのであった。


 面倒なことに巻き込みやがって。全くいい迷惑だ。


    






















―――さくらSide




「言いわけなら後で聞く! 全員まとめて生徒指導室に来い!!」


 生徒指導の渡邊先生がそう言って踵を返すと諸星君がその後を追う。

 あとの連中はというと、倒れている大柄の生徒を他の二人で起こしながら彼らに続いて行った。


「ふぅ……。なんとか場は収まったか……」


 ひょっこりと私は空き教室から体を乗り出す。


 新学期一日目放課後早々、ガラの悪い連中に諸星君が連れていかれるところを見たときは冷や冷やした。


 あんな雰囲気、喧嘩かいじめになるしかないでしょうよ。


 慌てて後を追い、隠れながらも目的地に辿り着き、すかさず職員室に通報する。


 結果的には諸星君が優勢な感じだったけど、万が一ってこともあるので未然に防げてよかった。


「はぁ、疲れた。なんだってこんなことになるのよ」


 とぼとぼと教室棟へ足を運ぶ私。

 喧嘩が起こるわ、クラスの雰囲気は悪くなるわ、厄日かしらね今日は。


「あの……」


 後ろから聞こえる、どこかで聞き覚えのある小さな声に気付き、後ろを振り返ると――


「あなたは……!」


 そこにいた女の子は私の悩みの種である、あの男の過去を知る者だった。


「二条花織さん!」

「どうも……」


 私が大声で彼女の名前を呼ぶと、二条さんはぺこりと会釈した。


 諸星君の根幹のカギを握る重要人物。そういえば同じ学校だったっけ。

 色々なことがあったからか、割と大事なことを失念していた自分が恥ずかしい。


「実はお話ししたいことが……」


 神妙な面持ちで私を見つめる二条さん。十中八九諸星君のことだろう。


 緊張が走る中、私は場所を変えましょうと、踵を返して再び特別教室棟へ向かうのだった。



◇◇◇



 彼女の話を要約すると、

 諸星君の妹さん、諸星燈さんは幼い頃車に轢かれそうになった諸星君を庇って命を落とした。

 それを目撃した二条さんは彼を責め立てた。


 諸星君が妹さんを殺したというのは、自分のせいで死なせたという自責の念からくるものであることだろう。


「あの時私、気が動転していて……お兄さんに酷いことを言ってしまいました」


 話しているうちに二条さんは段々と目に涙を浮かばせてくる。


「……あなたの立場からならそう思ってしまっても仕方がないと思うわ。幼い頃なら尚更そうしてしまうでしょう」

「大人になってくるうちに、段々と自分が間違っていたんじゃないかって思い始めて、でもその頃にはもうお兄さんは小学校を卒業しちゃってて、疎遠になっていって……」


 慰めのつもりで言った言葉がかえって彼女の傷に触れてしまったのか、二条さんの頬を涙が伝り落ちる。


「それでここに入学したとき、偶然お兄さんの名前を見かけて。だから、今度こそちゃんと謝ろうと思って声をかけたんです。そしたら――」


『ん? 君は誰かな? ……どこかで会ったような……?』


「お兄さん、私のこと、すっかり忘れていて……自分だけずっと気にして凹んでいたのが馬鹿らしくなっちゃって……」


 うーん、諸星君らしい……。本当に他人に興味がないのねあの男は。


「だからこそ、もう気にしてないのかな、乗り越えたのかなって思って……。阿澄崎さんともう一人の方と楽しそうに笑っているお兄さんを見たら、私もさっさと謝っちゃって楽になろうと……」

「そこであの日に繋がるのね……」

「はい。私のせいでお二人との関係も悪くなってしまったそうで……私、なんてことを……」


 二条さんは金色の髪をきゅっと握りしめて、後悔の念に顔を歪める。

 あの時話しかけなければこんなことにはならなかった。そう思っているのであろう。


 確かに諸星君の異変は、彼女がトリガーとなっているとしか考えられない。


 彼にとって、幼い頃の二条さんの言葉が呪いとなっているのだろう。数年間、心の奥底に閉じ込めていたトラウマが彼女の登場によって再び諸星君を蝕んだ、ということか。


 だが、これで合点がいった。諸星仁海という人間の解像度が一気に上がったのだ。


 私はスマートフォンを取り出してある言葉を調べる。

 映画かドラマか、はたまた小説か、いつかどこかで聞いたことのある名称。それを確認し、確信する。


 ずっと前から抱いていた違和感の正体がようやく暴かれた。


 彼、思った以上に危うい状態だったのね……。


 私はそのままある場所に電話をかける。


『はい、五代高等学校です』

「二年の阿澄崎です。生徒指導の渡邊先生いらっしゃられますか?」

『阿澄崎さん? 渡邊先生ならまだ、喧嘩していた生徒達をとっちめてくるとか言って、生徒指導室にいると思うけど……』

「ありがとうございます! 失礼します!」


 よかった! まだ諸星君は渡邊先生の足止めを食らっているみたいだ。

 念の為、靴箱の中に外靴があるか確認しておこう。


「二条さん、ごめんなさい。私行かないと!」

「ど、どこへ……?」

「諸星君と話してくる。このままじゃ彼、とりかえしのつかないことになるかもしれないから!」


 急に立ち上がる私に対し目を丸くして驚く二条さんを尻目に、私は駆け出した。


 今日、二条さんの話を聞けたのは私にとって幸運だった。


 いつか大変なことになるかもしれない。それはずっと先の未来かもしれない。あるいは明日かもしれない。


 それが今日でないことを祈り、私は校則違反も厭わずに廊下を駆けるのであった。

お読み頂きありがとうございました!




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