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アヒ  作者: ゲントク
―第一章― 邂逅、私達の秘密
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03 阿澄崎さくらは完璧である

「おはよー、さくら」

「おはよう、みなみ、髪型ちょっと変えた?」

「お、おはよう、阿澄崎さん!」

「おはよう、山田君。今日も朝練?」

「よう阿澄崎! 今日もべっぴんさんだぜ!」

「あははは、ありがとう佐藤君」


 完璧だ。


 私、阿澄崎(あすみざき)さくらは完璧である。


 容姿端麗。成績優秀。誰からも尊ばれ、敬われ、頼られる人望。聖人君子かのように振る舞われる所作。おまけにこのプロポーション。すらっとした長い手足(当社比)に、くっきりと凹凸のある柔らかな肉体。何とはあえて明言しないが、同年代と比較しても明らかに特盛のソレ。


 誰からも当たり前のように愛される、トーゼンでパーペキなスーパー女子高生。それが私なのである。


「今日もかわいいなぁ、阿澄崎さん」

「な、朝から見かけるだけで俺は今日一日の眠気が吹っ飛ぶよ」

「今日も素敵だわぁ、阿澄崎さん」


 ただ廊下を歩いているだけで私の存在感は周囲の反応からにじみ出る。生徒諸君の私を称賛する声が耳に入る。


 ふふ。


 ふふふふふふふふ。


 ふはははははははははははは!!


 そう! それよ! もっと頂戴!


 その称賛の声が私の力になる! 糧になる! 私を私たらしめる!


 誰からも愛されることなんて当然、なんて私は思わない。優れた才能とたゆまぬ努力によって、ようやくもたらせられる勝者の美酒。私が完璧であろうとする所以の一つとして、この報酬を存分に味わうことが挙げられる。


「おはようございます、阿澄崎さん」

「おはようございます、片岡先生。大きな荷物ですね。あ、手伝いましょうか?」


 しかし、その自意識を表に出さない。態度にあらわさない。自分の完璧さをおごらない。


 どんな人にも平等に接し、困っている人を助ける。そうやって培ってきた信頼関係で敵を作らず、誰からも愛されるキャラクターを維持できるのだ。


 教師の手伝いを終え、今日も完璧な私の完璧な一日が始まるのであった。



◇◇◇



「阿澄崎さん、今ちょっといいかしら」


 四時限目を終えた昼休み。他クラスから私のもとへ来訪者がやってくる。

 私よりも少し身長が高く、私以上にすらりとしたプロポーションを持つ黒髪ロングの美少女。


「あ、結城さん! どうしたの?」


 名は結城逢。その少女は私以上に顔立ちが良く、文武両道な優等生。

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花を体現したかのような儚げな外見。ぶっちゃけ関わり合う前は、少し対抗心も覚えていたまである。

 実際、成績は学年で一位であり、教師からの信頼も厚い。おまけに男子からは高根の高根、そのまた高根の存在として、蝶のような花のような扱いを受けている。

 完璧な私がその実力を認め、危機感を抱かせるような逸材。それがこの結城逢という少女である。


「ここだとその……人が多くて目立つから……場所を変えてもいいかしら」

「うん! もちろん大丈夫だよ。行こっか!」


 教室を出る。彼女と廊下を歩いていると、周りからひそひそと話し声が聞こえる。なにしろ学年、いや学校屈指の美少女として双璧をなす二人が、並んで一緒に歩いているのだ。いつも以上に周りに反応が出るのはいた仕方がないことだ。


 結城さんとは、学校ではあまり関わりがない。そもそも、ある事件……というか事故によって関わることになる前は、お互い全くと言っていいほど話す機会がなかったのだ。

 その件が落ち着いたからといって特別仲が良くなったわけではない。時々その後の経過を説明してもらうくらいだ。


 人気の少ない特別教室棟の使われていない空き教室の一室を間借りさせてもらい、私たちは向かい合って席に着く。お互い昼食の弁当を取り出して、食事をしながら本題に入る。


「それでどういった用件なのかな? やっぱり諸星くんの件?」

「ええ、そのことなんだけど」


 二か月前、クラスメイトが車にはねられた。帰宅途中に偶然困っていた結城さんの荷物を拾い上げた矢先、彼女の妹が車に轢かれそうになったのを諸星君という少年がかばい、はねられる、という現場に居合わせた。


 即座に救急車を呼び、救急隊の人たちに状況を説明して結城さん達と共に病院へ向かった。その後、諸星君が目を覚ますまで彼女が足繁く通い続けることも、世話係を受け持ったことも知っている。


「なんでかわからないのだけれど、私、諸星君に嫌われたみたいで……」

「へ?」


 何をしでかしたのかは知らないが、これほどの美少女なら大抵のことでは男子に嫌われないだろう。状況が全く解らないことには手の打ちようがない。


「えっと、詳しく聞かせてくれる?」

「ええ。ええと――」




 話はこうだ。


 彼女が諸星君のお世話をすると告げた。


 そのことに諸星君は驚き「そんなつもりで助けたのではない、そこまでしてもらうのは申し訳ない」と遠慮をした。


 しかし結城さんがどこまでも食い下がった結果、諸星君は根負けし、少しの間だけ世話になるという話になった。


 その後、甲斐甲斐しく世話をし、しばらくはうまくやっていたのだが、いつからか遠回しにそんな関係を終わらせたいかのような態度や言動を取られたそうだ。


 それでも負けじと彼と接していくが、日が経つ毎にそれが露骨に表れていき、最終的には――


『もうここには来なくていい。いい加減俺に構うのはやめてくれ。俺に恩を感じてくれているのはわかるが、俺の為を思うのならもう来ないでほしい。正直いい迷惑なんだ』


と、面と向かって言い放たれてしまった、とのこと。結城さんもそこまで言われてしまったら無理に通うことはできなくなり、それきり諸星君とは会えていないらしい。


「それはひどいね。散々お世話してもらいながら、用が済んだら突き放すようなこと言うなんて」


「でも元々私が無理を言った、というのもあるわ……もしかしたら、私が何か諸星君の気を損ねるようなことをしてしまったのかもしれないし……」


 しょんぼりとした様子の結城さんを見て、私は気の毒に思いフォローを試みる。


「優しいんだね結城さん。だとしても、なんだろう、こう、言い方ってものがあると思うなぁ」


 私のフォローも虚しく、しゅんと体を小さくするように落ち込む結城さん。うーん、悔しいけどやっぱ可愛いのよねこの子。認めたくはないけど私よりほんのちょっぴり。


「うーん、諸星君ねぇ……」


 諸星仁海、クラスメイトの男子だ。


身長高めのややがっしりとした体格の男の子。顔立ちは今風の女子高生受けする王子様系や塩系アイドルのソレではなく、所謂ソース顔。子供の頃DVDで見た、二十年以上前のドラマや特撮の俳優に似た顔立ちをしている。


 目元まで伸ばした前髪の奥にはいつもニコニコと柔和な笑みを浮かべていた記憶がある。同年代の男子と比べると随分大人びてるように見えた。人当たりもよく、頼まれたことに対して嫌な顔せずに承る。


 そんな動向から教師からも信頼が厚いが、友達と楽しく過ごしているところはあまり見たことがない。孤立しているとまではいかないが、恵まれた友人関係は築けていないように見える。 


 私も何度か話したことはあるが、事務的なことがほとんどで大して会話をした記憶がない。


 とはいえ、性格が悪いタイプには見えないので、いまいち彼の言動には違和感があった。


 そう、私は彼に違和感を覚えている。


「話は分かったよ。それで結城さんはどうしたいのかな。私から見れば、結城さんは筋を通してると思うし、誠心誠意やれることをやったのならもう義理は果たしているんじゃないかな? 責任とかは相手の運転手が取るだろうし、これ以上何かをする必要はないと思うけど……」


「それでも……私は……できることならもう一度、ちゃんと会って話がしたいわ。もし私に至らないことがあったのなら、諸星君を傷つけてしまうことをしてしまったのなら、謝りたい。私にとって諸星君は大切な妹を救ってくれた人なの。こんな終わり方で疎遠になんてなりたくないわ」


 結城さんは、先ほどの様子とは打って変わって決意と覚悟を秘めた表情をしていた。


「そっか……そうだよね」


 まっすぐな子だと思う。もし、私が彼女の立場なら同じように立ち向かうことができただろうか。


 私なりに誰からも愛されるように振る舞ってきたし、誰かに嫌われるようなヘマはしないように立ち回ってきた。それでも私のことを嫌う人間が出てきたとしたら、私はきっと深く関ろうとはしないだろう。


 もちろん、嫌われたからと言って他の人と違うような態度を取るつもりはないけど、適当に愛想笑いをしてその場をしのぎ、不必要に関わることはしないだろう。


「でもどうすればいいかわからないの……このまま話しかけていいものかって……また同じように突き放されてしまって終わりなんじゃないかって……」


「……よし! わかった。私に任せて!」


 この子の力になりたいと思ってしまった。よりにもよってライバル意識のあるこの子を。  


 我ながらお人よし根性ここに極まれりね。だけど構わない。困っている人を見過ごさない、見過ごせない、そんな私が好き。そういう生き方を選んでここまで来たのだから。


「今日帰りにでも諸星君のお見舞いに行ってみる。まずは私から話をしてみるよ」


「確か数日前に退院してるはずよ。多分今週中には登校してくると思うわ」


 おっと、そうなると話は変わってくる。


 病院の中だと諸星君も逃げ場がなく、こちらから出向いてさえ行けば落ち着いて話ができるはずだ。しかし、校内となると他の生徒の目があるので変に目立ってしまう。そうなると諸星君も素直に話に応じてくれるとは限らない。用事があるとのらりくらり躱されてしまうのがオチだ。


「あ、そうなんだ。じゃあ学校に来てから二人で話してみよう」


「ごめんなさい、私のわがままに付き合わせてしまって」


「ううん、なんもだよ! 私だってあの場に居合わせていたんだし、諸星くんのこともちょっと心配だからね!」


 こうして私は結城逢と諸星仁海の仲介を務めることになった。


 やれやれ。なんだか複雑そうでめんどくさそうだけど、仲違いしてる人達の仲裁なんて今に始まった事でもない。いつも通りにうまいこと完璧に事を収めてあげるわ!

お読み頂きありがとうございました!


二人目のヒロイン、さくらが登場です。

諸星、逢、さくらがこの作品のメインキャラクターとなります。




続きが気になる!面白い!など思って頂けたら下にある☆☆☆☆☆から、この作品への応援をお願いします。




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