25 歯車
夢を見た。
小学生くらいの小さな女の子が、困ったような笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
俺が無茶なことして祖母に心配をかけさせた時やいたずらをして祖父に叱られるときに、彼女は決まってこんな顔をしていた。
『だめだよ■■■■■。そんなことしちゃ』
そんな声が聞こえたような気がした。
また困らせてしまったかな。
手を伸ばしてもその子には届かない。俺の心にはこんなにも強く残っているのに。
その手は、声は、彼女には決して届かない。
だからこそ俺はその困ったような笑顔を忘れられない。
そんな顔を浮かべる彼女に報いるために、俺は――
目が覚めると、辺りは暗く、時計を見ると短針はまっすぐと真右を向いていた。
先程までの吐き出したくなるような気分の悪さはすっかり消えていて、頭の中が凍り付いたかのように冷静でいられる自分に少し驚く。
夢に出ていた少女の顔を思い浮かべる。何かをたしなめるような目でこちらを見ていた。
「わかっているよ。燈」
思えばなんとも滑稽なことだろう。
過去にあんなことをした人間が何を楽しそうに笑っていたのだろう。
たった一人の大切な妹を死なせるような男が、どの面下げて誰かと親しそうに接していたのだろう。
そんな自分を咎める為に彼女は俺を見ていたのだ。
「その生き方は捨てたはずだろ」
誰もいないこの家の中で、自分に言い聞かせるようにそう呟く。
誰かと手を取り合い、寄り添いながら生きる。そんな当たり前で穏やかな普通の幸せ。
そんな人生を送る資格は、俺にはない。幸福などを求めてはいけない。
戻るんだ。元の俺に。
寄る者を拒み、他人との繋がりを切り捨ててきたあの頃の俺に。命を擦り減らしてでも誰かを救おうと、体を鍛えあげてきたあの頃の俺に。
夜が明ける。カーテンの隙間から差し込む光の眩しさで再び目を覚ました。
窓を開けると雲一つない澄み渡るような青空が広がっていた。
――もう俺に迷いはない。
失ったものを拾い上げ、握り潰して踏み砕く。
そこまでしてようやく、俺は成ることができる。
果たすべき役割を成し遂げるだけの、鉄の車輪に。
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