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アヒ  作者: ゲントク
―第三章― 見捨てられない私だから
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幕間②

「んで? あの子たちとはどうなんだ?」

「……何の話ですかね」


 夏休みに入って間もないある日の仕事終わり。

 諸星はヤクザのような厳つい顔立ちの現場監督、猪上(イノウエ)にラーメンに誘われた矢先、意図の分からない質問を投げかけられる。


「ほらこの前の、事務所に連れて来られたあの二人の女の子達だよ。うまくやってんのか?」

「二人の……ああ……」


 面倒な質問を投げかけられたな、と諸星は頭をかくように髪の毛をかき上げる。


「知らない人です、って言いませんでしたっけ?」

「お前、すっとぼける時やめんどくさそうな時にこう、髪をぐわぁってやるだろ。あん時もやってたぞ」


 ちぃ、よく見てるな、と心の中で舌打ちする諸星。

 図星と見抜いた猪上は、得意げに冷や水をぐいっとあおった。


「他の連中に焼肉誘われた時も適当に理由つけてぐわぁっだ。山崎の奴、お前と飯行きたがってたぞ」


 猪上はテーブルの上に肘を置きながら、グラスを持っている手で諸星を指した。


「仕事とプライベートは分けてるんですよ」

「俺との時は行ってんじゃねぇか」

「まぁ……残業みたいなもんですよ。責任者との付き合いは、うまいことこやってた方が後々楽かなと」

「なんだそら、かわいげのねぇ」

「今更でしょう」


 猪上との付き合いは、諸星が一年生の時からだ。


 初めて現場に入った日の翌日に、シフトが被ったのが始まりだ。

 初日は、手癖のように愛想よく周囲に溶け込んでいたのだが、この男に挨拶をした途端「なんだこいつスカしやがって気に入らねぇ」と罵られてしまう。


 その後、定時になるや否や、猪上は諸星を引きずり倒しながらラーメン屋に連れ去っていったのだ。

 ひとしきり諸星が嫌味や文句を言ったところで猪上の機嫌が治り、こうして時々ラーメンをおごってもらっている。


 何よりも他人の金で食べられるラーメンは美味なのだ。


「それに大勢は得意じゃないんで」

「そうか。ま、いいけどよ」


 猪上とのサシラーメンは気楽でいい。

 

 ファーストコンタクトが最悪だったおかげで、お互い気を使うことなく自然体で麺をすすれる。諸星自身も「この男は雑に扱っても問題ない」と割り切っていた。


「随分かわいい子たちじゃねぇか。え? どっちが本命だ?」

「別にそういうんじゃありませんよ」

「またまたすっとぼけやがって。お前恋愛を恥ずかしいこととか、かっこ悪いことだと思ってんだろ? やめときな、逆にだっさいぜ?」


 デリカシーの欠片もないような表情で猪上は揶揄う。


「歳をとってくると、若い男女を見ただけでなんでもかんでも恋愛に結び付けたがりますよね。あんまりしつこいと若者に嫌われますよ」


 それに合わせて諸星はカウンターを放つ。


「ああ言えばこう言いやがる」


 猪上は、オヤジ! 替え玉一丁! と追加の麺を注文する。即座にさっと茹でられた細麺が猪上のどんぶりに投入される。


「まぁなんでもいいけどよ、お前はどうでもいいと思ってる奴とか、気に入らない相手には素を見せるし、ある程度のところまでは話しやがる。俺みたいにな。そんなお前が俺にひた隠しにしたがるってことは、お前にとってはそれなりのことなんだろうよ」


 猪上は解した替え玉を一気に啜り、濃厚なスープを堪能していく。


「いいもんだぜ青春ってのは。スープみたいにドロドロしてると思いきや、ラー油のようにピリ辛にもなりやがる。こういうのは歳食っちまうと味わうことができねぇ。だから今のうちに堪能しとけ」

「はいはい、あんた辛いの苦手だろ」


 どうせ猪上のおごりだと思い、遠慮せずに諸星は替え玉とチャーシューを注文していく。

 諸星に煽られてラー油を多めに入れた猪上は、その後食べ終わるまで口を開くことがなかった。

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