10 激闘、さくらVS諸星
バンッと扉を開ける大きな音が響く。突然の大きな音に不意を突かれ、こちらを見る二人の顔は驚愕に染まっていた。
「阿澄崎さん!?」
「あ……阿澄ざ――」
「黙って聞いていれば、あんた何様のつもり!? 人様の家族勝手に助けておいて付きまとわれた? あんたが頼んでもいないのに勝手に介入してきたんじゃない!!」
風が強く吹きすさぶ。
その風にかき消されてたまるかとばかりに、腸の煮えくり返った私は諸星君に大声で咆える。
「いくら人様の命救ったからってね! 相手に何言ってもいいわけじゃないのよ! それなのに相手の気持ちもロクに考えないで気持ちよさそうに好き勝手罵倒して、勘違いしてるのはどっちよ!」
「なんだと!?」
「大体何よ! 生き方が違うって! 女の子泣かせて孤独に浸って自分かっこいいとか思っちゃってる訳? だっっっっっっさ! 痛々しいのよあんたって人は!!」
「……黙って聞いてれば好き勝手言いやがって! 関係ない奴は引っ込んでろ!!」
「引っ込んでられるわけないでしょ! この斜に構えたモラハラ野郎!! 謝んなさいよ! 結城さんに謝りなさいよ! あんたが傷つけたこの子に!」
「何でお前の指図なんて受けなきゃいけない! 俺に指図するな!」
「はぁ!? 自分が悪いってのに逆切れ!? ほんとありえない! 信じらんない! どれだけ自己中だったら気が済むのよこのロクデナシ!」
私と諸星君の醜い罵り合いは続く。
横から「あ、あの……」と仲裁しようとする声が聞こえるような気がしたが、そんなものを気にしていられる程、今の私は冷静ではない。
「良いも悪いもあるか! 鬱陶しいから鬱陶しいって言って何が悪い! お前もうざいんだよ! わかったようなこと口にしやがって! 大体、物陰に隠れてこそこそと盗み聞きしてるような卑怯者にとやかく言われる筋合いはない!」
「卑怯者はどっちよ! 結城さんが下手に出てればいい気になっちゃって! 人が本気で向き合っているのにまともに取り合おうとしないで! 目を逸らして! あんたの方がよっぽど卑劣じゃない!」
「ふ、二人とも落ち着いて……」
「あぁ、そうか。またお前の差し金か! 結城が教室に来たのも、このタイミングでここに呼び出したのも、全部お前が指示したことか! 余計なことしやがって!」
「お生憎様! 私は関係ないわよ! 偶々意図に気付いてここに来ただけ! 大体隠れてたからって卑怯者って何よ! 聞かれて困るようなこと口走ってるあんたが悪いんでしょ!? 責任転嫁するつもり!?」
「やめて……」
「滅茶苦茶言いやがって! こっちは放っておいてくれと言っているんだ! それをわざわざ追いかけて文句言いやがって! お前こそ何様のつもりだ!?」
「知らないわよ! あんたの孤独主義なんて知ったこっちゃないわ! 結城さんがどんな思いであんたに会いに来たのか知りもしないで! 結局あんたは人と関わるのが怖いだけじゃない! この臆病者!」
「この――」
「いい加減にして!!!」
私達の大喧嘩を遮る程の、結城さんの叫び声が響き渡る。
先程まで強く吹いていた風が凪ぐ。私たちも普段静かな彼女の大声に怯んで黙ってしまった。
「……っ!」
沈黙に耐えかねた結城さんは、口をぎゅっと締めて階段へ走り去ってしまった。
ああ、やってしまった。諸星君の非情な物言いについ腹を立てて、いつもの自分を忘れて怒鳴り込んでしまった。この二人の前で本性を晒してしまった。
また余計なことをしてしまった。彼女が自分で仕立て上げたこの状況を私の手で壊してしまったのだ。彼女を追いかけていいものか、わからない。
後ろではぁ~~~っと長く大きなため息が聞こえた。
後ろを振り返ると諸星君が疲労感を示すようにその場でふてぶてしくしゃがみ込んでいた。
その顔からは先程のぎらぎらとした威圧感は完全に消えうせ、眉間に皺をよせて曇らせた表情を浮かべていた。
「……何を見ている。追いかけたらどうだ。友達なんだろ」
――友達。私と結城さんの関係を友達と言っていいものかはわからない。
でも、もし友達と言えるものであれば、泣いている子を気まずいからという理由で放っていいはずがない。
私の本性だとか失態なんかどうだっていい。結城さんが傷ついたなら、それに寄り添ってあげるのがいつもの私らしい行為だ。
……こんな男にそれを示されるのは少し癪だ。でもこれは彼なりの気遣いなのかもしれない。私に対してか、結城さんに対してかはわからないが。
「あなたに言われなくてもわかっているわよ」
屋内へと向かうための扉に走り向かおうとするが、振り返って彼の方を向く。
「……もしかして、言い過ぎたとか思ってる?」
「……必要なことだ。言い過ぎるくらいでちょうどいい」
諸星君はこちらを見ずに、その言葉を雑に吐いて捨てた。
「……あっそ」
今度こそ私は結城さんの後を追うために、階段のドアノブを回して屋上から出ていく。背後から再び大きなため息が耳に入るのを感じた。
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