【第四話】麗羅ちゃん
いらっしゃいませ。
お待ちしておりましたよ。
今日は一人だけお客様がいらっしゃいます。
貴方が来ると思って、お話はまだしていないのですよ。
さあ、いつもの席へどうぞ。
本日は、カフェラテとイチゴショートケーキです。
今時期のイチゴは甘くておいしいですよね・・・
では、お待たせしました。
背筋も凍るほどの怖い話をしましょう。
タイトルは・・・
『麗羅ちゃん』
アタシは対馬菜緒!元気いっぱいの小学六年生!
今日はクラスに転校生が来るみたいで、教室がすごく騒がしい。
ガラララ・・・・
教室のドアが開き、先生と一緒に女の子が入ってきた。
真っ黒なさらさらの髪、フリルのついたかわいいワンピース。
まるでお嬢様みたい!
「聖野咲麗羅です」
名前もかっこいい・・・麗羅ちゃんっていうんだ。仲良くなりたいな。
「それじゃあ、席は対馬の後ろで」
後ろに空席があったから、もしかしてって思ってたけど!
麗羅ちゃんがこちらへ向かって歩いてくる。
「よろしくね!アタシ対馬菜緒!」
「よろしく、対馬さん」
「菜緒でいいよ!」
すると隣の席の南海斗がアタシに話しかけてきた。
「お前みたいなお調子者、"ナオ"じゃなくて"アホ"でいいだろ!」
海斗はすぐいじってくるから、本当に嫌い!
クラスのみんなも笑ってるし、恥ずかしい・・・
「・・・菜緒、よろしく」
麗羅ちゃんは、顔立ちも整っていてどこか大人っぽい雰囲気がある。
すぐにクラスの人気者になった。
でも麗羅ちゃんは、あたしと一緒に居てくれた。
移動教室も、休み時間も、トイレも一緒。
「麗羅ちゃん!今度一緒に遊ぼうよ」
「学校帰りであればいいわよ」
「やったー!どこで遊ぼう?」
「出来れば室内がいいわ」
「そうだな~ 麗羅ちゃんのおうち行ってみたい!」
麗羅ちゃんの顔が少し曇る。
「・・・ごめんなさい 私の家は駄目なの」
「そっか・・・じゃあアタシの家で遊ぼう!」
麗羅ちゃんの家って執事とかメイドさんがいて入れないのかも!
よくアニメでも見るし。お嬢様って大変なんだな。
その日の放課後、アタシの家に麗羅ちゃんが来た。
「はい、これ ママがお菓子とジュースくれたよ」
「・・・この袋に入っているのがお菓子?」
「そうだよ 見たことないの?」
麗羅ちゃんは珍しそうな顔でポテチを見ている。
お嬢様のお菓子はやっぱりパティシエが作ってるのかな。
あっという間に時間が過ぎ、夜の七時になってしまった。
「麗羅ちゃん、送ってくよ」
「え・・・いやいいです 申し訳ないですし・・・」
「いいのいいの こんな夜道を子供一人で歩かせるわけにはいかないからさ!」
ママが麗羅ちゃんのことを車で送ることになった。
「麗羅ちゃんの家どこら辺?」
「北山の方です」
「オッケー それじゃあ、動くからシートベルトしてね」
「あ、あの 家までじゃなくて家の近くで下ろしてもらえますか?」
「え?なんで?」
「ママ!麗羅ちゃんの家はね見張り?とかいるからアタシたちみたいな一般人は入れないの!」
「ええ、麗羅ちゃんお嬢様だったの!そしたら近くで下ろすね」
「・・・ありがとうございます」
しばらく走ったら、麗羅ちゃんの住む北山に到着した。
「どこら辺まで行けばいい?」
「次の信号を右に・・・そしたら二本目の道を右で・・・」
言われた通りに車を走らせる。
「ここで大丈夫です お邪魔しました」
「気を付けてね~」
「また明日ね!バイバーイ」
車から降り、街頭の少ない道を歩いていく。
さすがのママも心配みたいで、車から麗羅ちゃんを見守る。
麗羅ちゃんは道の途中にあった普通のアパートへ入っていった。
「さ、無事帰れたみたいだし帰りますか!」
「麗羅ちゃん、あのお家に住んでるのかな」
「確かにお嬢様みたいの子だったけど、見た目で家のことまで決めつけるのは駄目だよ」
ママの言う通りだ。お嬢様みたいって勝手に思って大きい家に住んでるって決めつけてた。
だから、麗羅ちゃんも家に呼びずらかったのかな・・・
明日ちゃんと謝ろう。
「あ、でもね 麗羅ちゃん"ポテチ"初めて見る反応してたんだよ」
「そうなの? まあ、親が厳しい子もいるし・・・」
そっかあ、あまり深く触れないようにしよう・・・
「そうだ、明日菜緒の好きなハンバーグ作るから寄り道しないで帰ってきなさいよ~」
「やったー!楽しみ!」
それから車の中で、学校のことやママの仕事の話などいろんな話をした。
次の日、学校に行くと麗羅ちゃんの右目に眼帯が付いていた。
「麗羅ちゃん、どしたの?それ」
「・・・できものできちゃって」
「大丈夫?目見えなくなったり・・・」
「大丈夫だって」
少しきつい言い方・・・こんな麗羅ちゃん初めて見た。
そうだ、昨日のこと・・・ちゃんと話そう。
「麗羅ちゃん、実はね昨日麗羅ちゃんがお家に入っていくの見ちゃったんだ
・・・勝手にお嬢様って決めつけてごめん」
麗羅ちゃんは窓の外を見ながら、頭を下に振る。
「・・・別に気にしない」
「ごめん・・・」
なんとなく気まずくなってしまった。
「じゃあ、今日私の家に来ない?見せたいものがあるの」
「いいの?」
麗羅ちゃんから家に誘ってくれるなんて嬉しいな。
どんなお部屋なんだろう・・・すごく楽しみ!
放課後になり、麗羅ちゃんのお家に向かう。
北山付近には立派な建物がたくさんある。
建物に見惚れていると、道路を挟んだ向かいの歩道に真っ白集団が歩いていた。
真っ白な長いワンピース、顔を白い布で覆っていて顔が見えない。
「なにあれ・・・」
「菜緒、あんまり見ない方がいいわ」
少し早歩きで麗羅ちゃんの家に行く。
麗羅ちゃんの家は結構新しめのアパートで綺麗だ。
鍵を開け、中に入る・・・
真っ白な壁紙と床に、真っ白な机とベッドだけが置いてある。
「・・・もしかして、ミニマなんとかってやつ?」
「そうだけど少し違うわ・・・」
ベッドの上に座ると麗羅ちゃんは話し出した。
「私のお母さん、宗教に入っているの
それも"幸福の白"」
「宗教って、社会の授業でやったやつ?うちは仏教だよ」
「それとは・・・少し違う
"幸福の白"は白いもの以外は部屋に入れちゃいけない、食べてはいけない」
「で、でも髪は?みんな黒いじゃん」
「この髪、カツラなの 髪は全部お母さんに剃られた
このカツラもいつもは隠してる」
理解が追い付かない、社会の勉強苦手だから全然わからないよ・・・
ガチャ
後ろの扉から鍵の開く音がした。
そのままゆっくりドアが開く。
中に入ってきたのは、さっき外で見た全身真っ白の人・・・
「お帰り、お母さん」
お母さん・・・?この白い人が・・・?
「いやあああああああああ!!やめて!!"白"以外家に入れないで!!今すぐ出ていけえええええ!!!」
すごい悲鳴とともに、麗羅ちゃんのお母さんがこちらへ走ってくる。
「出ていくのはお母さんの方でしょ」
ザクッ・・・・
真っ白なワンピースは赤く染まり、麗羅ちゃんのお母さんはそのまま地面に倒れた。
その上に麗羅ちゃんがまたがり、何度も何度も・・・何度も・・・カッターナイフを刺している。
「あはははははははは!!真っ赤な血!!!綺麗!!!」
真っ白な空間の中に、真っ赤な血・・・
アタシはどうすることもできず、固まったまま。
カッターナイフの刺さる音と麗羅ちゃんの笑い声だけが部屋に響く。
誰か、誰か助けて・・・
「菜緒!!!」
名前を呼ばれ、ドアの方を見ると汗だくになったお母さんがいた。
「菜緒・・・なんで真っすぐ帰ってこないのよ・・・」
アタシはすぐにお母さんのもとへ駆けつけた。
麗羅ちゃんは笑顔でずっとカッターナイフを刺している。
さっきまで白い布で見えなかった顔は、こちらをみて笑っていた。
お母さんが通報してくれていたため、すぐに駆け付けた警察が麗羅ちゃんを取り押さえた。
それからの記憶は、ほとんどない・・・
数日後、お母さんからある話を聞いた。
麗羅ちゃんの住む"北山地域"は宗教の多い街で有名だったそう。
その中でもトップレベルでやばいといわれているのが"幸福の白"
この宗教では"白"に対する執念がすごく、白以外のものを見ないよういつも白い布を被っている。
少しでも違う色が身につくと、パニック状態になってしまうらしい。
一体どんなことが行われているのか謎。
そして、警察官が麗羅ちゃんの家を捜索したところ麗羅ちゃんの"右目"が出てきたという。
あの日、あたしの家から帰った後何が起こったのか・・・
一番引っかかることは、麗羅ちゃんがアタシに
"見せたいものがある"
と言って家に誘ってきたこと・・・
一体何を見せたかったのだろう。
未だに不明のまま・・・
・・・中学二年生になった今でもあの時の光景は目に沁みついている。
たまに夢になって出てくることもある・・・
麗羅ちゃんはどうなったのか分からないことだらけ。
ソファの上に寝っ転がり、スマホをいじっていると
ピンポーン
「ごめん、菜緒出てもらえる?」
「はーい この間通販で頼んだメイクセットかな~?」
ワクワクしながら玄関のドアを開けると、
真っ赤なワンピースに真っ赤な髪色の女性が、パンフレットを持って立っていた。
「こんにちは "聖なる赤"の勧誘に来ました "聖野咲"と申します」
・・・おしまい
どうでしたか?
やっぱり血はあらがえないですね。
あら?イチゴが残っていますよ。
食べないのであればお下げしますが。
あちらのお客様もイチゴを残していなくなってしまいました。
今はイチゴの時期なのにもったいないですね。
貴方も残すのですか?
仕方がないです・・・
ではまた、お待ちしております。