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観察眼

  王都連続殺人事件。


この王都を暗黒に包む、恐怖と化した事件だったがようやく解決への糸口を見つけ動き出したのであった。


今までは聖騎士と冒険者ギルドの間にあった対立という壁の隔たりで事件の調査の取り合いがあり、一向に進展がなかった。


だが服部にとってそんなものはどうでも良かったのだという。


無駄なプライドで事件の解決を止めている聖騎士たちを少しだけ泳がせてどうやって解決するか見ていたが、一向に進展がないのを嘲笑っていたというのだ。


なんとも性格が悪いし、嫌味とか煽りが非常に腹立たしい。


しかし、こうして解決のためのものを手に入れたからと服部だけは満足していた。


そう……、服部だけは。


そんなこともありつつ私たちは服部の言う、殺された被害者の家へと向かうために聖騎士の馬車に乗って走っていた。


馬車に乗っているのは私と服部、聖騎士からリーシア、イレイナ、冒険者ギルドからアレン、ギルマスの六人で向かっていた。


なぜ聖騎士の馬車で移動いてるのかというと、今の王都は事件の被害で王都の門が閉じられており、王都外への出入りは禁止とされているため、王都の中に入ることや出ることができないでいるのだ。


つまり、緊急事態宣言中だ。


だからこそ、王都を外出できるのは聖騎士だけとなり、聖騎士の馬車に乗っているのだ。


その馬車の中で六人はただ黙って馬車に揺られながら、ただ誰が最初に言葉を発するかを探っているように見える。


かく言う私も同じく、この状況と雰囲気に飲み込まれて何か会話しようか迷っていた。


誰もが沈黙した雰囲気になると何か話題を出して会話をするが、今はそんな状況でできるわけがない。だから私にとっては地獄すぎる!


…どうしよう。ほんとにこの沈黙、耐えられない。


いや、流石にこれではダメだ! 何か、何か話題は……、あ!


と、私は向かいに座っている服部に被害者について尋ねることにした。



「ねえ、服部。どうして被疑者が農民の人だってわかったの?」


「ああ、そうだった。まあ、見ればわかる話だが」



馬車から見える外の景色をぼんやり眺めていた服部は私の方を見てからニヤリと笑った。


まるで聞いてくれるのを待っていたかのように説明を始めた。



「まずは被害者の服装にはズボンの裾、膝の辺りに黒ずんだ汚れ、爪や腕には茶色い染みのようなものが付着していた。さらに首から上は黒くて、そこから下は白い日焼けの跡があった。つまり毎日太陽の下で仕事をするような職業とわかる。太陽の光を常に浴びて、ズボンや腕の落ちない汚れ、そこから導き出せる答えは農民で間違いない」



と、服部は言い切った。


確かにこれから向かう被害者の職業は農民で間違いないなかったのだ。


この事実を知った時は流石にリーシアさん含めた聖騎士団はありえないという感じで驚いていた。


これに驚いたのもあるが、その他のものも気になったので聞いてみることにした。



「それじゃ、被害者の生活が荒れているとか、酒に明け暮れてたっていうのはただの偏見か?」



私の後に続いてアレンが聞いてみると服部は続けてその他についての説明もしてくれた。


その隙に周りをみると、リーシアさんやギルマスも他の場所に目を向けているものの服部が話す内容に耳を向けているようだった。



「それは服装の汚れや髪の手入れ具合からしてわかる。あれだけ汚れが目立っていたら汚れを落として綺麗にしたりするがそれをしないってことは単に気にしないのか、指摘する人がいないってことだろう。もし指摘する人がいないなら、生活が荒れるだろう。酒に関しては体型が細身の割にやたら腹のあたりがぽっこり出ているのを見れば酒を毎日飲んでいるという証拠だ。」


「なんでそんなことがわかるの?」


「観察してればわかる。君らもわかっただろ?」



服部がそう言って私やリーシアさんたちの方を当たり前だろという感じで聞いてきたがそんなことを聞かれた私たちはその問いに答えられなかった。


そこまでわかってたら服部に直接聞いていないのだ。


私はなんだか申し訳なくなり、恥ずかしくなってきて、つい目を逸らしてしまった。


リーシアさんのほうをチラリとみると彼女も同じく目を逸らして景色を見ているふりをしていた。



「…ま、まあね。それより、犯人の特徴は? それもやっぱり観察したから?」



私は少し動揺しながらもなんとか取り繕って誤魔化して、逃げるように他の話題を



「被害者の顔には手のあとがあった。おそらく被害者を殺すために大人しくさせることが必要だったのだろう。それに手形の大きさから見ればかなりの大男で間違いない」


「それなら、犯人が馬を扱う職業っていうのは?」


「被害者が仰向けになっていたことからわかる。服装が前のほうだけ濡れていて、背中のほうは全く濡れていなかったからだ。王都は昨日まで二日間、雨が降っていたがあまり服装が乾いてないところを見るとおそらく被害者を殺したあと、馬車に運び込み、あの場所に死体を放棄したという感じだろ」


「へぇ。じゃあ、犯人のミスってなんなの?」



私が尋ねると服部はポケットの中を探ってから何かを取り出してその場の全員に見せてきた。



「これは……なんだ?」



手の平にあったのは金属の何かの部品のようなものがだった。ギルマスが不思議に思って聞いてみる。



「被害者が片方の手を何やら力強く握っていたから何かと思って、指を広げてみるとこれが出てきた。見る限りこれは馬車の車輪の部品だろ。だがなぜこれを握っていたのか?」


「どうしてだろう…。 何か重要なものとか?」



私がその場のパッと閃いた考えを言葉にしてみたけど服部の表情がなんだか微妙な顔を見て、もしかしてトンチンカンなことを言ってしまったのではないかと思い、言い訳を考えていると。



「いい線をいってるな。もちろんこれは犯人につながる大事な手がかりになる。この部品を被害者は死に際に犯人を追い詰めようと最後の最後まで粘った結果だ。これでこの事件の犯人を追い詰めることができる」



そう言い切った服部の目はこれまでのやる気のないジト目から変わって、まるで別人みたいに目元が、口元が笑顔になっていた。


その笑顔を見ると彼はとても楽しんでいるように見えた。


ただ、私はこの目は好きではないことがわかった。


その目は眼光は鋭く睨みつけ、見るものすべてを背筋を凍りつかせ、硬直させてしまうだろう。


本人はそのつもりがなくても、この目を向けられようものなら私は動けなくなってしまうに違いない。


現に私は自分の手が震えていることに気づいたのだ。


彼の人を見る観察眼と状況を一瞬で見抜く洞察力は私の何倍も上だと感じるものだった。



本作品を読んでいただきありがとうございます。

感想・評価・レビューなど受け付けております。

まだまだストーリーを書いていきますので応援、よろしくお願いします。

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