対立
「おい、そこで何をしている!」
突然私たちを制止するように背後から大きな声が飛んできた。
後ろを振り返ると、こちらに向かってと厳しく凛とした女性が険しい顔をして歩いてきた。
女性が身に纏っている甲冑や腰にさしている剣を見て一目で聖騎士団の人だとわかった。
「ここは部外者立ち入り禁止のはずだ。誰の許可を得ている」
私はこんなに圧をかけられて注意されることがなかったため、少したじろいでしまったが、服部はそんなことお構いなしで続けていた。
「おい、聞いているのか? そこのお前に言ってるんだが」
「ああ、なんだ聖騎士か。ちょっと待ってろ」
服部は顔を少し向けたがすぐに死体の方に向き直り、女騎士に背を向けながらそう言った。
「おい、まだこっちが調査してるんだ後にしろ」
するとその女騎士と服部の間にギルマスが圧かけるように割って入ってそう言った。
「それはこちらの仕事のはずだ。冒険者ギルドが出てくる必要はない」
「いいや、悪いがギルドもこの事件を調べる権限はある。それにこれ以上、聖騎士に任せていると死人が増えそうなんでな」
ギルマスは女騎士の顔をまっすぐ見ながら嫌味全開でそう言った。
女騎士はそんなことを言われて図星だったのか、ギルマスをさらに鋭く睨みつける。
この状況から見るに今回の事件は冒険者ギルドや聖騎士たちにも大きな不安や混乱を招いているようだ。
「イレイナ、どうしたんだ?」
二人がいがみあいをしているとさらに後ろか数人の女聖騎士がやってきた。
その聖騎士の中には私が一番よく知っている顔があった。リーシアさんだ。
「これはなんだ? 調査はまだ終わってないのか?」
「申し訳ありません、団長。この男が邪魔をしてできないんです」
「男だと? 一体、なんだ……」
イレイナと呼ばれる騎士が今の状況を報告するとリーシアの表情は険しくなり、こちらに顔を向けるのと同時に響子と目が合った。
「キョウコか。これは一体どういうつもりだ?」
「いえ、これは………」
…どうしよう。リーシアさん、めっちゃ睨んでるし。なんて説明するべきなんだろう。
私はリーシアさんの眼光の鋭さにらだ狼狽えることしかできなかった。
説明しようにもこの緊迫した雰囲気の中で、しかも勇者を支援してくれる聖騎士と服部に調査をさせようとする冒険者ギルドが対立しているこの状況でどう説明するべきか迷っていた。
「おい、いい加減にしろ! もうこっちの領分だから、聖騎士は引っ込んでろ!」
「なんだと? 口の利き方には気をつけろ! 牢屋にぶち込むぞ」
ギルマスが痺れを切らし、聖騎士のリーシアに迫り、どなり散らしていた。
未だに調査の進展も進まず、ただ口論が続く現場にどう収拾つけるべきか、その対応にただ焦って戸惑うばかりだった。
「それよりも、犯人を追いたいんだがどうするんだ?」
こんな緊迫した空気を切るように言ったのはとても退屈そうな顔をした服部だった。
言い合いをしていた両者ともに何を言ってるんだという顔をしていた。
私も一体何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
「服部、お前は何をわかりきったことを言ってるんだ? そんなもの当たり前だろ!」
「そうじゃない。こっちは手がかりを掴んでるんだが、この事件の犯人を捕まえる気があるなら、さっさと動いた方がいいぞ。雲隠れされたら面倒だからな」
ギルマスが呆れた感じで言うと、服部は即否定しながら、また嫌味混じりで言う。
「その言い方だとまるで犯人がわかったような口ぶりだな」
「ああ。だからさっきからそう言ってるんだ。わからないか?」
不満が溜まっていたイレイナは挑発するように服部に言うと、さらに嫌味で返されてしまった。
「どういうことか、説明してくれる?」
服部の近くで聞いていた私は話の概要が見えないためにその理由を聞いてみる。
私の言葉を聞いた服部は途端にニヤリと笑みを浮かべていた。まるで待っていたと言わんばかりのものだった。
「まずはこの男は農民で一人暮らし、生活が荒れ、毎日酒に明け暮れていた。この男は別の場所で殺された後にここに運ばれてきた。犯人は男、大柄で力は強い、慎重な性格で職業は馬を取り扱う仕事で間違いない。それに犯人は一つミスを犯した。だから焦っているに違いない。そして犯人は今、この王都にいるに違いない」
と、ここまで服部は事件の概要、犯人の特徴などスラスラと話していたがはっきり言ってどういうことかさっぱりだった。
その内容を聞いている私含め、リーシアさんやギルマスも服部の言ってる意味がさっぱりわからないというキョトンした表情だった。
しかし、服部自身はとても満足そうな顔していた。
「え? …えっと、ごめん。なんだって?」
聞いてみたはいいものの、私は服部の思考と話す内容が追いついていなかった。
いや、それはここにいる服部以外の皆も同じ気持ちだ。
「その色々聞きたいのだけど、どうしてこの人が農民だってわかったの? てか、服装から見てわかるの?」
「なぜわからないんだ?」
私は頭が混乱しているため、整理しようと服部に聞いてみるが服部は眉をひそめ、不満たっぷりな顔をしながらそう言った。
「いや、だってこの状況でなんでそんなことがわかるの?」
「お前らが変なプライドを持って言い争っている間に俺は調べていたからな」
そう言った服部の目はとても鋭く、相手の心を射抜くようにリーシアさんたちやギルマスを睨みつけた。
そんなことを言われた皆はとても不快な表情をしていたが、何も言わないところを見ると図星だったのだろう。
「まあ、それはともかく。これで情報引き渡す条件ができたしな。聖騎士には今まで起きた事件の詳細を俺にくれれば事件は解決できる。さて、どうする?」
服部は不適な笑みを浮かべながらリーシアをまっすぐに見ながら、静かに歩みより、脅すような感じで条件を突き出した。
リーシアの表情は顔を曇らせ険しい表情になった。服部の条件があまりにも不服なのか、それともただ服部に情報を渡したくないのか。
「…わかった。情報を渡そう」
これまでの状況を察したのか、リーシアは根負けした様子でため息をついて承諾した。
そう言うリーシアを待っていたかのように服部はニヤリと笑みを浮かべて、勝ち誇った顔をしていた。
「いい選択をしたな、聖騎士団長さん。ではまずはこの男の身元と家の住所を調べてくれ。それから犯人を追うとしよう!」
そう言う服部の顔はとても生き生きとして、楽しんでいるように見えた。
だがこれで今まで隔たりがあった事件がようやく動き出す予感がした。
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