ある男との出会い
とある酒場でご馳走をいただくことになって、食事が来るまで王都で起こっている事件のことを話していると、上の階から何やら爆発音が響いてきた。
セリアさんが怪訝そうな顔をして、ため息をつきながら上の階に繋がる階段を登っていく。
私たちも気になって、その階にへ続く階に登っていく。
人の家に土足で踏み込むのは気が引けるが安全を確認するためだと、自分に言い聞かせながら階段を登っていく。
階段を登って、奥の部屋にいたのはこの世界ではない格好をした男、おそらく私たちと同じ、異世界からの来た者だとわかる。
なぜならこの世界では見たことがない服装、つまり「学ラン」を身にまとっていた。
さらには黒髪で黒い瞳、日本人の特徴をしっかりと表していた。
「おい、ハットリ! いい加減にしろよ、お前、事件の調査はどうした?」
男の名は「服部」という名前らしい。
セリアさんが大声で男に怒鳴っていたが彼はどこか他人事のような顔をしていた。
あれだけの爆発音を出したのにも関わらず、あまり申し訳ないと思っていないように見える。
だがセリアさんが言った、事件の調査というのはどういうことなのだろうか。
「ちゃんとやってるけど、聖騎士が的確な情報をくれないから。こっちだって動けるわけないじゃん」
服部は頭をポリポリと掻きながら、言い訳じみたことを言っていた。
「的確な情報って、ギルドマスターから貰った資料は? それを渡しただろ! つーか、お前この部屋、なんだよ? 変な匂いがすんだが……」
セリアは鼻を抑えながら、顔をしかめて辺りを見回しながら言う。
「ああ、さっきまでタバコを吸っていたから匂うだけだ。特に気にすることはないだろ?」
「お前は気にしないだろうが、私が気にするんだ! ハットリ、これ以上事件の調査をする気がないなら、これまでの家賃を請求するぞ」
セリアさんは鬼のような形相で鬼のようなことを言い出した。
だが当の本人はなんのことだがわからないとのことで頭をぽりぽりと掻いていた。
見る限り彼は金に対して、そこまで執着心がないのだろうか。
「だから、そんなこと言ったって……てか、後ろにいるの、誰?」
「あぁ? ああ、客人だよ。 お前が変なことをしたせいで大変ご迷惑をおかけしているんだ」
「そうか。で、誰だ?」
「っ! だからぁ!」
なんとなくだが彼は理解が遅いのか、ただ頭が悪いのかもしくは人に興味がないのか、セリアさんの話を全く聞いてないように思える。
セリアさんも呆れてため息をつく始末。
こんな男に事件の調査なんてできるのだろうか、これでは単なる詐欺ではないかと思っていたが、しかしその男は私をじっと凝視したあとに指差してこう言った。
「客人か。綺麗な服装をしているな。最近召喚された勇者か?」
放たれた言葉に私はとても驚いてしまった。それは隣にいたセリアも同様に私を見て驚いていた。
そんなことを一言でも言ったのかと頭の中で考えを巡らせるが、一度もそんなことを言ってないし、そもそも幻影魔法がかかったローブを纏っているからこそ彼の目には普通の女の子にしか見えないはず、だったらなぜ?
私は考えたが一切、そんなことを言った覚えがなかった。ではなぜ彼は私たちにそんなことを言ったのだろうか?
「あなた、一体何者なの?」
私はつい身に纏ったローブを脱いでしまい、彼の部屋に入って問い詰める。
その姿を見たセリアさんも驚いた表情をして、まるで何か信じられないものを見たかのような顔だった。
「ああ。それより、例の事件の調査の依頼か? それともまた何か新しい事件か?」
「私の質問に答えて。どうしてわかったの?」
彼を問いただそうとしてもはぐらかされるばかりで応じようとする気が一切ない。
その理由を話さないのは何か裏があるのではないかと思った私は彼への不信感が募るのだった。
「事件の調査じゃないのなら、他の依頼はお断りする。俺はこう見えて忙しいからな」
…なんなのよ、こいつ! 頭にくる言い方ばっかしやがって!
そう啖呵を切った彼の言い方に少しイラッとした私は少しばかり意地悪なことを言ってみることにした。
「そうするわ。ここにいても理由を教えてもらえないじゃね。それにこんなペテン師に誰も調査の依頼なんて聖騎士団がするはずないから」
私がそう言った後に横目で彼を見ると、こちらをじっと見つめていて気のせいか、その顔は笑っているように見えた。
「面白い意見だ。俺がペテン師呼ばわりされるとはとても心外だが、そう言われても仕方ない。ならばなぜ君たちが勇者とわかったのか、その証明を……」
そう言おうと床から立ち上がった彼はふと窓の外を凝視して黙り込んだ。
「と、思ったがその証明はまた今度にしよう。セリアさん、どうやら事件の調査は進展しそうだ」
「は…?」
と、何かを見たのかそう言い切ったのだ。
一体なんのことかさっぱりわからないでいると、何やら下の方から物音が聞こえてきた。
ダンダンと階段を誰かが駆け上がってくる音がすると、その人物の姿に驚いた
部屋に入ってきたのはとてもガタイがよく、腰に剣をさしており、装備を装着してた派手な青色の髪の端正な顔立ちをした青年だった。
「ハットリ、ギルマスが呼んでる。すぐに来てくれ」
「アレンか。君が来たということは違う死に方をしたのか。何か変なものでも見つけたか?」
「今度の死体は遺書があった。今はギルマスが現場を押さえている、急いでくれ」
アレンと呼ばれる青年は「ギルマス」と言っているのを見ると彼は冒険者と思う。
「わかった、行こう。あとついでにそちらのお嬢さん方はどうする? 俺をペテン師と呼んだからには証明をしたいが…。ついてくるか?」
服部は支度をしながら、私たちのほうを振り返って聞いてきた。
そんなの今さら聞かれなくても答えは決まっている。
「私もいくわ。証明できるものなら」
彼が私たちを勇者と見破った理由が知りたいがために事件の現場に行くことにした。
「そうか。死体を見たことはなさそうだが、気分悪くなっても文句言うなよ」
「そんなもん、今更よ」
彼の煽りに本来ならば行かないべきなのだがこの時の私は興奮していたのか、好奇心が勝っていたのか、すぐに決断した。
こうして私は彼に誘われるがまま、事件現場へと向かうのであった。
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