酒場でご馳走になろうと
王都の見学中に女性が男たちに絡まれているところ助けた私たちはそのあと、女性を家まで送り届けるために一緒に歩いていた。
助けた彼女の名はエリーと名乗ってくれた。
私たちも一通り自己紹介をした。一応勇者ということは隠して下の名前だけを伝えた。
「へぇ、観光で王都にいらしたのですか?」
「はい。実はそうなんです」
…というのは嘘なんだけど。
エリーは私たちをどこかの街からやってきた旅人だと思っているらしい。
本当にこのローブには幻影魔法がかけられているんだと改めて知った。
自分では実際どうなっているかわからないものなのだ。
ローブを着ていても、姿や顔の形も声も自分たちの見た目は一切変わらないため気づきにくいが人から見ればちゃんと変わっているんだとわかった。
「ですが最近あまり良くないことを聞いたので気をつけてくださいね?」
「良くないことって?」
エリーがそんなことを言ったのでさくらがどんなことか聞いてみると。
「実は最近、魔族が攻めてくるという噂もありますから。そんな噂を聞いてから国は武装強化を始めたとかで、この王都には勇者も召喚されたとかで皆、活気が溢れてますよ」
なるほど。勇者の存在はやはりこの国の人々には少なからず、希望を与えているらしい。
エリーからそんな話を聞きながら、なんだか誇らしげな気分になっていた。
たわいない会話をしながらエリーの家だという場所についたようだ。
目の前には一軒の木造で作られた店のようなものだった。
少し上の方に目線を上げると何か看板がかけられていた。
「セリア酒場…?」
異世界の文字で書かれているが勇者の能力なのか、読めることができた。
「エリーさん。ここは酒場だけど、ここであってるの?」
「はい。私、ここの従業員として働いているんです。あ、どうぞこちらへ」
私たちはエリーに誘導されてまだ開店していない酒場へと入っていく。
入った店内にはもう一人の女性が椅子に座って新聞を読んでいた。
「ただいま、セリアさん。遅くなってすいません」
「おかえり、エリー。随分遅かったじゃねぇか。こいつらは?」
私たちを出迎えてくれたのは純金のように光る金色の瞳に褐色肌にそして白色の白髪にこれまたこの人も豊満なナイスバディの女性だった。
そして何よりも特徴的なのは長く尖った耳、この特徴を踏まえると彼女はダークエルフだとわかった。
少しぶっきらぼうな口調だが、とてもエリーを大切にしているのだろう。
「すいません、セリアさん。トラブルがあったのですが、こちらの方々に助けていただきまして。旅人らしいです」
「そうだったのか。それはすまないことをした。なにぶん、ここら辺の連中はろくなやつがいないから。感謝するよ」
ろくなやつではないとわかったのか、エリーが言ったことに安心したのか、セリアはふっと笑みをこぼした。
「どうだ? 開店まで少し時間があるし、うまい飯でも食っていかないか?」
「いいんですか?」
セリアさんからご馳走を振舞ってくれると言うことでいただこうと思う。
「それではお言葉に甘えて」
「でしたら、すぐに支度をしますね」
エリーさんはそう言って私たちに振る舞う料理に支度をするために店の奥へと消えていった。
私たちはセリアさんに誘導されて食卓に並べられた椅子に腰をかける。
セリアさんは飲み物を持ってきてくれるために店の奥へと入っていった。
その間に店内を見回してみた。
とてもこの店が繁盛しているかと思う、店の内装が綺麗に整えられているし、今座っている椅子もとても腰に負担が少ないように作られてる。
酒場にしてはとても綺麗すぎるくらいだ。
「いつも二人でこの店を切り盛りしているのですか?」
「いや、少ししたら他の従業員たちも来るさ。私とエリーはここに住んでいるから、そう見えるだけさ」
「そうだったのですね」
セリアさんが私たちの飲み物を持ってきて机に並べてくれた。
飲み物を手に取り、一口飲み、口の中を潤す。
ふとセリアさんがさっきまで読んでいた新聞がの表紙が目に入る。
最初に目に入った表紙の文面は魔族に関する文面があったがもう一つの文面が気になった。
「王都に蔓延る闇……?」
「ああ。今、王都を騒がせている事件だよ」
「事件…? 王都でなにが起こっているのですか?」
その話を聞こうとセリアさんに聞いてみると、少し険しい顔をした。
そんなにこの事件について話したくないのだろうか。
「まあ、いいか。一応知っておいて損はないだろう」
セリアさんはため息をついて、椅子に座って私たちにその事件を話してくれた。
「その事件はなんの前触れもなく、突如起きたんだ」
その事件は王都の平凡な日常の中で起こったのだ。
事件当日、その日も何も変わらない日常を終えようとしていたが深夜ある不審な人影が見えた。
壁を背にしてよりかかって倒れており、項垂れているようだった。
不審に思った通行人が不審に思い、近寄って声をかけようとしていたら、それは酔っ払って眠っているのではなかったのだ。
それは眠っているのではなく、何かにもがき苦しんだかのような非常に見るに耐えないものだった。
この事件は瞬く間に国全土に広がり、噂となった。
調査した王国聖騎士団によると体内には人の有害となる毒物が検出されたらしい。
だが犯人は未だ見つかっておらず、難航しているとのことだ。
それから数日経ったある日、またもや同じ死体が発見されたのだった。
調査を進める中での二度目の事件で王都には恐怖と不安が広がっていた。
さらにその数日後に三人目の死体が発見された。
人々は魔族の仕業ではないかと噂しており、王都にはさらに闇が深まるばかりであった。
調査の進展は未だなく、犯人の目星もまだついておらず、国民からの聖騎士への不満や批判が耐えないそうだ。
「というのが今、起こっている事件のことだ」
「そうなんですね。それにしても随分詳しいですね」
美琴がふいにセリアさんに聞いてみると彼女はなんだか不服そうな顔をした。
何か失礼なことを言ったのではないかと内心焦り、少しフォローしようとしたがセリアさんはその理由を話してくれた。
「いや、実は私がというより、その事件に詳しいヤツがいてな」
「詳しいヤツって、その事件に関わっている人ってことですか?」
私がそう聞くとセリアさんはまた少し、顔をしかめた。
…あれ、そういうことではないのかな?
「ああ、あいつはそういうのじゃ……」
と、セリアさんが何か言いかけた瞬間、何かが爆発するような大きな音が上の階から響いてきた。
何かと思い、私たち三人は上の階をたさ呆然と眺めているとセリアさんが「またか」とぼやきながら、ため息をついて店の奥へと消えていった。
私もなぜか上の階に一体何があるのか気になってしまい、セリアさんのあとをついていった。
あまり人の秘密を覗き見するものではないと思うが、その時の私はどうかしてたと思う。
店の奥に入るとすぐ目の前に上の階へと繋がる階段があり、そこを登っていくと廊下が見えてくる。
階段がを登ると奥の方の部屋からセリアさんともう一人、誰かと言い合っている声が聞こえてくる。
そのまま釣られるように奥の方へと歩いていき、セリアさんの背中からその部屋のほうをのぞき見るとそこにはこの世界では見慣れない格好をした男がいた。
要するにその男は、異世界からの来訪者のようだった。
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