鍛錬
アナスタシア王国のエリカ女王陛下との謁見の日から数日が経っていた。
勇者として私とさくら、美琴の三人は日々、勇者の鍛錬を励んでいた。
勇者といえど三人とも職業がバラバラの上にそれぞれの役割も違う、最大の力を発揮するには各々の能力を鍛え上げること、故に鍛錬を受ける内容も違うわけだ。
まずは美琴。美琴の職業は【重戦士】ここでの役割は壁役、タンクというものになる。
敵を自分だけに引きつけておいて、味方に攻撃をするチャンスを作る、どのパーティーにも必ずいる職業になるらしい。
壁役に必要なものは主に耐久力と持久力、そして全てを弾き返す強い腕力が求められる。
さらには勇者ということもあってか、私たちには神からの『加護』というものが与えられている。
美琴に与えられている『加護』は【剛腕・破壊する者】、つまり異常なまでに強すぎる腕力で悪を捻り潰すということになる。
「なんだか、複雑だね。私、一応女の子なんだけど」
本人はとても不服そうな顔をしていたが、神とやらにはそんなことはお構いなしなのかな?
次にさくら。さくらの職業は【治癒師】。いわゆる何もかもを癒す能力だ。
主には味方の体力の回復と怪我の治療、毒や状態異常を起こした時に必要な能力。
しかしこの能力がこの世界の人が言うにはとても回復が早いらしくて普通では考えららえないと言われている。
さらにはさくらの周りにいる数人を同時に回復させるという異常なまでの回復術が可能なのだ。
それもそのはず、さくらの『加護』は【聖女・全てを癒す者】という『加護』を与えられているからだった。
「なんか、私が治療するって変な気分! いつもは治療される側なのに」
そして私の職業は【魔法剣士】でパーティーの中の最強攻撃になるのだ。
魔法を扱えるにも関わらず、剣士としての能力もあるということで贅沢と傲慢の能力が与えられている。
魔法の種類に関しては全部で四種属も扱える。
火、水、土、風の四種属の魔法があるのだが魔法にも四つのレベルの段階があるらしい。
初級から四級とレベルをあげていけばその分習得できる魔法があるのだが私の場合、そのすベて持っているようだった。
つまり最初から魔法のレベルは最上級ということ。さらには剣士の能力も格段に上ということでこの世界の人たちはもうありえねぇという感じだった。
確かに、こんな化け物みたいな能力は私自身とても怖い。
そして忘れてはならないのが私の『加護』である。
その加護を発表しよう。それは【勇敢・変革者】だ。
「えっと……つまり、そういうことでいいのかな?」
「そうとしか考えられないと思うぞ」
「私もそう思う!」
さくらと美琴がなんだか知らないけど、励ましてくれているのかな?
とにかく、私たちはこの与えられた能力と加護を上手に扱えるようになるためにそれぞれ違う指導者と毎日鍛錬に励んでいるのだ。
「はぁ、疲れた。今日もキツかったな。最近はやけに鍛錬に力が入ってたな」
私は今日一日の鍛錬を終えて、女王陛下が用意してくれた部屋のふかふかのベッドで疲れを癒すために寝転んでいた。
ふかふかのベッドが体を包み込んでくれるみたいで気持ちいい。
さすが王家御用達のベッドは一味違う!
そんなベッドに寝転びながら、今日の鍛錬でパートナーの講師である聖騎士団長のリーシャさんに言われたことを思い出していた。
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城に設置されている訓練場で勇者としての鍛錬が行われていた。
それはいつものように一日の鍛錬のメニューで剣術をこなしていた時にふとリーシアさんにこう言われたのだ。
「キョウコ、一つ言っておきたいことがある」
「どうしたのですか? リーシアさん」
私は鍛錬の最中だったが、その手を止めてリーシアさんの方に顔を向ける。
「この基礎の鍛錬が終われば、キョウコたちにはあることを習得してもらいたいと思っている」
常に凛々しくクールビューティのリーシアさんが今日にも増して険しい顔をしていた。
私がその「あること」とは何か聞いてみると、さらに険しくなり、眼光も鋭くなった。
「これはまだ非公開の情報だから、決して他の者には郊外しないように頼む」
「わかりました。それで一体どんな情報ですか?」
「……魔族に関することだ」
その言葉を聞いた途端、心の中で緊張感が包み込むのを感じた。
魔族に関する情報は度々、リーシアさんから聞いていたが今回はあまりいい情報ではないかもしれない。
「ある筋からの情報によると、魔族の連中を王都近くで目撃されたらしい。もしかしたら王都に攻めてくるかもしれないという情報だ」
「え!? それって、ど、どういうことですか?」
私は急な展開の話だったため驚きを隠せず、つい大声をあげてしまった。
「キョウコ、声がでかい! あと表情も。常に冷静で落ち着いてやれと言っているだろ」
「す、すいません!」
リーシアさんに注意されて慌てて口を塞ぐ。
「だが驚く気持ちもわからないわけではない。この情報を聞いた時は私も驚いてしまったさ。そこでだ、今までの基礎に加えて様々な状況に応じた戦術も身につけてもらう」
「ということは今まで以上にレベルと経験値をあげていくことですか?」
私がそう言うとリーシアさんは頷いて言葉を続けた。
「ああ。本当はみっちり基礎中の基礎をやっていくつもりだったけど事態が急変してな、すごく急ではあるが、ついて来れるか?」
その時のリーシアさんはとても申し訳なさそうな表情をしていた。
本当ならば、もう少し基礎を身体に叩きこんでからそのあとに戦術などの技術面をみっちりと教えていく流れだっただろうが、そうはいかなくなった。
そんな情報が出てしまえば、悠長にしている余裕がなくなってしまう。
大変な鍛錬のメニューになってしまうが、今更断ることはできない。
そう胸に誓ったからにはやってみるしかない。
「はい! よろしくお願いします!」
私はまっすぐとリーシアさんのほうを見て姿勢を整え、力強く応える。
そんな姿を見たリーシアさんはふいに嬉しかったのか、安心したような笑みを浮かべた。
「よし! では、これ以上までに厳しい鍛錬になるぞ。気を引き締めていけ!」
「はい!」
「じゃあ、これから訓練場の周りを100周してこい!」
「え!? 今からですか?」
覚悟を決めてすぐに凛々しく厳しい表情で鬼のようなことを言うリーシアさんに私は驚いて聞き返してしまった。
「なんだ? 聞こえなかったのか? だったら、もう百周追加で……」
「それでは行ってきまぁぁぁぁす!!!」
私はリーシアさんの追加という言葉が言い終わる前に走り出した。
そして、厳しく鬼のような鍛錬をこなしたのだ。
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もしここに魔族が攻めてきたら、私は太刀打ちできるのであろうか?
鍛錬しているとはいえ、相手を殺せるかはわからない。
もしその時になってみて私は、剣を、力を、勇者としての責務を全うできるだろうか?
そんなことを考えながら、部屋の窓から王都の街並みを見下ろす。
この王都にはたくさんの人々が幸せに暮らしているがそんな幸せを私は守れるのか?
窓にうっすらと映る自分のまだ女子高生の顔を深く、じっと見つめていた。
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