異世界召喚
——異世界召喚など、どこか夢のような話でどこか他人事のような気がしていた。
そんな夢物語はアニメや漫画の中での話であり、自分にそんなシチュエーションは来るわけがないと思っていた。
だが今回、そんな夢物語の話が自分のところにやってくるとなると人間、頭でわかっていても現実はどうしようもなくなってしまう。
だからこそ戸惑うし、困惑して冷静でいられなくなり、何をどうしたらいいのか、周りには知っている人はいないし、かといって別の世界の人間がすぐに順応できる気がしない。
そうなると一番頼れるのは一緒に異世界につれてこられた友人たちを大切にして、共にこの異世界を生きていかなければならない。
突然連れて来られた異世界で勇者だと言われても一体何のことやらとさらに混乱するだけである。
それにこの国の女王陛下が私たちを心待ちにしていた。すぐに会ってお話ししましょうと言われたところで何をどう話せと言うのだろうか?
私たちを元の世界に帰してくださいと言えば、素直に帰してくれるのだろうか。
まあ、無理だと思うけど……。
けど、その女王陛下にいざ直接会ってみると何というか何かに撃ち抜かれたように嫌味な言葉もなくなり、ついさっきまでどうやって言い負かそうかと考えていたがそんなことは会ってしまった瞬間に吹っ飛んでしまった。
私たちを迎え入れてくれた女王陛下は女の私から見ても女性としてとても綺麗で美しくて高貴な人であった。
見る者全てを魅了してしまうほどの瞳と顔の美しさ、こんな綺麗な女性が私たちがいた世界に生まれていたらどうなっていたのだろうと考える。
「よくぞ来てくれました、勇者様。我が国、アナスタシア王国へようこそ。私が女王陛下のエリカ・ヴィル・アナスタシアです」
要するにとても女神のように美しくて、今ままで女神ともてはやされた私はとても恥ずかしい思いをしていたのである。
謁見の間にて、私たち三人を迎えてくれた女王陛下を前に私も含めて、さくらや美琴も女王陛下に釘付けであった。
「私は四宮 響子と申します。質問してもいいでしょうか? 女王陛下」
「はい。何なりとお答えいたしますわ、キョウコ様」
絶対に何か聞いてくると思ったのか、微笑みながら承諾してくれた。
女王陛下は意外にもとても寛容な人だった。しかも私の名前もすぐに覚えてくれた。
「私たちが勇者というのはなぜでしょうか? 私たちの他にも適任な人はいたはずですが」
「そうですね。我々をお救いになってくださる勇者様ですので包み隠さず、お話しいたしましょう」
女王陛下は椅子に座っていたのに立ち上がり、私たちの前まで近いてきてその経緯を説明してくれた。
「まずはあなた方、勇者を呼ぶことになったのにはこの世界の歴史についてご説明いたします。古くから我々人間はある種族との戦争が絶えませんでした。数百年前、その種族はある日突然現れ、我々の住むこの世界にやってきたのです。それが魔族」
「魔族、ですか?」
私は静かに確認するように聞き返した。『魔族』といえば異世界ものでよく聞く話だけどまさかここでも聞くことになるとは…。
「はい。魔族は我々人間と同じ姿をした者たちです。にても似つかないほど我々人間と変わらない姿をした者たちで唯一違う箇所と言えば、頭に生えたツノだけです」
ほとんど人間と変わらない姿をしているということかと私は大体、魔族の姿を把握した。
「ですが、この世界にやってきた時の魔族はとても戦争をしにきたわけではありませんでした。どちらかというととても温厚で敵対意識もなく、我々人間とも共存を図ろうとしてくれていました。もの静かでとても戦争の雰囲気など微塵もなかったのです」
そこまでの経緯を話す女王陛下は穏やかで優しい口調とは裏腹にとても悲しそうで辛そうな表情をしていた。
つまりはそんな魔族たちを女王陛下は知っていたのだろう。
「だけど、争いが人間と魔族の間で起きたのですね?」
私はそんな女王陛下の表情を見て、次の言葉を発した。
その言葉を聞いた途端、女王陛下の表情は一層悲しさと暗さ、悔しそうな表情をしたのだ。
そこから先の言葉は口にするにはあまりに残酷なことだったのだろう。
別の世界からやってきた私たちよりもこの世界の多くのことを知っている女王陛下はさらに『争い』という言葉に重みを感じ、責任も感じているように見えた。
「キョウコ様のおっしゃる通りです。とても信じられませんが起きてしまったのです。何が火種かは詳しいところはわかりません。我々の不甲斐ない面のせいなのか、魔族側の陰謀なのかは数百年経った今も謎や遺恨が残るばかりで、ただ争いは過激になっていく一方でした」
「争いの理由がわからないって、どういうことですか?それじゃ、なんのために争っていたのですか?」
争いの火種はわからず、理由もわからず戦争へと発展していった。
言わせて貰えば、何ともバカな話に思えてくる。お互いに何が理由で喧嘩しているのかわからないまま、ただ傷つけ合い、殺し合っていくのに何も疑問を感じなかったのだろうか?
そう思った私はつい、女王陛下に疑問を投げかけていた。
「そうですね。お恥ずかしい話ではありますが、事実なのです」
私の放った言葉に女王陛下は不愉快な顔をしていたが的を得ていたからこそ何も言えないような顔をしていた。
「争いが起きた時はもう手遅れで両者ともに戦いに勝つことばかりで冷静さを欠いていたように思えます。人間は武器や魔法を用いて魔族に対抗するばかりでした。もちろん油断をすれば、こちらが負けるのは容易にわかる。魔族は我々よりも圧倒的に腕力も魔力も上の者たちですから、常に緊迫した中で一瞬の油断が死に繋がることもありました」
気が抜けない場面が続く中の戦争はとても息が苦しくて辛い戦いだったのだろう。
その時の光景は私たちは見たことがない。だからこそ、私はそれ以上何かを言うのはとてもじゃないが無理だった。
「さらに戦いが過激になっていき、戦地に出向いている兵士にも疲弊していったのです。ついに戦いが魔族の勝利に収められようとした時、一つの希望が見えてきたのです。神からのありがたき神託、それが勇者召喚だったのです。ですがそれはあまりにもリスクが大きく、確証がないもだったのです」
召喚の儀式はとても大勢の人、魔力を使用し、さらには失敗する可能性もある。もし失敗をすれば召喚の儀に参加した者までも命を落とすかもしれないと。
「そんなリスクを負ってでも、我々は何かを成し遂げようとしていたのかもしれませんね。ですが我々は勇者召喚をすることを決心したのです。神に祈りを捧げ、召喚の儀を行いました。そして天は我々に味方を、運命を導いてくださったのです。無事に勇者様は召喚され、我々とともに魔族と戦ってくれたのです」
やがて勇者を交えた戦争は人間たちを勝利に導き、魔族たちは勇者の力に圧倒されていき、魔族側にも焦りと不安が募っていった。
そして、理由もなく突然始まった理不尽な戦争は人間の勝利で終結を迎えた。
人々は歓喜に震え、勝利の雄叫びをあげ、戦争は終わりに思えた。
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