第四話 レースゲーム
お姫様のキャラクターが、青いクマ型の車で今にもゴールしようとしている。が、その瞬間、目の前に爆弾が現れ、お姫様は爆発に巻き込まれた。
その隙に、カメレオンのような見た目をしたキャラクターがバイクでゴールする。
「なんで!」
またレースゲームに負けた彼女は、枕に勢いよく顔を埋めた。
「拗ねちゃった?」
彼氏がにやにやと問いかけるが、彼女は何も言わない。
「スネちゃまですか?」
彼氏は彼女の頭をツンツンとつつく。彼女はじろりと彼氏をにらみ、下唇を突き出した。
「スネちゃまだ!」
彼氏は満足げに笑った。
「あーそうですよ。スネちゃまですよ、スネちゃま!」
彼女はヤケクソ気味にまた突っ伏した。
「四レース全敗は、さすがに悔しいですねえ」
彼氏がふふんと得意げに言う。
「……もう一回。もう一回やる!」
顔を上げた彼女が、むくれ顔で睨んできた。
「えー、もう違うことしない?」
「やだ。もう一回やるの!」
頑として譲らない。こうなったら彼女は勝つまでやめない。
そのことを彼氏はよく知っていた。
とはいえ——負ける気は、ない。
再び四レースが終わった。彼女、全敗。前回以上の大差だった。
彼女はまた枕に顔を突っ伏した。
「なーちゃん、またスネちゃまですか?」
「あーもう、そうですよ! なーちゃんはスネちゃまですよ! もうなーちゃんはなーちゃまですよ!」
もはや語呂だけで喋っている。
「さすがに悔しい?」
「さすがに、さすがに悔しい……」
彼女の声が少し震えている。強がっているけど、本当に悔しいらしい。
「じゃあ、またリベンジする?」
「……ハンデ。ハンデつけて」
彼女は眉間に皺を寄せながら言った。
自らハンデを求めるなんて、よほど悔しいのだろう。そこまでしてでも勝ちたい——いや、勝ちたいからこそ。
「いいよ。どうする?」
彼氏は余裕だった。正直、さっきまでも本気を出していない。
わざと待ち伏せして、彼女のキャラクターに甲羅や爆弾を投げつけたりしていた。
「私がスタートしてから15秒待って。それからスタートして」
「いいよ。じゃあその代わり、負けた方には罰ゲームをつけよう」
「罰ゲーム?」
「一レース負けたら一枚服を脱ぐ。四レースあるから、全部負けた方は……丸裸だね」
「それさ、ゆうくんが私の裸見たいだけでしょ」
図星である。
「いや、でもさ。なーちゃんは一回でも勝てば丸裸は阻止できるわけじゃん。しかもハンデつき。ダメ?」
彼女はしばらく考えた末に、「……いいよ」と答えた。
「途中でルール変えるのなしだからね」
彼氏は内心ガッツポーズを決めていた。
15秒のハンデなんて大したことない。
それに、たとえ何レースか負けたとしても——彼女の下着姿は確実に拝めるのだ。
でも彼女がそこまでしてでも勝ちたいという、その一途さが、ちょっとだけ——いや、さすがに可愛いと思ってしまった。
三十分後——丸裸にされたのは、彼氏の方だった。
運悪く雷が落ちたり、アイテム運にも見放された。
そして何より、悔しさに火がついた彼女の集中力は凄まじく、もはや別人だった。
彼氏は放心状態で、うつ伏せに突っ伏している。
彼女はにやにやしながら、全裸の彼氏をツンツンとつついた。
「おーい。なに突っ伏してんだい。黙っちゃってんだい」
彼氏は枕に顔を埋めたまま、ぴくりとも動かない。
彼女は再びツンツン。それでも動かない彼氏の顔を覗き込むと——
「スネちゃまだ! スネちゃまなゆうくん、ゆうちゃまだ!」
嬉しそうにそう言って、満面の笑みで、彼氏の剥き出しのお尻をぺちりと叩いた。