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2.美女レイヤーふたりに余計な情報を与えてしまった話

 取り敢えず一応話を聞くだけは聞いたから、義理は果たした。

 後は昼飯を奢って貰うだけである。


「ごっめーん、お待たせー」


 部室会館内の女子更衣室前でスマートフォンを弄っていた刃兵衛のもとに、私服へと着替えた魅玲と香奈子が揃って姿を現した。

 魅玲は何故か童貞を殺すデザインで一時話題になったニットのセーターにスリムパンツを合わせ、香奈子はオフショルダーのトップスにロングスカートといういでたち。

 いずれも大人の色香たっぷりだったが、刃兵衛は色気よりも食い気の方が遥かに勝っており、何を奢って貰おうかと、そんなことばかりを考えていた。


「あっれー? おっかしーなー。あたしの童貞キラーが全然効いてない?」


 悪戯っぽく笑いながら変な悩殺ポーズを取る魅玲に、刃兵衛は渋い顔を返した。


「いや、もうそんなんエエっすから、早く行きましょうよ。僕もうめっちゃ腹減ってんスけど」


 すると香奈子が妙にウケたらしく、腹を抱えて笑い出した。


「いや、ちょっと、マジでウケるって……魅玲のエロが通じない子が居るなんて……」

「うっさいなぁ、ほっといてよ。ちょっと今日は調子悪いだけなんだって」


 けらけらと笑う香奈子に対し、ぷっと頬を膨らませ、その美貌に拗ねた表情を浮かべた魅玲。

 出来損ないの寸劇を見せられた気分の刃兵衛だったが、ここはひとまず我慢して、さっさと学食へと足を向けた。

 すると、周囲から奇異或いは羨望の眼差しが向けられてくる。

 魅玲と香奈子は確かに相当な美人だから、そんなふたりをガキみたいな容貌の刃兵衛が引き連れている光景が余りに異質だと思われたのだろう。

 しかしそんな周囲からの目など一切気にしない刃兵衛は、学食内の食券売り場へと足を急がせた。


「ここの牛丼、美味いんスか?」

「えー、どうだろ。あたし普段、パスタとかドリアしか食べてないし」


 魅玲は幾分困った表情。次いで香奈子にも訊いてみたが、彼女はいつもコンビニ或いは購買でパンや握り飯を買う派だから、よく分からないのだという。

 ならばここはひとつ、冒険に出るしかないか。どうせ自分の金で食う訳ではないのだからと、刃兵衛は敢えて強気に出た。

 選んだ食券は牛丼大盛つゆだくセット。


「そーゆーのを選ぶところは、やっぱ男の子だよねー」


 傍らで香奈子が感心するやら呆れるやらで、変な笑顔を浮かべている。

 その間も、周辺の男子学生らがやっぱり羨ましそうな視線を次々と送りつけてきていたが、刃兵衛はこの学食の牛丼が美味いのか不味いのかというその一点のみが気になって仕方が無かった。

 結果は、可もなく不可も無く、だった。


「ごっそさんでした」

「お腹一杯になった?」


 同じテーブルの向かいの席でカルボナーラを食べ終えたばかりの魅玲が、微笑ましげな様子でにっこりと笑っていた。

 この後、三人は運動場脇の芝生エリアへと足を運んだ。刃兵衛が体育会系の部活にはどんなものがあるのかを見ようとしたところ、暇だからということで、彼女らも一緒についてきたのである。


「ここの野球部ってさ、あんま強くないんだけど、練習だけは妙に熱心なんだよね」


 そんな説明が香奈子の口から飛び出してきた。

 確かに刃兵衛の目から見る限りでも、どの部員も動作は余り機敏ではなく、妙にもっさりしている。もしかすると、この大学に入って初めて野球をやり始めたという輩も居るのかも知れない。

 となると、草野球の延長みたいなものであろうか。


「まぁでもさ、好きなことを楽しむのはイイことなんじゃない? あたしらのコスプレだって、好きが高じてやってるだけなんだし」


 魅玲のそのひと言には刃兵衛も大いに頷いた。

 どんなことであれ、本人が楽しんでやるのが一番だ。

 そんな会話を交わしていた時、野球部の練習エリア付近で甲高い金属音が鳴り響いた。金属バットで硬球を盛大に叩いた音だった。

 ところが、刃兵衛は咄嗟に危機感を覚えた。

 打球が物凄い勢いでこちらに向かって飛んでくる。その軌道の先に、香奈子の姿があった。

 魅玲も刃兵衛の真剣な眼差しに気付いたらしく、その方角に視線を飛ばしてあっと声を上げた。


「か、香奈ちゃん、危ない!」

「……え?」


 香奈子は、すぐには反応出来なかった。鋭い打球が今にも彼女の頭部に激突しようとしている。その恐るべき弾道に、彼女は身が竦んでしまったのか、一歩も動けなくなっていた。

 だがそれよりも早く、刃兵衛が動いていた。

 彼は香奈子と打球の間の空間に一瞬で割り込むや、跳び後ろ廻し蹴りを放ち、分厚い靴底で死の打球を一撃で弾き返していた。


「おぉい! 大丈夫か!」

「怪我は無かったか!」


 慌てて、野球部員らが駆け寄って来る。今回は完全にただの事故だったから、刃兵衛も彼らを責めるつもりはなかった。

 それよりも香奈子だ。彼女はグラウンド脇の芝生上にへたり込んで呆然としていた。

 隣にしゃがみ込んだ魅玲も、大丈夫かと何度も問いかけている。

 ところがしばらくして香奈子が放った台詞は、自身の安否についての応答ではなく、全く別のことに対して語ったものだった。


「か、笠貫君……さっき……めっちゃ、カッコ良かった……」

「は? んなことよりも、怪我は大丈夫ですか? 打球は弾きましたけど、目に砂が入ったりとか、しゃがんだ時にどっか打ったとか、そういうのは無いんですか?」


 尚も刃兵衛が問いかけたが、香奈子は大丈夫だとかぶりを振った。


「うちは、全然大丈夫……それよりも笠貫君、さっきの、あの凄い技、あれ何? もしかして空手とか拳法なんかやってたりする?」

「あ、それ、あたしも思った。香奈ちゃんがヤバいって思ったのもあるけど、刃兵衛君のさっきのすっごい廻し蹴り……あれホントに、超カッコ良かった」


 魅玲も香奈子が立ち上がるのに手を貸しながら、幾分興奮気味に刃兵衛へとその美貌を向けた。


「あたしらがお願いしようとしてる男の娘のキャラ……ローグブレイブスっていうゲームのキャラで、リトルエクリプスっていうんだけど、そのキャラも実は格闘技の達人なんだよね」


 どこか熱っぽい表情で刃兵衛を見る魅玲の瞳が、微妙に潤んでいる。

 大体こういう時は、もっとヤバい方向に話が転がってゆく。刃兵衛の直感がそう語っていた。


「やっぱり、君しか居ないよ……リトルエクリプスのコス、ホントに、お願い出来ない?」


 神妙な面持ちで問いかけてくる香奈子の声に、刃兵衛は思わず天を仰いだ。

 香奈子に怪我が無かったのは良かったが、また余計な情報を与えてしまったと、己の反応の好さを呪うしか無かった。

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