14.招かれざる客人が更にもうひとり増えた話
そろそろ陽射しの暑さが夏の装いへと様変わりし始めた頃。
刃兵衛は何故か、香奈子の部屋に居た。
香奈子は少し前まで駅から離れた古いアパートに住んでいたのだが、最近になってタワー型のワンルームマンションに引っ越したらしい。
今日はその引っ越し祝いと称して、魅玲が刃兵衛と明日海、久留美の三人を呼び出して香奈子の新居に押し寄せたという訳である。
「へぇ~、イイとこじゃん。結構広いし」
「でしょ? でしょ? うちもさ、笠貫君の部屋見てたら、やっぱ広いとこがイイな~って思って、奮発しちゃったよ」
聞けば、御家賃は結構な額に上るらしいのだが、プロレイヤーとして事務所から支払われるギャラはまぁまぁ良い数字を叩き出しているらしく、一介の女子大生にしては割りとセレブな収入に至っているらしい。
「さっすがプロ……私達とは次元が違いますねぇ……」
明日海が心底羨ましそうに、綺麗な室内をぐるりと見渡した。
まだ築二年という新しさに加えて、頑丈な建材と諸々の最新設備が整っているこのマンションは、女子のひとり暮らしには最適といって良いかも知れない。
「近所にコンビニとかスーパーもあるし、ホームセンターまであるよね。こりゃー、暮らし易くてイイんじゃないの?」
魅玲もマンションそのものの良さに加えて、立地の便利さに高い評価を下した。
駅からも比較的近いというから、プロレイヤーとしての仕事の際もその利便の良さが大いに発揮されることだろう。
そして何といっても、刃兵衛と明日海が住んでいるワンルームマンションに近いというのが、香奈子にとっては非常に重要だというのである。
何故そこでふたりの名前が出てくるのか、今ひとつ理解出来なかった刃兵衛。
「ん~、どっちかってぇと、笠貫君の部屋に近いことの方が、重要かな?」
意味も無くテヘペロしている香奈子に、刃兵衛はますます疑念を深めた。
(え? それどーゆーこと?)
と、ここで魅玲が、
「はっ……成程、そーゆーことね!」
などと変に勢いづいて、刃兵衛ににじり寄ってきた。
「刃兵衛君の部屋に近いってことは、刃兵衛君とこで夜中まで酒盛りしても、香奈ちゃんとこにお泊りしたら良いってことじゃん」
「……それ、何か意味あるんスか?」
刃兵衛は余計に意味が分からなかった。
というのも、魅玲も香奈子も刃兵衛の部屋で、平気で寝泊まりしている。今更香奈子のマンションが近くになったからといって、何かが変わるのだろうか。
「えっとね……気分の問題」
香奈子、ずばっといい切った。どうやら本人も、近くに越したからといって今までの生活を改める気はさらさら無いらしい。
と、ここで食いついてきたのが久留美だった。
「あの、御免なさい……私の理解が間違ってなければ、おふた方、ジンガサさんのお部屋に寝泊まりしてらっしゃるってこと?」
久留美は微妙に驚いている。
(そらぁ驚くやろな)
刃兵衛も久留美が抱いた疑問には、頷きたい気分だった。
魅玲も香奈子も、相当な美人だ。そしてグラマラスで肉付きの良さもピカ一と来ている。
そんなセクシーなお姉さま方が、ガキみたいな風貌の後輩の部屋で当たり前の様に寝泊まりしているというのだから、耳を疑わない方がおかしい。
それこそが、本来あるべき常識の感覚というものだ。
刃兵衛は久留美に、もっといってやって下さいと内心でエールを送った。
「おふた方ともずるい……私もジンガサさんのお部屋でお泊り女子会したいです!」
「いや、ちょっと待って下さい。何おっしゃってるんですか」
余りに予想の斜め上過ぎる台詞が久留美の口から飛び出してきてしまった為、刃兵衛はすかさず突っ込まざるを得なかった。
「笠貫君のお部屋、本当に広いもんね。私も入れて、女子三人でお邪魔してても全然余裕でお泊り出来ちゃったぐらいだし」
「せやから高遠さん、要らんこといわんで下さいって」
段々、拙い方向に話が転がり始めてきた。
そもそも今日は、香奈子の新居祝いの為に足を運んだはずではなかったのか。それがどうして、刃兵衛部屋でのお泊り女子会フィーチャリング刃兵衛という話になっているのだろう。
「古薙先輩も安土先輩も変なことばっか考えんと、ちゃんと夜は御自宅に帰って下さい」
一応、いうだけいってはみたものの、多分聞き入れて貰えない。
彼女らは毎回の如く、刃兵衛部屋でほとんど素っ裸に近い格好でどんちゃん騒ぎに興じている。
それが魅玲、香奈子、明日海のエロい三連星によるエッチストリームアタックだ。
「私、ジンガサさんのおうち、知らないんですけど」
「いえ、存じ上げなくて結構です」
尚も諦めようとしない久留美に、刃兵衛はきっぱりとお断りの意思表明をしてみせた。
◆ ◇ ◆
ところが、数日後。
「何で人数増えてるんですか」
週末のたこ焼きパーティーが刃兵衛部屋で開催された。
そこに居たのは魅玲、香奈子、明日海、久留美の四人、プラス刃兵衛。明らかにひとり、増えている。
「何でって、うちが連れてきたからに決まってんじゃない」
しれっと当たり前の様に笑う香奈子。
刃兵衛はこの時、この侵略者共め、というフレーズが頭の中に降って湧いてきた。