第三話 村の異変
「じゃあ、そろそろ祭壇の方に行ってくっかな!」
ラミーがそう切り出したのは、二人でしばらく話した後だった。
気付けば、太陽が頭の真上にまで登り、じりじりとした日差しが地面を照らしている。
「わかった。演奏頑張ってね」
「おう! またな!」
ラミーは親指を立てると、礼拝堂の方へ足早に去っていった。
シドは、ラミーとの会話で胸に溜まっていたわだかまりがすっかり消えたのを感じながら、改めて親友の存在に感謝して家路についた。
◇ ◇ ◇
「お~い! シド~!」
しばらく歩いていると、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
それは、今頃『音捧げ』を行っているはずの人物の声。
振り返ると、ラミーが慌てた様子でこちらへ向かって走ってくる。
礼拝堂に置いてきたのか、肩にあったチェロの入った大きい鞄はない。
「え、ラミー? 何でここに?」
額に汗を浮かべ、荒い息をつきながらラミーは言った。
「ふぅ。聞きたいことがあったのを忘れてたんだ。これを聞かなきゃ演奏どころじゃないぜ……」
息を整え、やっとのことで言葉を紡ぎ出した。
「シド、村の異変についてなにか知ってっか?」
「えっ、異変? どういうこと?」
ラミーが口にしたのは、シドにとって寝耳に水の出来事についてだった。
「親父から聞いたんだけどな、なんか村の南端から植物が枯れてきてるらしい」
ラミーの言葉に、シドは眉をひそめる。
「なんで村の南端?」
「それが分からないんだ。ここ最近、農作物の収穫量が悪いのは知ってるだろ? あれと関係ある気がしてさ。シドなら何か聞いてるかと思ったんだけどなぁ……」
「い、いや……、聞いてないね」
シドは少し視線を逸らしながら答えた。
「そっかぁ、何が原因なんだろうな」
ラミーは腕を組み、眉間にしわを寄せて思案した。
初めは困惑を隠せなかったシドも、その姿につられるように頭をひねり始めた。
少しの沈黙の後、シドの頭に1つの可能性が浮かぶ――と同時にラミーが口を開いた。
「なぁ、村の北側って何がある?」
ラミーの言葉を聞いて、シドは彼も同じ結論にたどり着いたのだと確信した。
「僕も同じことを思ってた」
同じ方向に目を向ける2人。
彼らの視線の先にあったのは、村の北側に広がる『無音の森』の中心で、堂々たる威容を誇り、まるで空を支えるかのように聳え立っている『五線譜の大樹』だった。
「……もしかしたら、大樹様に異変が起きてるのかもしれない」
ラミーの声には、疑念と不安が混じり合っている。
もちろん、シドも同じ思いを抱いていた。
「大樹様のお力が弱まってるのかも……」
それもそのはず。
シド達、弦族の民が崇める大樹様とは、祭壇に祀ってある御神木ではなく、この『五線譜の大樹』のことを指すのだから。
祭壇の御神木は『五線譜の大樹』へと繋がるパスでしかない。
奏者の演奏によって生み出された『音の実』は、御神木を通して『五線譜の大樹』に送られる。
そして、その『音の実』を利用して『五線譜の大樹』は、あたり一帯に豊穣をもたらすというのが村に伝わる言い伝えだった。
そんな村にとって特別な存在である『五線譜の大樹』。
もし、本当に異変が起きているのだとすれば、それは村全体にとって重大な危機が訪れている可能性があることを意味していた――。
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