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第二話 十二奏者


 ソーヴァの拳がシドの頬へと届く――かと思われた瞬間、遠くから声が響く。


「おーい、こっちこっち! ドラドさ~~ん!」


 その声に、ソーヴァの拳がぴたりと止まる。


「ぞ、族長だ! まずいっすよソーヴァさん」

「チッ……」

 

 舌打ちとともにソーヴァは拳を下ろし、忌々しげにシドを睨む。


「シドちゃんは何かあればすぐパパが助けてくれて羨ましいなァ! パパ怖いよぉ〜って、そのパパは1つも実を出せないって話だけどな! おい、行くぞお前ェら!」

「はいっ!」

「は、はいぃ……」


 ソーヴァの指示に、慌てて後を追うゾラとジジ。

 去って行く三人の後ろ姿を眺めながら、内心ホッとしているシドのもとに、先ほどの声の主が近づいてくる。


「おーい! シド〜!」

 

 シドはその声を聞いた瞬間、それが誰かをすぐに理解した。

 陽気な声とともに、赤いくせっ毛をふわふわと弾ませながら駆け寄ってきたのは、シドと同じ年くらいの少年。

 その肩には、大人一人が入れてしまいそうなほど大きな鞄がかかっている。

 

「君だったのかラミー! 助かったよ、ありがとう」


 ラミーと呼んだ少年の顔を見て、パっと表情が明るくなるシド。それもそのはず。

 族長の息子という立場のせいで心を許せる人間が少ない彼にとって、ラミーは幼いころから共に成長してきた、たった一人の親友と呼べる存在だった。


「礼なんていいさ、俺とお前の仲じゃねーか! 困ってる親友を見たら体が勝手に動いちまったぜ。あ、和音草の蜜ドリンク1杯で」

「え、礼はいらなんじゃ……。まぁ、今度作ってあげるよ」

「やりぃ!」


 ラミーの軽妙な調子に乗せられながらも、シドは心の奥で感じていた不安が少し和らいでいくのを感じていた。

 ふと周囲を見渡したシドが、首をかしげながらぽつりと漏らす。


「あれ……? 父さんはどこ?」


 ソーヴァが手を引く要因となった、シドの父親で村の族長――ドラドの姿が見えなかったからだ。

 疑問の声を聞き、ラミーは少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「あぁ、ドラドさんならここにはいないぜ」

「えっ……」

「あれは咄嗟の嘘さ。あぁ言えば逃げるだろうと思って」

「なるほど、さすがラミー」


 ラミーは、昔から悪知恵が人一倍働く少年だった。

 シドは、そんな彼に引っ張られる形で、大人たちを手玉に取るような数々のイタズラをしてきた記憶を懐かしく思い出す。

 その自由奔放さに、シドは密かに憧れにも似た感情を抱いていたが、それをラミー本人に伝えたことは一度もなかった。

 

「んで、今日は儀式の後に絡まれたって感じ?」

「その通りだよ。最初から話すと――」


 シドは、ラミーの問いに答えるように事の経緯を一つひとつ丁寧に説明していく。

 話を最後まで聞き終えたラミーは、腕を組みながら少し考えるような仕草を見せ、それから口を開いた。

 

「なるほどな~。あいつらも懲りないよな、シドが『十二奏者』に選ばれてからずっと絡んできて。そんなに奏者になりたかったら実力で勝ち取ってみせろよって話だぜ」


 『十二奏者』――それは、シドたち弦族の中から選ばれた、村を象徴する奏者たちに与えられる称号。

 6人の『ヴァイオリン』奏者、3人ずつの『ヴィオラ』と『チェロ』奏者で構成され、それぞれが特別な楽器を託される名誉ある役割を担う。

 シドがヴァイオリンの奏者として選出されたのは、つい半月ほど前のことだった。

 

「でも、僕が族長の息子であることは確かだし。もしかしたら本当に七光りで選ばれたのかも」

「そんなことないだろ。お前だって努力してたし、してたからこそ選ばれたんだ。自分の努力を自分が否定するのはよくないぞ」


 ラミーは、いつになく真剣な表情でシドを叱った。

 シドは一瞬戸惑ったものの、ラミーのまっすぐな言葉に嬉しさを覚える。


「それにしても、今日はやけに反抗したみたいだな。いつもはもっと上手く躱してるのに」

「何度も絡まれて流石に内心参っていたのかも。つい挑発するようなこと言っちゃった気がする」

「お前の悪い癖だな」

「耳が痛い……。次会う時までに怒りが収まってればいいけど……」


 ソーヴァ達の事を考えてあからさまに肩を落とすシドを見て、ラミーがケタケタと笑う。

 

「でも、だからって普通殴ろうとするかねぇ〜? そんな奴に楽器なんかもたせたときにゃ危険極まりない。それにさ、もしソーヴァが奏者になってもあいつが出した『音のオーブ』なんか『大樹様』もきっといらないって言うに違いないぜ」


 『十二奏者』だけが託される特別な楽器で演奏したときのみ現れる音のエネルギーの塊『音の実(オーブ)』。

 奏者は『音捧げ』と呼ばれる儀式を行い、演奏で生み出された『音の実』《オーブ》を祭壇へと捧げることが、名誉と共に課せられる重大な役割の1つだった。


「ソーヴァは楽器を甘く見てる部分があるからね。演奏が限られた人にしか許されていないのにはちゃんと理由があるってことを改めて考えた方がいいと思うよ、僕は。それに掟にもあるように、『()()()()()()()()()()()()()()』だからね。僕のことを考えてる時点でソーヴァが僕を抜くことはないと思うよ」

「それもそうだな」

「ところで、今日の『音捧げ』は終わったのかなぁ? ()()()()()のラミーさん」


 シドが、同じ『十二奏者』の一人であり、チェロ担当のラミーに問う。

 

「ちょうどそれをしに来たら、どっかの誰かさんが悪い人達に絡まれてたんだよなぁ」


 そういって、二人は笑いあった――。




開いてくださった方、読んでくださった方、ありがとうございます!


軽い説明回でした。

この次から物語が少しづつ動きますので、ぜひ読んでくれると嬉しいです!

評価や感想・改善点お待ちしております!

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