第十三話 約束
――結晶にひびが入った。
それはごく小さなひびだった。
しかし、その事実にミソラの瞳は歓喜に輝き、彼女は飛び跳ねるように喜んだ。
「すごいよ、シド!」
「いや、ミソラが叩いてたおかげかも……」
「そんなわけないよ! きっとシドの演奏がきっかけだって! ね、もう一回、一緒に演奏しようよ! そうすればわかるよ!」
ミソラは勢いよくシドに詰め寄った。
急に顔が近づいたことで、シドは頬が熱くなるのを感じ、慌てて視線を逸らす。
「ダメだ」
「え? なんで?」
「だって……」
シドの視線がミソラの手に向かう。
「君の手……ボロボロじゃないか」
結晶を叩いていた彼女の手は痛々しく腫れ、血がにじんでいる。
「全然大丈夫! できるよ! それに、一緒に演奏するの楽しかったでしょ? ね、もう一度やろうよ!」
シドは何も言わず、そっと傷ついたミソラの手を取った。
「いッ――」
ミソラが痛みに顔をしかめる。
その様子を見て、シドは深く息を吐いた。
「ほら、痛いだろ。僕たち奏者が、手を大事にしなくてどうするんだよ」
「……ごめん、なさい……」
静かに、しかし重く響くシドの叱責に、ミソラは目を伏せた。
「でも……でも、またいつ会えるかわからないから……」
ミソラがぽつりと漏らした小さな声には、はっきりとした切なさが滲んでいる。
シドは、一瞬戸惑うような表情を浮かべたが、何かを決心したように優しく微笑む。
「……わかった。5日後、この時間にまたここに来よう。その時に、もう一度一緒に演奏しよう。それでこの女の子を助けよう」
シドの言葉を聞いて、ミソラは伏せていた顔をすぐに上げ、シドに笑顔を見せる。
「いいの!? 約束だよ!」
「うん、約束だ」
シドもまた、小さく頷きながら優しい眼差しを向けた。
◇ ◇ ◇
二人が帰り支度を終えた時には、すでに日は赤く染まっていた。
「え!? もうこんな時間!? 早く帰らなきゃ、お父さんに怒られちゃう! ごめんシド、私もう行くね!」
そう言って、ミソラは荷物を抱えて自分の村がある方向へと走っていく――が、途中で何かを思い出したかのように止まると、シドの方を振り返った。
「シド~! 今日はありがとう! 一緒に演奏、楽しかった! また5日後に!」
大きく手を振った後、シドが返事をする間もなく、再び森へと走り出すミソラに、
(嵐のような人だな……)
と思いながら、消えゆく彼女の背中を見送るシドだった。
そして、シドも自分の村に帰るため、森へと再び足を踏み入れた。
帰り道の『無音の森』は、やはり怖いほどの静けさだが、来た時よりも何故か足取りは軽く感じられたシドだった――
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追記: 大変申し訳ないのですが、しばらく更新止まります……
ただ、モチベがなくなったとかでは全くないので、またすぐ再開します!!




