第十一話 凍結幼女
シドとミソラの周りに、ふわふわと二十を優に超える『音の実』が静かに漂っている。
その美しい光景に、二人はただ見惚れるばかりだった。
「すごい……こんなにたくさん! 私、初めて見るよ!」
ミソラの瞳は輝き、はしゃぐ声には興奮がにじむ。
一方シドは、目の前で起きた現象に目を疑い、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「……信じられない」
しかし、その輝きは長く続かない。
やがて光の玉たちは、ふわりと漂いながら『五線譜の大樹』の根本へと吸い込まれていく。
その様子を、二人は言葉もなくじっと見つめていた。
最後の1つが吸い込まれるのを見届けたあと、ふとシドは思い出したように口を開く。
「……というか、君も奏者だったのか」
「そうだよ~。フルート担当なの! あと、さっきから、わたしの名前! 君って名前じゃないんだけど?」
「あ、ごめん。……ミ、ミソラ……」
「うん、よろしい!」
満足そうにニカッと笑うミソラ。だが、すぐにその表情を曇らせると、小さな声で呟いた。
「……大樹様、これで元気になってくれるかな?」
その言葉に、シドは鋭く反応する。
「どういうこと?」
「気づかない? こっちに来て、よく見てみて!」
ミソラに手を引かれ、二人は大樹の幹のそばへと移動する。
「ほら、ここ」
彼女が指さす箇所を見ると、『五線譜の大樹』の幹が変色していた。
よく見ると、同じように変色した箇所が幹のあちこちにあり、ボロボロと崩れている部分も見受けられる。
「ね、元気なさそうでしょ?」
ミソラは心配そうにシドを見上げる。
シドも、ようやくその異変の深刻さを理解し、真剣な表情を浮かべた。
「本当だ……これは一大事じゃないか!」
シドは険しい顔つきで、原因を探るように考え込む。
(なんでだ? 『音の実』の奉納が足りてないのか? もしかして、これが村の異変の原因なのか?)
彼の思索を遮るように、突如として『五線譜の大樹』が低く唸りを上げ、激しく揺れ始めた。
「わっ! なにっ!?」
ミソラは驚き、その場にしゃがみ込んでしまう。
「ミソラ! 危ない!」
シドは反射的に手を伸ばし、彼女を包むように抱き留め、揺れが収まるのを待つ。
彼の腕の中で震えながらも、ミソラはふと顔を上げる。
間近にあるシドの横顔を見て、緊張と安心感が同時にやってくる不思議な感覚に襲われる。
「なんだったんだ、今のは……」
「……シド、ありがとう。私、もう平気かも……」
ミソラの声で、手に力が入りすぎていたことに気づいたシドは、慌てて緩める。
「ご、ごめん……」
「……ううん、ありがとう」
彼女を助け起こしたその時、不意に「ガラガラ……」という音が響いた。
二人の近くで、『五線譜の大樹』の幹の一部が音を立てて崩れ落ちる。
その隙間から現れたのは――青く輝く大きな結晶だった。
「なんだ、これ……?」
シドがつぶやく。結晶は神秘的な輝きを放ちながら、まるで内部に何かを隠しているように見える。
その中を覗き込んだミソラが、息を呑む。
「これ……誰かが入ってる!」
結晶の中には、目を閉じたまま眠る幼い女の子の姿があった――。
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