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翻れ、足利二つ引

特になし

 古代遺跡・『死せる都』も中層階へ下るとゴースト類が出てきて敵の強さが増す。ゴーマーは何度か九字を切り、精神力を弾丸に込めて射撃をしている。

「ところで武蔵殿、クリス・カイルが蘇ってマクミランTAC338に超遠距離で狙われたら勝てるか?」

 P90を撃ちながらゴーマーは女騎士・武蔵に問うてみた。『俺が現代の減音狙撃銃を手にして、丹後でお前を待ち受けたら勝てるか?』とは流石に聞けないし、聞いてはいけない。

 ともあれ、武蔵は何とも言えない嫌な顔をした。

「互いの商売上重要な手の内を晒させることを、簡単に言うものじゃないですよ」

「稲富殿ならそのまくみらん何とかを持っていたら絶対に殺気を感知させない所まで距離を開け、さらに隠形の術を用いるのでしょう? クリス殿は隠形の術を使いませんが、技量はまさにラマーディーの悪魔」

「狙いが付いたということは、狙撃手の道理に踏み込んだということ。まず無事では済まないでしょうね」

 武蔵はここでしばし考え込んだ。

「銃にライフリングがなくて、槊杖でいちいち弾を込めて、雑賀衆ほど配下の傭兵部隊を抱えてなくて、狙撃兵や特殊部隊の概念がなく運用があやふや、何より観測手がいない。公式殺害数の資料もなくて釈明の余地がない。大坂夏冬のビッグイベントを前に没して汚名返上のチャンスが失われたのも実に痛い」

「教えて下さい、貴方は臆病者・売名家・訓練の時が一番生き生きしてる屁垂れ武者と言われっぱなしで、どうやって畳の上で安らかに最期を迎えたんです?」


「貴方の生き様は歴史上の英雄豪傑が『ああはなりたくないな』と思った、誰もたどり着きたくない想像を絶する汚辱の果てにある」

「縛られて座らされた銅像を建てられ、長い事唾を吐かれた秦檜夫婦の方が何倍もましです」


 稲富祐直は、目の前が涙で見えなくなってもひとごろしが出来る。古代遺跡の中でアンデッド中心のモンスター群を撃つに何の障りもない。


「若君(五郎義定)が俺に言ったんだ、お前は古いだけの家・一色の落日に付き合うことはない、生きろって」

「ああ、殉死も許してくれねえんだって思ったよ」

「それでも宮津から逃げずにいたら、デモ隊が俺の屋敷に押しかけ、罵声を浴びせてきた。主君殺しだ、一色家を売って保身を図りやがったってな! あいつらにそんな資格があんのか! 宮津城で長岡(細川)のバカどもが一色の兵士を皆殺しにした時、助けもしなかったくせに!」

「戦場では漆塗りに金象嵌の銃を撃ち、大金が動く国友との交渉だって任された。でもな、虎を撃ち損じる前から砲術を教える俺の言葉を、真面目に聞いてくれたやつなんか一人もいねえ! 何か尾張のためにできることはないかと思っても、馬の世話の仕事すらねえんだ!!!」

「みじめすぎるよ、こんなことって……日置殿も義清様もどこへ行っちまったんだ?! ちきしょう……」

「アメリカから来て一色家に仕えた、ダン・フォースを覚えていますか。賭け事が好きなやつで、妙にウマが合って、よく話をしました。生き残ったら傾奇者ルックでひょうげの茶を飲みに行こう、目ん玉飛び出るような値段の名馬に乗って、ってね」

「ある日京の街を歩いてたら、ガキに声をかけられた。『旦那さんがた、草履がぼろぼろだよ』。俺は気にしなかったが、アイツは紐を替えることにした」

「洒落た瀬戸物を探しているうちに、悲劇が起きた。ガキは長岡の隠密で、自分ごと火薬で吹っ飛びやがった!」

「爆発音が悲鳴と一緒になって、バラバラになった肉片が! 俺の体にへばりついた! 俺は必死に血まみれの肉片を引っぺがそうとした! 親友の! それから慌ててバラバラになった手足を拾い集め、やつの体にくっつけようとしたけど、内臓が飛び出して! やつは泣きながら言ったよ。『うちに帰りたい。ミヤヅに帰りたいよ』俺はその周りを這いずり回って、千切れたやつの足を探した! でも見つからなかった!……その時の光景が、頭に焼き付き、7年たった今も毎晩夢に見る。目を覚ますと自分がどこにいるのか、誰かもわからなくなる。そんなことが丸一日、一週間も続く。追い払えないんだ……」


「ジョン・ランボーの真似をして誤魔化すくらい、断じて本心を明かす気はないってことですね?」

「そう結論を急くな」

 ゴーマーは嘘泣き用の目薬を放り投げた。

「……尾張で余生を過ごす頃には、人間性も何もかもすり減って無くなったに決まってるだろ? 俺は自分の妻の顔も、娘が津の杉山家に嫁ぐまでどうやって育てたのかも、何も覚えてないんだぜ。どうだ、笑えよ」

「俺の生き方は汚辱の果てにある?……上等だ。だったらこれ以上俺の言葉なんか聞いても何の肥やしにもならねえよ」

 ここでゴーマーの顔が『怒れる惨めな中年男性』ではなく、『PTSDに悩まされ、疲れ果てた惨めな中年男性』のそれになった。


「ランボーの真似は冗談だが、自分が撃ち殺した敵兵、宮津・弓木の仲間、大殿・若殿・義清様の亡霊を夢に見なかった日は、ひとごろしを始めてから一度もねえ。無かったんだよ」

 と話している間にも、ゴーマーの手は冷静に眠りを覚まされた死者たちをP90で片づけている。

『それ、ランボーより精神疾患は深刻じゃないか?』

 兵庫は思ったが口には出さないことにした。


「俺はな、甥の息子を斬った頭のおかしい井上外記殿にもほんの少し同情してるんだ」

「俺達砲術師は、政府や誰かの道具だ。戦うことで精一杯自分を表現したが、自分の意志で戦えたことは一度もない」

「彼らの大筒はいつだって大坂冬夏の陣における単なるSEで、主役は東西の綺羅星の如き武将や牢人者たちだ。あれはいくさ人の終わりを感じた奴らが最後に打ち上げた花火で、お祭りなんだよ」

「嘘だと思うなら、とりあえず真田◯のキャスト表を見てみろ。徳川の大砲撃ちが誰かもわからねえ」

 ゴーマーは悲しげに笑った。

「さらに、島原の乱ではオランダ商館の協力を受けたって言うじゃないか。板倉殿を鉄砲で撃ち殺されるとか幕府の砲術方、何してた?」

「俺の二重甲冑を散々笑っておいて、陣羽織をタクティカルベストにする発想一つ無かったのか? そう言えば武蔵殿はあの乱の……あれ?」

 武蔵とグラシアの姿がどこにもない。接近戦の間合いでは祐直にブラフを使わせるほど、彼女の方が一枚上手だ。


「嫌な予感がするなあ……急いで最下層に行くぞ」




「祐直、久しぶりですね。お腹が空きました、この肉で唐様の煮物を作りなさい」


「奥方様……ふざけろ……!」

 祐直にとっては目障りで仕方ないが、同時に実戦経験の少なさが心配で仕方ない『いわゆるなろう主人公的な』転移人・ユキヤ。その仲間の一人・アツコの首と身体を、グラシアことがらしゃは凄まじい勢いで投げつけた。ユキヤと相棒のヤスタカの死体も、彼女のそばに転がっている。

「すいません祐直殿、ちょっと吐いていいですか」

「ちっ……あまりに酷い死体処理はお前さんのトラウマだったな! 歯ぁ食いしばれ!!」

 祐直はアツコの亡骸と首級を受け止め、置いてから兵庫の首に思い切りチョップを入れ、気絶させた。

「ふふふ……祐直……ばかですか? お前一人で何が出来るというのです? 私はこのバルベルデの生きとし生けるものを食らい尽くしますよ」

 楽しそうに、がらしゃが笑う。

「くたばりやがれ……稲富祐直はただの臆病者で、俺は一人しかいなくても、『丹後・一色家全軍』だ!」

「今こそ地の底に翻れ、足利二つ引の旗よ! 騎獅文殊きしもんじゅの加護ぞある!!!」

 だだだだだんっ!! 足利二つ引の旗が、祐直の周りに何枚も何枚も突き立つ。


「ところで奥方様、アンタはあのいけ好かないオヤジさんに似て非常に頭が良い。俺がどんなに頭を捻っても解けなかったこの問いに答えてくれるだろう」


『サイモンいわく、虎はどうやって自分を撃つ?』


「linuxを使うから脆弱性を発見されるのです。専用のOSで制御するライフルを使えばいいのではありませんか?」


 がらしゃに即答されたゴーマー・パイルでもない、稲富祐直でもない『唐獅子』は、非常に不快そうな顔をした。

 

「なるほど……つまり、慶長戦役で虎狩りが催され、勢子に追い立てられた『獅子』は貴方自身。西国諸将は虎と獅子の区別も付かなかったというのですね? これは可笑しい」


『治部殿がレーションの支給をケチりやがったから、皆空腹と疲労を押して戦ってたんだ。虎狩りは半分洒落抜きで他の獣肉目的だった』

 獅子は念話で話している。

「その姿こそ貴方が智恩寺で開眼した本気の自分で、俺はこんな力のあるすーぱーひーろーなんだ、臆病者でも売名家でもへたれでもないと」

「……祐直、ばかですか? 私は悲しくてなりません」

『なんだと?』

「その姿のお前は、あの時私を隈本まで連れて行ってくれた、砲術師の稲富祐直よりむしろ弱く見えます」

「己を嘲笑う人に疲れ果て、山陰の道を馬にゆっくり歩かせる打ちひしがれたお前は、確かにどんな武人よりもちっぽけだった」

「でも、その眼から諦めは感じられませんでした。それが今はただのけだもの。ばかと言わずして何というのです?」

 言いつつがらしゃはユキヤの腕から肉を歯で食いちぎった。


『ぬかせ! 星を回すライオンの力、見て驚くな!』

 言いつつ文殊の獅子は脳をフル回転させている。武蔵の独特の異臭がしない。一体どこに隠れてやがる?

 ユキヤとか言うガキのパーティーは4人、見かけた死体は3つ、残り一体は武蔵が食ったのだろう。ではその臭いは?


 ……


「糞っ、読み損なった!」

 がはっ! 祐直が大量の血を吐く。がらしゃの影に素早く濃州無銘を突き刺し、がらしゃにはベレッタM92FSを撃ち込み、音も無く現れたジャンバラヤが抜き打った居合に胸を貫かれている。

「ええ、ええ! わかっておりましたよ祐直。お前は得体のしれない与えられた力に全幅の信頼を置く男ではありません」

「お前は人のまま、味方の笑顔のために敵を殺せる男です」

 ジャンバラヤの刀をさらに深く刺しながら、心底嬉しそうにがらしゃは言う。

「そうかい、高評価かたじけねえ。親父と同じように惨たらしく死にやがれ」

「……頭にきました。どうせお前など固くて不味いのですから、相方のほうから食べます」

「食うとこ少ねえから、俺で我慢しとけ!」

 再度血を吐き、祐直はがらしゃの肩を掴むが、もう力が入らない。

「鉄砲ならともかく、刀で私に勝てると思ったのか。呆れたな……」

 がらしゃの影から剣魔・武蔵が出てきて、祐直を肩から深く切り下げた。

「ど、どうせ俺は前座だ……後から転移してくる柳生三厳殿に斬られてマヌケ面で死ぬぜ、お前。三厳殿がXにどんな表情をアップしてくれるか」

 ジャンバラヤの脇差しが、憎まれ口を叩き続ける祐直の首を刎ねた。

 

「稲富殿!……お許しえってくだんせ……」

 南部対い鶴の紋が入った陣笠を深く被った、酒井兵庫を名乗る人物が立ち上がり、研ぎ減りした痩せ刀を抜く。どのような表情をしているか今は伺い知れない。


「肥後細川様と、このバルベルデ王国に含むところはござらねど、義のため手向かいつかまつる!」


 正眼の構えからいかなる業が繰り出されるかわからないが、この男が使うは北の星辰を刃に映す剣。ここで振るわねばいつ振るうというのか。

特になし

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