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ジャンバラヤ

特になし

 ジャンバラヤ・プリンセサ・バルベルデ。

 バルベルデの第四王女は『炊き込みご飯』と名付けられて王国に生まれ出た。国王が夜食を所望して、その時料理人が作ったものをそのまま王女の名とした。

 国王は四ノ姫出生の報にも何の感慨も示さず、眠りに就いた。

 正妃でなかった四ノ姫の母は、出産の翌朝即座に自害した。ジャンバラヤは母の情愛も顔も知らない。


「そのお姫様のあだ名は、何ていうか知ってます?」

 国境の街・ノガレスへ向かう道すがら。いつの間にかゴーマーの隣に酒井兵庫がいた。

「『悪役王女』?」

 ゴーマーの陳腐な答えを兵庫は鼻で笑った。


「『ひとごろし』。あんたと同じですよ。貴族学院で侮蔑の笑みが気に食わないと言って、宰相の子息とその取り巻き十人を一瞬で殺した剣技は、誰一人として見ることが出来なかった」


 ゴーマーはこの世界に来て初めて恐怖を感じた。慶長戦役で名のある武人が自分を鉄砲芸人扱いして完全に侮り、無警戒で自分の側に立っており、


『今なら撃ち放題じゃないか。どうせ俺を馬鹿にするような奴らだ』


『ころしてやる』


 と素で思った自分への恐怖と同じものだ。

「おいおい、俺は臆病者のへっぴり腰なんだ。そんな怖いお姫様に真のひとごろし決定戦を挑まれたら恐怖のあまり死んじまう」

 魔人・ジナイーダがありえない故主の怨霊を見せるという超特大の地雷を踏んでくれたおかげで、ゴーマーは今のところ誰かを撃ちたいという意欲が湧かない。

 

『ならば死ぬがいい!!! 今すぐに!!!』


 遥か高い空から桁外れに明るいジャンバラヤ姫の大音声が響いたのと、ゴーマーがスティンガーをぶっ放したのは、同時であった。

 

「獅子舞……? なんで?」


 ゴーマーは首をひねった。掌から内力を放ち、対空ミサイルをあっさり撃破したジャンバラヤの容貌は、獅子頭に隠れてわからない。どうしようもなくいい笑顔をしているのだろうな、というのだけはわかる。


「魔族の年末から正月にかけて、彼らの国の都まで獅子舞で旅費を乞いながら駆け抜け、王城へたどり着くなり先代魔王に勝負を挑んで斬り殺したそうですよ」

「最近の悪役王女なら、そのくらい普通にやるだろうな」


 言いつつゴーマーはRPG-7を撃ち込む隙を探すが、どうにも隙がない。

 

「あちらのお客様から奢りですよ!」 

 

 ふと思いついて、近くにあったテキーラの入った樽を獅子頭に向けて思い切り放った。

 ジャンバラヤは飛行魔法の行使もせずに鋼鉄の獅子頭を担ぎ、ほぼパワードスーツの魔道プレートアーマーを着込んで、ジェットパックもなしにワイヤーワークのように空を飛んで来ている。眼前で樽を撃ち砕いて破片を浴びせようというゴーマーの目論見もわからぬ武術の素人ではない。

 プレートヘルムは着けていないが、顔の前に薄布を垂らして相変わらず容貌はわからない。


「振る舞い酒、頂戴しよう」


 ゴーマーの頭を木っ端微塵に粉砕してやるつもりでいるのに、ジャンバラヤの声はやはり明るい。誰かを殺したいと思うあまり、笑い出してしまったくちなのだろう。

 

「げふぅ……あはははは! 知らんぞぅ、もう私もどうやってお前をころすか、知らんぞぅ……」

 ゆらり、ぐらり、ふらり。視界も定まらない。自分を蔑んだ世界をよく見なくて済むというのが、実にいい。どうせ手足はゴーマーの息が絶えるまで無念無想で動いてくれる。

 

 ならば、今は心地よい揺らぎに身を委ねたい。魔族一の剣士に呪いの剣で右頬を斬られたおかげで、引きつった笑みしか浮かばない。それでも、ジャンバラヤは笑った。 

 

「動くなよ、弾丸が外れるから……!」


 ゴーマーはテキーラを一樽空にしたジャンバラヤを見て心から喜んでいる。

 こいつは俺と同じくひとごろしにしかなれないくせに、いいひとと呼ばれたくて、雑賀孫市のようなヒーローになりたがっている。つまり馬鹿だ。殺しがいのある馬鹿だ。

 

 ニヤリと笑ったゴーマーの顔を、ジャンバラヤは倒れながら足底で思い切り蹴り飛ばした。ゴーマーは鼻血を拭いて親指を立て、その蹴りを讃えた。

 無形の盃を握るジャンバラヤの拳が、ごうっ、と内力の渦を巻いて何度もゴーマーに当たった。

 プファイファー・ツェリスカの銃弾を、水たまりに顔を突っ込む転びっぷりでかわす荒業は、見ていて嬉しくてたまらない。

 お礼に六尺の遠町筒をぶん回し、もう死ねと言わんばかりにジャンバラヤの脳天に叩き込み、頬を張り飛ばした。槍働きに近いことが出来ないなどと、言った覚えは一度もない。西国の名だたる武人ならともかく、ただの雑兵はゴーマーを勝手に侮り、名も残さず死んだ。

 

 音も影も残さない飛び蹴りを何度も食らわせて、獅子頭で容赦なくぶん殴っているのに、ゴーマーは倒れない。ジャンバラヤもまた嬉しくてたまらない。

 かつてバルベルデ王国をはじめとする、南大陸諸国にアルコールと反魂丹をもたらした八人の錬金術師がいた。ジャンバラヤの使う武術は、彼らが広めたものだ。 

 ジャンバラヤの動きが足を引きずるような痛々しいものになった。古の錬金術師の一人の動きを真似ている。いつの間にか、ひのきのぼうを一本手にしている。

 対するゴーマーは、二丁のXM214を手にしている。

 

 互いに、相手を殺す気だ。

 

 ひのきのぼうが禍々しい光芒を描いてゴーマーの頭蓋を砕き、なんとゴーマーのミニガンは全弾外れた。

 

「ひっく……なぁんとも、間抜けだなぁ……もうおしまいかぁ……私は呑み足りないぞぅ……」

「いいえ、間抜けじゃないですよ」

 兵庫は鉄扇を手にして、それでジャンバラヤの背後を指した。

 ゴーマーは何故か、巡礼者の一団を皆殺しにしていた。刺客だ。動く屍となって立ち上がるなら、兵庫が叩き潰す気でいる。

「彼らはまずこの辺りの住民を殺すつもりだったようですね。ゴーマーさんも何ともお人好しだ」

 兵庫は懐から反魂丹と薬研を出し、サファイアブルーの塊をすりつぶして粉にして、ゴーマーにかけた。

「兵庫殿、そんなにあっさりと種明かしをしてくれるな。少しはこの姫様に考えさせてやれ」

 ゴーマーはここ最近見せなかった不機嫌な表情に戻って言った。

「そうか、かたじけない。刺客どもさえおらねば貴殿の銃弾が私を粉微塵にしていたのに、何とも勿体ないことをした」

「お前さんは自分自身すら本気で呪ってるのか。感心しないな」

 ゴーマーこと稲富祐直には、娘が居て津・藤堂家の侍に嫁いだ……と言うことになっている。若いジャンバラヤの未来が、ほんの少し心配になった。

「貴殿こそ、私と同じようにたった一人で魔族の勢力圏内に入り、長い旅をして名のある魔人を殺して回る気だろう。馬鹿の極みだ、よさぬか」

「俺はいいんだよ、何も無いがらんどうだからな」


『実戦で使えない砲術を広め、訓練の時が一番落ち着く臆病者』

『文殊菩薩のご加護で開眼したとうそぶく、一端の武芸者気取りの売名家』

『武士ではなく鉄砲鍛冶だったのではないか?』


「何も、ないんだ……」

「私はあんたの友達じゃないですからね。本当に何も持って無いのは、保証しますよ」

 真顔で言う兵庫を見て、ゴーマーは苦笑いした。

特になし

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