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所詮ひとごろし

特になし

 エルモシージョ侯領から国境の街、ノガレスへ行く道すがら。

 ゴーマーがリスペクトする先輩転移者・渡世人のモンジロウは汁かけ飯をかっこんで極力急いで店を去ったというが、流浪のゴーマー・パイルはダイナーに入っても食事を取らない。豆乳と粥・揚げパンに刻みたくあんのセットを頼んでも、店の外にいたボロをまとった子供にくれてやった。そしてL85(改修前)を握りしめて辺りを睨み回している。本当にそれで休憩と言えるのだろうか。

 

 人間・亜人・エルフ族の混じったならず者の渡世人一家。そこから勝手にたもとを分かった敵の一家。ゴーマーから見ても見下げ果てた連中が、ある村にのさばっていた。

 ここに来る前にそいつらを目撃者の一人も残さずミニガンで始末した後で、どうにも何も喉を通らない。珍しく後味を悪く思う殺しだった。村は間もなく廃村になるだろう。

 

「相席しても構わんかな」

 ごつい顔に人懐っこい笑みを浮かべてゴーマーの向かいに着席しようとするオークの傭兵戦士に、ゴーマーはL85の銃剣を思い切り突き刺した。

「お客さん……何やってるんだあんた、とは言わん。何故だ?」

 ダイナーの老店主が死体を外に放りだし、血やら何やらをモップで拭う。

「刺客だ」

 ゴーマーの名前と『お前は我々の監視下にある』と書かれた書状が傭兵戦士の懐から出てきた。まずは親しく話しかけて、去り際に脅すという手並みを披露するつもりだったのだろう。

『これで監視してるつもりか、大した包囲網だ』

 ゴーマーは素人が見ればあらぬ方向にマクミラン TAC-50を二度撃った。

「当たった。奴の相方も片付いた」

 オークの相方のゴブリンが、ダイナーからかなり離れたところで死体になっているのが後で見つかった。

「そうやってキーパーソンを殺してばかりいたら、ドラマが生まれないんじゃないか?」

 テーブルを台拭きで拭い、老店主がポツリという。

「俺なんかどうせそこらのどぶに頭突っ込んで死ぬだけの人生だ、ドラマだの英雄譚だの、何の関係もねえ」

 ゴーマーは銭を置いてダイナーを去った。


 その日の晩立ち寄った街には、表向き宿屋の娼館がずらりと軒を並べているだけだった。

「面倒くせえ……更地にするかぁ」

 こればかりは使うまいと心に決めていたデイビー・クロケットを出して、ゴーマーは首を横に振ってそれをしまった。

「たまには自分から罠に飛び込まないとなあ……見せ場作らねえと」

 娼館の一つから、ゴーマーを見る殺気のこもった視線がある。気づかれないと思っているのだろうが、実に甘い。


 中の下くらいの娼館宿の一軒。

「頭に龍の角が生えた労咳持ちの、魔族の娼婦がいるだろう。酒も肴もいらねえ、そいつの部屋で少し横にならせてくれ」

 ゴーマーが遣り手婆に王国金貨のどっさり詰まった袋と美濃物無銘の刀を渡すと、婆はとたんに相好を崩す。

 

 ゴーマーが殺した魔族クラーヴジャの妹・ジナイーダは愛想よく出迎えた。遣り手婆が部屋に案内して、立ち去ったところでゴーマーはジナイーダのうなじに畳針をくたばれと言わんばかりに突き刺した。しかるのちに、畳を剥がしてゴーマを手槍で田楽刺しにする気だったゴブリンの刺客の首を、1080°回転させる。ほぼねじ切る勢いで首を回されて生きていられるはずもない。障子の向こうから槍を五本繰り出してきた五人の大馬鹿野郎は、MAXIM9で脳天を撃ち抜いた。一人も逃さない。


「あ、人間ドラマ……まいっか」


 娼館を出たゴーマーは、近くの河原でごろりと横になった。冥府魔道には自分から飛び込んだ格好だが、何処までも憂さは晴れない。怒りが募る。

 

 ゴーマーが眠りに落ちると、クラーヴジャとジナイーダが血まみれで憎々しげにゴーマーを見ていた。

 だからどうしたというのか。こちらを殺す気であったくせに、一方的に被害者ヅラして怨念となって現れるなど片腹痛い。

 

「よく寝た」


 実際はほとんど寝ていない。その証拠に、ゴーマーの身ぐるみを剥ぎに来た間抜けな盗賊が二人、額に穴を開けられて死んでいる。

 

 翌晩は、宿場町までたどり着いたが最初から適当な河原で横になった。彼のかつての主・一色五郎義定が血まみれの恨めしい顔でじっと睨んでくる。

『誰かまじないを仕掛けやがったな』

 ゴーマーの頭は何処までも覚めている。跳ね起きた。


 赤い長衫を着たジナイーダが、シミターを手にゴーマーに近づいていた。

 ゴーマーはジナイーダの脳天にダブルバレルショットガンの銃床を何度も叩きつけ、相手が完全に息絶えてショットガンの銃身がひん曲がってもなおも殴り続けた。更にジナイーダの死体に痰を吐き、改めて少し離れたところで眠りについた。

 

 これでは人間ドラマも何もあったものではない。

特になし

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