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『実戦では役に立たないと言われたガンナーさんが異世界入り』  作者: 鼓動大路
二章・あばよゴーマー、こんにちわグラシエラ
18/22

食事ができないのは嫌なので、乾物に極振りします

特になし

「男手が要るようだが、この森は何で僕を通した?」

 祐直の危惧した通り、どんなに艶やかなエルフの女性の視線も『どうせ撃てば死体だ』と行也は意に介さない。

 エルフもデ◯ードリットからこのかた、随分肉感的に変わったと思うのだが、瞼を開けても弱法師よろぼしには何も見えぬのだ。

「ところで行也、あの『伯約さん』、バルベルデ王家の召喚術と同じ 術式ガラポン で呼んだ人だよ、たぶん」

 思考をフル回転させようとする泰隆だが、行也と違って周りのぷるんぷるんやどたぷーんに目を奪われてどうにも集中できない。

「長から一言もなかったのは気になるな……」

 行也がしばし考え込む。当代魔王を討った暁には国内の森に住むエルフを糾合し、王国を相手に覇権を拡大するつもりなのだろうか。

「『1000歳以上』が何人か居るな。王国は今のところ商売や魔法使いの借り受け含めて、良い付き合いをするに越したことはないだろう」

 と、行也が言うと、

「あ~、男同士のお突き合いを煽る呪歌はまずかったか?」

 敦子が気まずそうな顔をした。

「長が笑って許したってことは、すぐ解く術があるんだろう」

 行也が苦笑する。

「とりあえず森を出て適当なダイナーで、グラシエラ姫も交えてドワーフの星型城塞都市・『シウダード・デ・ピエドラ』の話をしよう」

 

「星の城……か。さぞや堅牢な街なんだろうが、ぶち壊そうにも大砲は同時期の他の名人ほど得意じゃない」

「伊賀殿……何で交渉でアーティファクトを手に入れるという発想が、真っ先に出ないんだ?」

 孫市は呆れ顔でグラシエラを見た。

 

 

 

 死せるダークエルフ達の眠る、『慟哭の谷』。

「お、おどろいたよ、エルフが『スカッドマン・ジョン』のメッセージを受け取りに来るなんて」

 スカッドマンはいつでも撃てるように無数のマジックミサイルを浮かべる。

「この身体に障る瘴気の中を来たのだから、隠し立ては無用に願おう。天水の姜伯約、鄧士載殿がこちらにおられると聞いて、諸葛(瞻)思遠殿の心残りを晴らすべく槍を一手馳走に参った」

 馬謖の前では少女のようだったのに、緑の戦袍とプレートアーマー一式を纏い馬上の人になると、『蜀漢・黄昏時の大将軍』の勇壮で悲しい風格がある。

「あ、ありがたい。我々の前世代のいくさ人が見せた、素晴らしい戦技を再現できるのは姜将軍しか知らないからなあ……」

 軍政と、源義経の先輩と言うべきアメージングな奇襲で鳴らした鄧艾とうがいであるが、三国時代のいくさ人に生まれたならやはり一騎打ちは華だ。兄弟子・馬謖がこの世界で何やら大暴れしたいというので、姜維としても槍の錆落としがしたかったのだ。

「と、ところで、その目のハートマークは何です?」

「おかしな呪歌を喰らって色々疼いてますが、これくらいのハンデでちょうどいいでしょう。私の最盛期の槍は貴方の軍政家としての技量以上だ」

「お、大口を叩くのは感心しない」

 鄧艾も幽鬼の騎馬にまたがって、縁を研いだ長柄のスコップを手にした。

 

 董卓・馬騰・韓遂らを引き合いに出すまでもなく、北西部で異民族相手を相手にする馬上槍のプロが涼州にはいた。姜維はその末裔だ。鄧艾は終始圧倒されたが、求めていた漢土北西部の風を感じるヤリ・ジツを堪能することは出来た。

「何か勘違いをしておいでのようだが、蜀の武人は名将・呉漢が蘇って来襲しても恐れはせぬ。もっとも、その武人が私の頃にはあらかた物故していたが……」

 だいたい昔の技量が戻ったのを確認すると、姜維はそれだけ言って去った。

 

 

 

 行也が祐直に顎を砕かれ、色々あって弱法師の境地にたどり着く以前。彼らは現地の知識不足から来る、行き当たりばったりで転移主人公補正によるひらめき任せの行動と、『何故か急に難易度が接待モードになる』幸運が巡って窮地を切り抜ける、いわゆるなろう的ミッション達成パーティとして知られていた。

 

 その行也のパーティと並び称された『トモヒロのパーティ』の名声は、リーダーである『重曹歩兵』『難局料理人』『干物弟』・黄鶴きづる 友広の名に負うところが大きい。

 祐直に様々な火器を出す異能があるように、友広は食卓塩から怪味ソース、マリーシャープスのスモーキーハバネロに至るまで、ありとあらゆる調味料を出せる。

  

 ところで、古のダンジョンズアンド何とやらを見ればわかるように、その昔、祐直や孫市のような自在の狩猟ができない、ニュービー冒険者にも安心のファンタジーミリ飯『保存食』のセットがあった。

 そのまま千切って食せば味気ない干し肉・干し魚を重曹と水で戻すのは、友広でなくともいずれ誰かがやっただろう。そこから『地上のいつもの味』をダンジョンにもたらしたのが、彼の異能の真骨頂である。

 

「乾物を戻して、炒めた戻し野菜とともに醤油と酒と牡蠣油、その他調味料をかけて仕上げの加熱をすれば、後は飯に乗せるだけで大体の憂さを忘れられる」

 と言う友広は、世界五大陸最高峰を登頂したという『マッキンリーから来た真の冒険者』のアドバイスを受けてなお、即興でモンスターを調理して食べるというのが苦手だった。バルベルデ本草学と王国内のモンスターの生態を頭に叩き込むのも苦手だった。

 

 臨機応変なダンジョンでの食料調達が出来なかった一行は、いつしかカバンに職業の必須装備とテント、大量の乾物・乾麺・アルファ化米・行動食、浄水剤・駆虫薬を詰めて持ち歩くようになった。

『松平伊豆守の軍勢に囲まれた原城すら炊き出して見せる』と謎の豪語をするトモヒロ一行は、今日も足に神行符を貼って冒険の待つ土地ではなく、王国内の災害発生地や困窮した村へ走る。


 頭から爪先まで襤褸ぼろで覆い、ひのきのぼうを手にふらふらと歩く、見た目年齢は二十代後半の物乞いがいる。

 名はヨジョウ・『王弟』・ノートン・アメリゴ。

 巌流島の決闘のような殺陣で先代魔王を当時弱冠十四歳のジャンバラヤ姫が斬って捨て、北大陸にある魔族の国アメリゴは太子密建たいしみっけんが無いため揉めに揉めた。

「まず大事なのは父上の敵を討つことだろう」

 と七王子ヨジョウは道理を説くわけでもなく、襤褸をまとってひのきのぼうを手にふらりと魔王城を後にした。

 

 王宮にいては食べられないものを沢山口にした。

 バルベルデ王国に入ってからは、王族の自分にも忖度無しで斬り掛かってくれる剣客を沢山斬った。

 

 とにかく、新鮮な驚きだらけで過ごしてきた。なにしろ世界を滅ぼそうなんて痴夢を見なくても出来ること・やることは世界にたんとあるし、空は青いし、石畳は歩くと疲れるのだ。

 笑った、怒った、斬った、泣いた。

 魔王城に籠もって魔王らしからぬ書類仕事に励む、長兄(当代魔王)に本当に申し訳ないと思うくらい生を謳歌している。

 

 魔王城で勇者のしるし・名剣『リ・ゲイン』を佩く勇者が来るのを待ち、「やりすぎてしまうかもしれん……」とか言っていては到底味わえない何かがある。

「まず、このふやかした乾パンを少しだけ食べて、水を少しだけ飲んでください。飢えに任せてかっこむと、胃の腑が驚きます」

 友広は、ヨジョウにも親切であった。

「あ……ありがとうごぜえます、お坊ちゃん」

 ここ最近残菜にもありつけず困っていたヨジョウは、涙ながらに乾パン粥をすすった。

 

「よく味わってください。お腹を空かせた敵を討ったと言われると、僕の沽券こけんに関わります。お腹を空かせて本調子じゃない敵に討たれたとあっては、やはり僕の沽券に関わる」

「何っ?!」

 ヨジョウは慌ててひのきの仕込み杖を引き寄せ、握りしめた。


 友広に戦いを挑んだ数多の魔族の刺客が、まず食事を振る舞われたと聞く。つまり、誰一人として不意を打つことが出来た者がいないのだ。

『いい加減剣豪を名乗ってもいいんじゃないか……』

 などとヨジョウが自惚れだした矢先にこの友広の強者感は、心が折れる。

「いや、実際僕のプライドはどうでもいいんですが、不覚を取って転移人恐るるに足らずとか言われると、他の人に迷惑をかけるでしょう?」

「あんた、もうちょっと不真面目になったほうがいい。転移人がみな堅物と思われる方が大変だろう」

「あはは、すいません。性分なもので」

 などと談笑している間にもヨジョウは友広を油断なく見ているが、どこをどうやったら首を落とせるのか見当もつかない。


「さて、そろそろ仕事にかかりましょうか」

 無手の友広がにっこり笑った時、

『ああ、死ぬな俺』

 ヨジョウは真っ青になった。相手はちょっと面倒な藪を切り払うくらいの感覚で、こちらを見ている。

特になし

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