死者の兵士
特になし
「ところで、思うんだけど」
泰隆は本当に『殴る・蹴る・怨念の核を握りつぶす』の繰り返しを何度も何度も何度も何度も続けている。
「おもさげながんす、それがしは忙しいので、後にしてくだんせ」
兵庫こと貫一郎は一息に相手の怨念の核を斬り捨てている。動作数は少ないはずだが、潰した数は泰隆のほうが多い。
「JRPGのRPGって何なの?」
「それがし英語はわがらねど……やぐわりさ演じるゲームと聞いておりあんす」
祐直・兵庫・がらしゃ・孫市・馬謖・森宗意軒・武蔵は筆者の都合である程度未来知識を与えられている。今後過去から誰か来れば、やはり同じことになるだろう。
「一応そういう事になってる」
「ねえ、世界の未来って、一頃のJRPGのように一本道のストーリーしかないのかな?」
「いんや、知恵と心ある者の数だけ、いだいた希望の数だけ未来はござるぞ! わしのような過去から来たものがそれをただ断つことがあってはならね!」
200年生きていないような少年兵の怨念がいたので、貫一郎は核に柄頭で深刻な衝撃を与えて一種の気絶にとどめた。
19世紀も半ばを過ぎた、京都。
「こんな奴らのために貴重な使える隊士が減ると思うと、うんざりだな」
いかに池田屋以降さしたる働きもないかの隊と言えど、いちいち記録にも残さないような、志士を騙るチンピラはそれなりに狩っている。
「兵庫さん、陰陽寮ってところにひとっ走り行って、ちょっと死体を使役するジツを聞いてきちゃあくれねえか」
副長が真顔で言うので、兵庫は竹筒から口に含んだ麦茶を盛大に吹き出した。
「土方先生、日の本を死者の持ちたる国にしようってんですか?!」
「浪花から西はそうしてもいいんじゃねえか? 大樹様の言うことを聞かない連中にまで俺ぁ優しくなれねえ」
「その兵士を幕府の船に乗っけて、大陸で戦わせて死体を増やしながら転戦すれば、ジョーイとか言ってる奴らの『しょがいこくのあつりょく』って奴も気にならなくなるだろ?」
「あんた、命ってやつを何だと思ってるんだ……!」
「冗談だよ。山に囲まれた王城の地の天気ってのは、人をおかしくするものさ」
「兵庫さん、手が鈍ってる」
「おもさげね、いやあ、やはり死せる者なんぞ、ここから一歩も出すものではござらん」
異世界人の兵庫にも封石ではないかと思わせる門前の石に、ヒビが入っていた。スカッドマン・ジョンは気づいていないようだったが、到底吉兆ではあるまい。
稲富伊賀守祐直は様々に散らばる超人的な逸話と二つのしくじり(?)に比して、自身の口から言い訳がましい言説を遺していない。筆者が知る限りでは。
天を信じるなかれ
鎧は二重にあり 鉛玉を防いで何が悪い
手柄を望むなかれ どうせ褒美は嘲笑だ
死なんと戦うものはただの的なり どんなに格好つけようが当たれば死ぬところに鉛玉を馳走せよ
とは言え、戦の華たる毘沙門天の人と対極の思想になるのはまあ仕方ないだろう。
「ああもう手がむずむずする、あいつら殺す!」
「おんあらはしゃのう! いでよ常世の狙撃砲!!」
グラシエラ・祐直はNTW-20を手にした。
「おい、それ一人じゃ……」
孫市が保持を手伝おうとする。世界で一、二を争う贅沢な観測手ではないだろうか。
「助太刀無用! ヒャッハー!!!」
グラシエラが狙撃砲を片手で持ち、狙撃ポイントを求めて走る。
「いや、ヒャッハーってあんた……」
前の生涯でどれだけストレス溜めてたんだ? と孫市が聞いたら、ストレス以外貯めてねえよ、と祐直は答えるのだろう。
名も覚えていない娘を嫁に出す諸費用は貯めていたらしいが。
『我 神の名に於いて之を鋳造す 汝ら罪なし』の文字がNTW-20の銃身に碧く輝く。
それは、支援砲撃と言うより、『頭上から降ってくる地獄』であった。
3体か5体か、コアを狙うまでもなく怨霊兵がまとめて木っ端微塵にされるさまを、そう呼ばずして何というのだろう。
だが、さっきまで狂人にしか見えなかったグラシエラは、酷く陰鬱な顔をしている。
いかなる銃を撃っても撃っても悲しみと怒りと鬱々とした感情しか湧かない時がある。トリガーハッピーになるうちは正直二流未満だと思っている祐直だが、何度撃っても暗い感情しか湧かない彼からすれば羨ましく思うことがある。異世界に来ても。仲間や弟子がいても。
「消えてなくなれよ、お前ら! 存在するかもわからない幽霊の分際で!!!」
怒号を上げてすぐ、場所を変える。
ダークエルフ・古代人・闇の竜などの連合軍が追い落とされ、敗残兵が斬首されて打ち捨てられたという古代遺跡・『慟哭の谷』。
泰隆が見たイメージが遊郭というところからわかるように、上記三族の子孫以外の女性は入れない。転移人などというよそ者の極みは以ての外である。
「道理なんぞ、クソ喰らえだ」
騎馬ごと結界をぶち破り、グラシエラは駆けながら行也を拾い上げ、途中で放り捨てて二丁のミニガンを馬上から撃ちまくった。時折九字を切り、精神力を込め直す。
「おじさん(祐直)……何やってんです?」
「お、オジサンじゃないヨ! グラシエラ姫だヨ!」
「僕の目を見て言えます? 何でパトロンが自分で敵を5分の2片づけてるんです?」
泰隆はグラシエラを睨みつけているが、祐直の生還は嬉しくもある。
「……ごめんなさい」
遠くで孫市が腹を抱えて笑っているのが見える。
「でもまあ、御大将の首を取るリングは作ってやったつもりだよ、気張って行きな」
「……はい!」
特になし




