エルフとはなんぞや
特になし
バルベルデ王国・エルモシージョ冒険者ギルド最上階・ギルド長室。
「そろそろ、ジャンバラヤ姉様を正気に戻さねばなりません。当代魔王は父親を無造作に斬った姉が、自然に正気に戻るのを待ってはくれません」
グラシエラ姫は、若い男のエルフのギルドマスターに言った。
「『勇者のしるし』こと名剣『リ・ゲイン』は現在姉様に所有権があります。ですが、あの人は邪悪な居合刀を佩いている」
「もはや武林の主ではない姉様を成敗して、新たな剣の持ち主を立てると言う手もありますが、はっきり言って悪手です」
「典医や王宮魔術師によれば、姉様にかかっている邪術はどうも『エルフの森の蜜蝋』『ドワーフの不思議な食用油』『オークの古代文書の灰』『ゴブリン洞窟の禍々しき茸』を調合したものを飲ませねば解けぬ、と」
グラシエラ・祐直は、唯一エルフの森には自身が行けそうもない。彼らにしてみれば邪悪なドワーフ絡繰りにしか見えない銃使い、しかもその鉄砲を使って生き物を狩る輩となれば、里の森に入れるなどまずありえない。孫市を名代に立てるのもダメだ。
「森への使者はこちらでも腕利きの転移人・ユキヤ殿のパーティを雇いたいと思います。構いませんか?」
「依頼料さえご用意いただければ、ご随意に」
まるでスーパーの生卵のようにぞんざいにケースに入った十個の反魂丹を、グラシエラはギルド長の前に置いた。
「おやおや、この世界で『火薬』の調合をしていたら、簡単に反魂丹が作れる秘法を見つけたどなたかを思い出しますなあ」
「その方はみまかられましたので、反魂丹の値段も上がりましょう。この十個の価値や、如何に」
「……貴方の正体を知れば、ユキヤくん達は捨て値同然でも請けましょう。当分の間自在にお使いください」
冒険者ギルド近く、焼肉入りパンの屋台。
「鈴木殿……『俺』はユキヤに対してちょっとしくじったと思うことがある」
言いつつ粘材入りアイスを職人がコーンに盛るなり一瞬で奪い取り、お代を渡してグラシエラはにやりと笑う。相手は普段客に渡したアイスを、魔法のように取り返す芸を見せる職人だ。
「俺の前で手並みを披露したな? ちょこざいな」
孫市は二つのアイス入りコーンを片手で奪い、間髪入れずお代を渡した。
「それでしくじりって何だ、伊賀殿」
「俺のような生き方をしていると、目の前のどんな美女も『どうせ撃てば死体になる』と思う。あいつは俺の力を受け取った時、そんな価値観も知ったはずだ。あいつの恋と青春を、捻り潰したかもしれん」
「何でそんな荒んだ生き方をするんだ……伊賀殿、それでよく所帯が持てたな」
孫市には『鉄砲の女神』と本気で信じた妻がいる。祐直には存在も定かでない妻と娘、本当に血がつながっているかわからない、鍼灸の改革者となった外孫がいる。
「だが、そんな伊賀殿がアイス職人に悪戯をやり返すくらいだから、ユキヤ殿も一時歪んでもすぐ治るかもしれんぞ」
「……違いない」
「簡潔に策を申し上げます。街道に石の八陣を築き、『エルフの森の蜜蝋』がある『静かの森』には行かせず、『慟哭の谷』に出る口を開けておきます」
「そこの魔性と化したダークエルフたちの手で、小西行也と藤原泰隆には確実に死んでもらいます」
楽しそうに馬謖は仲間たちの前でマジックスクリーンを机上に展開し、策をプレゼンした。
「幼常どの、そなたも『慟哭の谷』で淫魔と化した怨霊ダークエルフのやわはだに溺れて休みを取っても良いのですよ。少しは溜まったものをどぴゅっと発散してらっしゃいな」
まるでお母さん然とした表情で、がらしゃは馬謖に言う。
「世のことごとくを殺し尽くすまで、絞り殺されるわけにはいかないので」
孝行息子の如き笑顔で、馬謖は答えた。
行也一行の定宿・『揺籃亭』
「行也、『エルフの森の蜜蝋』って、なんかエッチだと思わない?」
「どうした急に、頭の中身を精液と入れ替えられたのか?」
普段落ち着いている泰隆が少し興奮気味なので、行也は凶兆ではないかと思った。
「メルセデスさんに聞いたんだけど、昔のエルフは『スター・トレック』の『Mr.スポック』に近かったんだって」
最近メルセデスに師事している敦子が言う。
「へえ……メルセデスさんは物知りだね」
泰隆は素直に感心している。
「500年は若手を脱したばかりって聞くけど、知識を溜めてるエルフはやっぱり違うな」
行也は矢立を出して紙に何事かメモしている。
「???」
何か言わねばならないことがあると思った美由紀だが、どうリアクションすべきか思いつかない。
結論から語ろう。
馬謖の鬼謀通り、行也と泰隆は命からがら石の八陣から抜け出し、『静かの森』の入口を装う古代遺跡・『慟哭の谷』にたどり着いた。
だが、美由紀がパニックを起こしてアルコールを口にして、降龍十八掌で八陣に穴を開けて敦子とともに『静かの森』へ走るのは予想外だった。
「泰隆、キミの目には何が見える?」
「遊郭、かなあ……鮮やかだけど、血とカビの匂いがして、嘆きと恨みの声が聞こえる」
行也の目には、瘴気と怨念漂うダークエルフ・古代人達の墓標群が見えている。
「いいセンスだ、でも、もう少し騙されてるふりをしてくれ」
泰隆がしばし目を閉じて、開くとそこには馥郁たる花の香が漂う、鮮やかな色と一夜の愛の都が現れた。
「できたよ」
「僕もそれに合わせる、少し遊んでくるといい」
「うん」
行也が手渡した古代王国金貨のいっぱい詰まった袋を手に、泰隆は『慟哭の谷』内部へと走っていく。
「おじさん」
「お、女の子たちと遊ばずに、わ、私と戦いたいということは、『スカッドマン・ジョン』のメッセージを受け取りたいのだね?」
行也が指名した相手は、トリルビー帽を被りスーツを着た、口ひげも渋いダークエルフの魔法使いであった。
『遊郭の前にたむろする中で最高の強者』を、行也は探す必要があった。中に入れば、いずれ武器を預けねばならない。
今回ばかりは祐直が生前鍛冶としての技量をすべて込めて打ったという、『打刀・二尺三寸・丹後祐直』をまず試す必要があった。
スカッドマン・ジョンは、吃音で発声を要する魔法が上手く使えず、ダークエルフの集落において一人で過ごすことが多かった。
ハイエルフ・光側の古代人・竜などとの最終決戦に魔法剣士や魔法使いが沸き返る中でも、彼は一人覚めた目で初歩のマジックミサイルの練習をしていた。
そして、光側の名も伝わらぬ剣士に多くのダークエルフ・闇側の古代人が斬られ、人が過ちを繰り返す魔法に残りが吹き飛ばされた時……
数名の軍楽隊員を従えたスカッドマン・ジョンはしんがりの英雄になった。
スカッドマンはどこにいる?
現実で無能なら異世界でもダメ
スカッドマンも同意する
村人は案内板じゃない 君を慕う子はトロフィーじゃない
君のお母さんの味は 彼の苦手な味かも
まあとにかく今一度 周りをよく見てみなよ
誰にだって意思がある 世界は時の移ろいで変る
スカッドマンが案内しよう
スカッドマンは誰かって?
私がスカッドマンだ
スカッドマンのタイピングは遅い
でも君はもっと早く いい文章が書けるはず
スカッドマンは嫉妬する
文庫化は終わりじゃない 君の旅の始まりなんだ
長い旅には重いカバン もっと良い思い出を詰めて
君の得たものを受け止める 読者のことを思ってみなよ
誰かの心に感銘を 退屈を笑顔にしたいじゃないか
スカッドマンは手助けしたい
スカッドマンは誰かって?
君もスカッドマンだ
スカッドマンは「美味しい」と言わない
曖昧な言葉は人を動かさない
スカッドマンは評価が苦手
慌ててコメント書く前に まず作品を味わおう
顎が疲れるだろうけど よーく噛んでみて欲しい
一作に作者の人生がある 筆者のことを思ってみなよ
異世界金太郎飴も どこかに味の違いがある
スカッドマンと飴を作ろう
スカッドマンは誰かって?
読者もスカッドマンだ
軽快なリズムで無数のマジックミサイルを放ち、たった一人で追手を止めて散った、そいつがスカッドマンだ。
間違いなく難敵だ。
行也は嬉しげにニヤリと笑い、ベルトに差した丹後祐直の鯉口を切った。
特になし




