1570・大坂・石山御坊
特になし
話を少し1570年代の大坂・石山御坊に戻す。
「ではまず、今回のオーディションに参加した理由をお聞かせ願えますか」
下間坊官の視線の圧が厳しい。稲富直家(後の祐直)のような陰キャには耐え難い。
「その……自分の砲術を試してみようと思って。どこまで『雑賀の頭領』に近づけるか試したくて」
下を向いてボソボソと喋る祐直に、坊官がいい印象を持つはずがない。
「戦歴をお聞かせください」
「織田の朝倉攻めにバイトさんとして参加してます」
「貴方の砲術とおっしゃいましたが、どのようなことが出来ますか」
「大型獣と大掛かりな銃兵隊の指揮、大砲クラスの扱いは苦手ですが、それ以外はだいたい……あ、無視界戦闘ができます」
大ホラ吹きめ。坊官は心のなかで直家の履歴書に不可の印を押し、ブラックリストに載せている。
「そうですか、それでしたら南無六字の元に集わずとも、いずれ武名が響きましょう」
「お疲れ様でした、今後のご活躍をお祈りいたします」
「チッ、ペテン師め」
坊官が極小さく呟く。聞き取れない直家ではない。
「人面獣心なり、三年のうちに祟りをなさん……!」
参加者と面接官に聞こえるように直家が呟く。参加者が一斉に直家に銃を向け、坊官が得物に手をかける。
「オン アラハシャノウ……丹後一色家中・稲富直家、我と思わん者は撃ちかけよ!!!」
直家は少し離れたところから様子を見ている、本願寺顕如その人を狙っている。無論、直家から見える場所にはいない。
「いやアンタ、本来なら俺のスタント志望をふるいにかける側だろ。何やってんだ」
鈴木重秀はさり気なく直家と顕如をつなぐ射線に入った。
「ええ……自分、まだ現役で(1552年生まれ)、ネームバリュー的にも大物選手風吹かせて後進を見るにはちょっと……」
「稲富・田付・安見や伊賀甲賀、根来津田のみなさんが審査しなかったら誰がやるんだよ、ほら座った座った!」
「あ、いいんですか? じゃ遠慮なく……」
ど、どうも、と遠慮がちに頭を下げて、直家は先程の坊官の隣りに座った。坊官は目が点になっている。
それから少し後の話。
「ええ……モリモリの筋肉で弾丸止めるとか引くわ……」
この頃祐直はまだ易筋経を理解していない。そもそも打極投の道理を合わせて使ってくる相手に近距離で対峙するというのが嫌だ。それでも一雑兵を装って、織田の刺客から何とか重秀孫市・蛍孫一・重朝孫一を落とすことが出来そうだ。
「あんた……その身に獅子を飼ってるんだろう? どうだい、虎とやりあって」
「いやだよばあああぁか!! この間合いは狙撃の道理じゃない、お前の道理だ! 逃げるに決まってんだろう!」
重秀孫市を襲った刺客にそっくりの男に睨まれて、なんかもう涙とか鼻水とか色々流しながら祐直は逃げた。幸い味噌は焼いてない。
『もっといい銃が欲しい!』
どんな銃がいいのかは今の祐直にはわからない。だが、自分が生きている間には絶対現れないレベルの銃が要る。
「げえっ、しつこい!」
さっきの刺客の片割れが祐直を追ってくる。
『南無八幡大菩薩、狂える虎から我を助け給え! この一弾を外すならば、丹後に着いても自害いたす! 今一度一色家のために戦えと言うなら……』
目を閉じて祐直は祈る。
『この弾丸、外させたもうな!!!』
「いんよーい(陰陽射)!」
祐直は後ろを振り向かず、馬上から背後の織田の刺客を撃った。一応、かすった。まあ、腹は切らなくていいだろう。
「こんな化け物だらけのところにいられるか、わしは帰るぞ!」
「……何だ、あれは」
頬をかすめられた織田の刺客は起き上がり、わからぬと言いたげに首を振った。
特になし




