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ガンナーさん、異世界入り。

特になし

『実戦では役に立たないと言われたガンナーさんが異世界入り』


鼓動大路


 足利二つ引の紋が入ったボロボロの陣笠を被り、ブレストプレートを二領着込んだ、何とも陰気な顔の中年男性がバルベルデ王国・エルモシージョ侯領の冒険者ギルドに入ってきた。


「あの、ご職業・スキルを拝見させてもらって構いませんか?」


「いいわけねえだろ」


 そんな胡乱な輩にも普通に接したエルフの女性係員の前で、男は瞬時にダブルバレルショットガンを抜いた。そして相手の身元や職業・スキルレベルをどんなに隠しても詳細に表示する水晶球を、いきなり木っ端微塵にした。


「ひっ! こ、殺さないで……!」


 ギルドホール内に何となくたむろしている駆け出しのふりをした、警護騎士が近寄る前に男は女性係員にXM214ガトリングガンの銃口を向けた。

「俺の職業は『どんくさいおくびょうもの』、名前はゴーマー・パイル。もしくはイピカイエ・マザーファッカーだ。ねぐらは『ブタの糞溜め亭』、さっさと書き取れウスノロ」


 名前:いなどめ・すけなお 職業:砲術師 連絡先:『月琴と油条亭』

 女性係員は必死に魔法のペンを羊皮紙に走らせた。


 目に付く者すべてを殺してやると言わんばかりに、ゴーマーは瞳に怒りの炎を宿して名乗った。冒険者ギルドを訪れたのは無宿人狩りを避けるため必要最低限のパーソナルデータの登録に来たのであって、仕事を受けてダンジョンや陽の光の下で活躍する気はさらさらない。

 

「あ、あの、おじさん……」

「今、ボロ切れ同然の俺ならふざけた依頼も請けてくれると侮ったな? 人を馬鹿にしやがって、10数えるうちに視界の外に消えろクソガキ、さもないと殺す」

 陶製の古びた貯金箱を持って近づいて来た侯領民の少女に、ゴーマーは怒って言う。

 

「うっ……うわーん!! 死んじゃうよお、お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、村の人もみんな死んじゃうよお!」


「そりゃ良かったな。俺なんか本当に守りたかった人達も、誇りも割と気楽に踏みにじられたぞ」

 ゴーマーは号泣する少女を見て、ちょっとだけ機嫌を良くして苦笑いした。


(回想)


『砲術天下一を名乗って、主をあっけなく殺された気分はどうです? 口先だけ一丁前の能無し売名家さん』

『忠興、文武両道の粋人ぶってお前もオヤジも腹ん中真っ黒だ。汚すぎて撃ち殺す価値もねえ』


『あまりにヘタレだったため、自慢の砲術も実戦では何の役にも立たなかったのではないか……とか(笑)』

主計頭かずえのかみ (清正)様、弱虫・へっぴり腰と言われるのは今更かまやしねえ。だが俺の何をわかってそこまで侮辱するんだ?』


(回想ここまで)


「なんならお前らが盗賊かゴブリン、って言ったか? そいつらの手に掛かる前に村を更地にしてもいいんだぞ」

 なおも泣きじゃくる少女に流石にイライラが募り、ゴーマーの中で更に怒りが煮えたぎる。


「いいか、もう一度言う。10数えるうちに視界の外に消えろ。さもないと殺す」


「うっ、うっ、うぇえええんっ! 何で、何でこんなひどい目に……」

「だいたい冒険者ギルドに来たら甘っちょろいリア充パーティがいて、お前の持ってるはした金で仕事を受けてくれるって認識がバカげてるんだ」


「おい! さっきから聞いてればひどいじゃないかおっさ……グワーッ!」

 転移人の少年二人・少女二人の手練れパーティらしい集まりから、リーダーの少年が怒りの表情でゴーマーに近づいてくる。だが、戦場では散々に罵倒され、死んだ目で火縄銃を握り、淡々と敵兵を射殺していたゴーマーがまず何か言葉を返すと思う時点で、甘い。

 返答の代わりにダブルバレルショットガンで躊躇なく、少年の顎が砕けるほど銃床で殴り飛ばした。凄腕揃いの警護騎士もゴーマーの狂気に当てられて萎縮してしまい、止めるものは誰もいない。

 

「あのなあ、この世界に神はいねえ。死んだんじゃない。そんなもの元からいなかったんだ。俺がここに転移したのは、単なる筆者の都合だ」


 ゴーマーが少女に憐れみの目を向けて言う言葉に、ギルドホールに居た聖職系ヒーラー・聖騎士が真っ青になる。

 

「天国も、地獄もない。死んだら何もかも気にしなくて良くなるんだ。魂なんてものは、ないんだからな」

「どうだ、少しは気が楽になったか? 諦めがついたか?」


「大っきらいだ!……呪われろ、キモオヤジ!」

 少女は泣きながら逃げ去った。

「神も仏も祝福も呪いもあるもんか、現に文殊菩薩は俺に何もしてくれなかったぞ」

 神も悪しき神も高位の精霊もない世界にどうして魔法と魔力と異能が存在しうるのかわからないが、ゴーマーは人さえ撃てればいいので、深くは考えない。



「隠れていてもケダモノの臭いはすぐわかる。烏丸少将でなくてもな」

 ゴーマーは侯領都エルモシージョ近郊の村へ向かう街道を歩いている。最近不審な輩が周囲をうろつき出したという村は、ギルドの調べですぐに絞られた。後はそいつらの糞尿や体臭をたどり、盗賊団のキャンプ地にたどり着く。そこでゴーマーは、フィクションにおける大谷吉継のように顔の前に白い薄布を垂らした。

「あぁ? 何だおっさん、お前なんか食っても美味くねえんだよ、失せやが……グワーッ!」

 ゴーマーは二重の手甲を外して、無防備に出てきた盗賊の懐に一瞬で飛び込んだ。しかるのちに相手の鼻っ柱へメリケンサックを付けた拳を全力で叩き込み、頭蓋を砕く。売名家と言われても、臆病者と罵られても、組み討ち一つできないとは言っていない。

「お休みのところ悪いが、臭い野犬どもを見つけたんでムカつくから追っ払うことにしたよ」

 腰に提げた無銘の美濃物の刀は、使い慣れていないので盗賊どもの手足を雑に落とすにとどめる。今回はなるべく銃を使わず自分の形跡を消して、手柄を他人に譲る必要があった。

 

「そこまでだ! ガキの命が惜しけりゃ手を頭の後ろで組んで這いつくば」

 盗賊のボスは、短剣を手にくくりつけて乗り込んできた少女を人質に取った瞬間、プファイファー・ツェリスカで頭を吹き飛ばされた。

「俺は映画俳優じゃねえ、ひとごろしだ。洒落た口上なんか期待するな」

 ゴーマーはぺっ、と地面につばを吐いた。少女は怯えきっている。

「お前のはした金で盗賊を退治してくれるもの好きはいないが、バカとクズをただで掃除する篤志家はたまにいるんだぜ。驚いたか?」

「ただし、盗賊団をやっつけたのはゴーマー・パイルおじさんじゃない。俺はあくまで最後に連中のオヤブンをやっつける手助けをちょっとしただけだ。覚えておいてくれ」

「それと、勇気は買うが軽々しくひとごろしになろうと思っちゃダメだ」

「ひとごろし呼ばわりされるのが嫌になって、いいひとになろうと欲をかいて、名を残すことすら出来ず死んだバカは多いんだ」

 何かを思い出して機嫌の悪い表情と声で言うゴーマーに、少女はブンブンと首を縦に振った。


 翌日、エルモシージョ冒険者ギルド・ギルドホール。

「よう小僧、元気か」

 ゴーマーに顎が砕けるほどショットガンで殴られたユキヤ少年は、剣の柄に手をかけて素早く後ずさった。

「おいおい、勘違いするな。俺が本気で殺す気ならお前に1秒でも動く時間なんかやらねえ」

 ゴーマーが握る国友の火縄銃は、ユキヤの眉間に狙いを定めていた。一番使い慣れた火縄銃を向けたのは、相手に敬意を払えばこそだ。

「俺に殴られたところは綺麗に治ったようだな。最近の教会が売る治療薬は出来が良くて何よりだ」

「アンタになすすべもなくやられた俺を嘲笑いに来たのか?」

 無論ゴーマーにそんな気は毛頭ない。日本に居た頃は銃の一つも握ったことがない少年が、いつ消えるかもわからない異能を頼りに名を上げるまでには苦労もあったろう。

「そんなどうでもいいもので笑えるわけ無いだろう。ところで、侯領都の近くで悪さをしようとしてた盗賊団を一つ潰した。その手柄を受け取ってくれ」

「……なにを企んでる?」

 ユキヤが胡散臭いものを見る目でゴーマーを見る。

「俺はどうせひとごろししか能がない。どこぞの超A級スナイパーじゃあるまいし、目立っても馬鹿にされるだけだ。どんなに逆立ちしても雑賀孫市になれないことぐらい、いちいち言われなくてもわかってる」

「それで、どうする。何もせずに金貨と名声をもらうチャンスをふいにするのか?」

 少年はゴーマーが書いた報告書を手に、エルフの女性係員のところに向かった。


「断る、死ね」

「まだ何も言ってませんが……」

 数日後、ゴーマーは『月琴と油条亭』の片隅で悲しげな月琴の曲を弾いていた。そこに、ゴーマーの登録を受け付けたギルド係員のエルフ・メルセデスがやってきたのだった。

「そりゃそうだ、お前さんが用件を切り出してからじゃ遅い」

「読心術も使わずに、私の言うことを予測できるんですか?」

「お前さんのようなのが何人も悪気のなさそうな面をして、砲術の指南を頼みに来たよ。昔は俺もバカで、学んだ砲術だってもったいぶって隠すものなんかねえからホイホイ教えてたんだ」

「そうしたらどうだ、どいつもこいつもありがとうございますの一言も言わず俺を蔑んだ目で見やがった。一人の例外もなく」

 それはお気の毒にとメルセデスは思ったが、口には出さなかった。

「あなたが過去に囚われるのは勝手ですけど、そうやってふて腐れて、いつまで人に迷惑をかけるんです?」

 ゴーマーの月琴を弾く手が止まり、周りの酔漢がそそくさと逃げ出す。油条亭の主である老夫婦も逃げた。

「そうやって人の心にズカズカと踏み込んで、無神経な言葉を浴びせてドヤってる奴は腐るほど見たよ」

「そうだな……ちょっと待ってくれ。お前さんの頭を吹き飛ばすかどうか、今ちょっと思案してる」

 ゴーマーはプファイファー・ツェリスカを握りしめ、片方の手で王国金貨を一枚コイントスした。

 

 

 

 

 

 

 

「あの……私は何を……」

 メルセデスが血溜まりと脳漿・骨片の中から起き上がった。

「お前さんの頭を吹き飛ばしたんだよ。バルベルデで領地と爵位が買える値がつく反魂丹が無駄になったが、今回は無料サービスだ」

 不機嫌に言うゴーマーのそばのテーブルには薬研があり、サファイアブルーの微細な粉末が底に少し残っていた。メルセデスの服や顔に、青く光る粉がかかっている。

「え……あ、ああっ、そ、そんな……本当に……」

 メルセデスの心の中で、ゴーマーへの怒りより恐怖が勝った。

「このくらいでいちいち驚いてたら身が持たないぞ。誰だって一度は死ぬんだ」

「ところで、その用件って何だ。一応聞き流してやるから言ってみな」

「と、当ギルドは国の肝いりで冒険者の養成講座を開講します……特に重要な『魔法剣士コース』の受講希望者をテストし」

 正直泣きじゃくって逃げ出したい気分だったが、何とかメルセデスは用件を切り出した。

「不合格なら殺していいのか? 合格でも殺すけどな」

 更に不機嫌な顔になってゴーマーは言う。


 この人はなんでそこまで他人を極自然に憎んでいるの?


 メルセデスは生涯500年の間にここまで何もかも憎悪する人物を見たことがない。

「い……いいわけないでしょうっ!」

「そりゃ残念だ」

 ゴーマーは舌打ちした。

 

 数日後・『月琴と油条亭』前。

「採点してやろうか、一人除いて100点だよ。どいつもこいつも使い物にならん」

 背負ったミニガンを下ろし、二十数体の死体を見てゴーマーは苦渋の顔で言った。

「な?! 何で試験会場に行く前に射殺したんです?!」

「闇討ちも予測できない役立たずなんかいらん。講習を終了したら化け物と命のやり取りをする冒険者になるのに、俺をナメすぎだ」

 ゴーマーは不機嫌な顔で、傍らの箱から薬研と反魂丹を一つ出した。。


(ゴーマーの一人語り)


 紀州様(浅野幸長)の家臣が俺にこう訪ねた。

「高名な武芸者に果たし合いを申し込まれたら先生はどうしますか?」

「本人が来たなら、玄関先でその果し状を持ってきたバカを撃ち殺すに決まってるだろう。後は殿の前で申し開きして沙汰を待ち、打ち首と言われたらその通りにする」

「考えても見ろ、剣の道理で勝負する砲術師がどこにいる?」

「それに、果し状を持ってきたってことは名声欲しさに俺を殺すと決めたろくでなしってことだぞ。尋常に勝負をするやつがどこに……ああ、しそうな奴がいたな、一人」


 尾張に、弓の名人と正々堂々戦って結果共に討ち死にした鉄砲名人がいる。雷神の筒の使い手と言われた男だ。

 

「俺は卑怯で臆病でどんくさい砲術家だから、盤外戦術で勝負するしかないんだ」

「虎を撃ち損じたことをまだ気に病んでるんですか?」

 俺はこの若侍を射殺するかちょっと迷った。


「慶長戦役のあの時、西国の有名な武人達が俺の前に無警戒で立ってたんだ。撃ち殺してやりたい誘惑に負けそうになったんだよ」

「殺人絡繰りと名高い島津の連中ですら俺を馬鹿にして隙だらけだった。雑賀衆も俺を笑っていた」

「紀州様が俺の手をきつく掴まなかったら、何人かは殺せた。もちろん俺も死ぬが、大笑いして死ねただろう」


 だがな、紀州様の手を無理やり引き剥がす気にはならなかったんだ。やっぱり俺は臆病だ。

 

(一人語り終了)


「さて、蘇生も終わった……おいこら、狸寝入りでミニガンを避けたクソ転移野郎、起きやがれ」

 ゴーマーは死体のふりをした講習希望者の一人を睨みつけた。

 その男は、若い頃のローワン・アトキンソンによく似ていた。

「おお、怖い怖い! そんなにドスを利かせなくても、貴方が1、2発銃を撃てばちゃんと死にますよ。こちらも反撃しますが」

 男はベレッタM92FSを抜いたゴーマーと同時に、起き上がってワルサーPPKを抜いている。その銃口から、万国旗と紙吹雪が飛び出す。

「……名乗れ」

 ゴーマーは銃口を男から外さない。

「イングリッシュ。ジョン・イングリッシュとでも名乗っておきましょうか。あ、本名は酒井兵庫です」


 酒井兵庫。

 

 泣く子も黙る新選組隊士である。彼は会計方だが。死体処理を担当しているうちに怯懦の振る舞いがあって沖田総司に斬られたと伝わっている。

「それで、その時の正体は西国のスパイだったってわけか。あえて銃と剣の腕を秘したまま臆病者呼ばわりに甘んじて死ぬとか大した奴だ」

 ゴーマーは、油断なく兵庫を睨みつける。

「スパイが簡単に実力を見せるわけ無いでしょう? あっ、スパイって言っちゃった」

 人のどす黒い所まで見てきたゴーマーは、兵庫のふざけた態度にも表情を変えない。

「面白いやつだ、地獄に落ちろクソッタレ……!」

「遠慮しますよ、お先にどうぞ!」

 二人は凄まじい勢いで拳・掌を交えながら銃を撃ち合う。


「あ、あの……蘇生してもらってどうも……私……魔族の刺客です」

 青の髪に龍の角、青い長衫を着た魔族・クラーヴジャは自ら正体を明かした。ゴーマーとジョンの撃ち合いにすっかり気圧されて毒気を抜かれている。

「空気読め馬鹿」

 ゴーマーはクラーヴジャを睨みつけながら器用にミニガンを2丁操る。クラーヴジャは無数の銃弾が飛んでくる前に慌てて距離を取った。

「ご丁寧にどうも、わたくしジョン・イングリッシュです。これ名刺ね」

 ゴーマーと撃ち合う兵庫からは鉄の名刺が手裏剣代わりに短く空気を切って飛んできた。どう考えても沖田総司にあえなく斬られた者の武芸ではない。

「それで、その、ええと……」

 クラーヴジャは戦いに割り込もうと思うが、隙が見つからない。


「……」


「ふざけるのもいい加減にしろお前ら!!! 呪われよ、呪われよ、よみがえれ災いの亡骸、死の淵よりいでよ、苦しみよりいでよ、憎しみよりいでよ亡者の剣士!!」

 クラーヴジャ以外のゴーマーに殺された受講希望者の死体二十体が、禍々しい剣気を伴って起き上がる。もとより本当の受講希望者ではない。クラーヴジャが本物を殺して入れ替えた魔族の剣士だ。

 

「そんな酒宴の座興で俺がビビると思ってんのか。笑わせるな。もう一度殺してやるからさっさとかかってこい」

 と言うゴーマーの顔は憤怒に染まって何も笑っていない。手にした得物がデザートイーグルに変わる。まとった禍々しさにかけてはどちらが魔族かわかったものではない。

 さて。

『酒宴の座興』と言う言葉でゴーマー・パイル、否、転移者・稲富祐直は自分が酒場兼宿屋『月琴と油条亭』の中に居ることを思い出した。

 祐直は酒場にある一番大きい白酒パイチュウの瓶を、力任せにクラーヴジャ目掛けて投げつけた。クラーヴジャは慌てて掌から魔力を掌風に変えて放ち、砕け散った破片で殺しにかかってくるであろう酒甕の勢いを弱めて何とか受け止める。そのまま瓶の蓋を開け、中身を浴びるように飲み干す。

「え? え? 何やってんです?!」

 兵庫は一度手を止めてクラーヴジャを見た。明らかに魔力が膨大な内力となって全身から溢れ出している。とてつもなく大きく重い楢のテーブルを、クラーヴジャはこともなげに持ち上げる。

 

「な、何なんです?!」

 暴風と化したクラーヴジャの掌風に、祐直がRPG-7の榴弾をぶつける。鋭く斬り掛かってくる死骸剣士をRPG-7の砲身で薙ぎ払い、デザートイーグルで手足を吹き飛ばす。ミニガンを抱えて祐直が軽々と跳躍し、その砲身を頭蓋に叩きつけられたクラーヴジャが血まみれでニヤリと笑う。フラフラと歩み寄るクラーヴジャが祐直の顔をテーブルで思い切り殴り、祐直が血の混じった唾を吐き出す。兵庫は一体何を見せられているのかと思った。

「こんな戦い方、鈴木重秀だって多分やってない……あんた一体何なんです?!」


「何って言われても……俺が『ラマーディの悪魔』とか『白い羽』とか『白き死神』とか、何かそういうかっこいい存在だとでも思ったのか? 俺は何にもない、空っぽのがらんどうなんだよ。どいつもこいつも勝手なこと言いやがって、笑いたきゃ笑えばいい」

 祐直はいつも通り不機嫌な顔で言った後、ミニガン二丁をクラーヴジャに突きつけ、ありったけの弾丸を至近距離で食らわせた。

 そして薬研で毒々しい色のよくわからない塊を砕き、その粉をクラーヴジャにかけて死体も思念の残滓も溶かしてしまった。



 

 領都エルモシージョ郊外の、寂れた墓地。

「門弟をこんな感じでむざむざと殺されたのは初めてだな。ちと、堪える」

 クラーヴジャに殺された本物の冒険者講座受講希望者たちは、墓地に無造作に打ち捨てられていた。ゴーマーは彼らの遺髪を取り、名前を控えた後、メルセデスにそれを託して遺体を荼毘に付して改葬した。

 

 手向けの月琴が、夜のしじまに悲しく響く。


「ところで、お前さんこそ何なんだ? 何がしたかったのかさっぱりわからん」

 ゴーマーは月琴を弾く手を止め、兵庫を見つつ腰のS&W M629に手をかけた。

「何って、魔族の刺客が来るって警告に来たかったんですよ。あんたが下手な魔族より禍々しい殺気を撒き散らしてたんで、嬉しくなって戦いを挑みましたが」

 兵庫も胡散臭い笑みを浮かべつつ懐のワルサーPPKに手をかけている。


「死人の眠りを乱すな。黙って失せろ」

 ゴーマーは再び月琴を弾く。

「ええ、そうさせてもらいます」

 兵庫が立ち去る。

特になし

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