119、彼らは何者だ?(ミスト視点)
馬の顔をした巨大な魔物が目の前に迫り、斧を振り上げた瞬間、俺達は死を確信して抱きしめあった。
次の瞬間辺りを覆い尽くすほどの光があり、本来訪れるはずの斧が迫りくる音や風、切られる痛みは感じることがなかった。
光が収まると、目の前には片手を上げた銀髪の少年がいた。
彼はどうやら虹色に光る透明な壁を作り出して、馬の顔をした魔物から俺たちを守ってくれたようだ。
「大丈夫ですか、ミストさん達!」
その少年が俺たちを振り向く。
「……お前は確か……?」
「ええ、リッキーの友人のシエルです。」
「……何でここにいる?」
「何でって、街にいたら急に大量の魔物の気配がしたので転移したんですが、あなた達が襲われているのを見てすぐさま転移したんです。」
俺は「何で敵対していたはずの俺たちを助けたんだ?」という意味で聞いたのだが、彼はそうとは取らなかったようだ。
「あの魔物が溢れてきている黒い球体は一体何なんですか?」
俺は、彼の質問には見たままでしか答えられなかった。
そうでなくても父親が無残に殺される様を見せられているのだ。
俺はこのまま、眠ったら全てが夢であったら……と思ってしまう。
だがそんな俺の現実逃避は、目の前にいる魔物の言葉で現実に戻されてしまった。
「何だ?急にニンゲンが一人増えたな?それにこの見た目……貴様がテネブル様の探しておられる者の1人なのか?」
そういえば父さんが「テネブル様が銀髪の男を探している」とここ最近言っていたなと思い出す。
初めて会った時も、父さんは彼の国へ無理やり連れて行きたがっていた。
まさか、本当に探していた人物なのか……?
「何だ、そのテネブルっていう人は?聞いたことあるか、ミストさん?」
「……父さんがたまにその名を出していた気がする。もしかすると神聖法国の人じゃないかと思うんだ。」
俺がそんな事を思っていた時、彼からちょうどその質問が来たので答えてあげた。
するとその馬の顔の魔物は頷くと俺を見る。
「貴様はもしやテネブル様の下僕のニンゲンか?残念だったな、我々と繋がりがあることを知られては生かしてはおけないのでな。ここで死んでもらおうか。」
そう言うと巨大な戦斧を振り上げた。
あぁ…俺はやはりここで死ぬ運命なのか。
俺が改めて絶望を感じた時、辺り一面を巨大な火球の雨が降り注いだ。
その火球は一つ一つが人の頭ほどあり、この開けた場所のあちこちに被弾した。
俺たちのいる森と広場の境目付近にもいくつもの火球が落下してきて、目の前にいる馬の顔をした魔物もいくつも被弾したようだ。
だがしかし、俺達は目の前にいる銀髪の少年が張ったであろう透明な壁に守られているので何事もなかった。
俺があまりのことに驚いている間に、今度はいつの間にか少年と馬の顔の魔物が武器で戦い始めた。
最初彼らの力は拮抗しているように見えたが、徐々に魔物のほうが押され気味になっていった。
一体あの細くて小さな体のどこに、そんな力があるのだろうか……。
そんな風に眺めていると、魔物がバランスを少し崩したと思った瞬間、本当に一瞬で魔物が倒された。
俺の目には一体何をしたのか全く見えなかったが、魔物の首が落ちているので、切り落としたのは間違いないのだろう。
「結界の中は安全なので、安心してください。」
彼はボーっとしている俺に向ってそう声をかけると、結界の外へ行き、あっという間にどんどん魔物を屠っていく。
彼は自分の仲間を助けに向かったのだ。
俺は彼から目を離せないでいたのだが、彼が近づいたことでふとリッキーが目に入る。
目に入ったあいつは、俺の知っていた頃のあいつとは全く違った。
周りに大型の魔物が取り囲む中、あちこちを怪我しながらも、あいつは懸命に戦い続けていた。
あの銀髪の少年ほどではないが、あいつも相当強いことはよく分かる。
俺が街で魔法を放った時のあいつの行動を思い出すと、俺は思わず項垂れた。
あいつはこの街を出てから相当な数の戦闘をこなして強くなっていったのだろうことを思うと、何ともいえない気持ちになった。
ふと、気絶をして抱えていた弟が広場で繰り広げられている戦闘を瞬きもせずにじっと見ているのが目に入った。
あいつもこの非現実的な光景に意識が追いつかないんだろう。
俺も少年に目を向けると、彼が魔物を倒しながら黒い球体に近づいていくのが見えた。
彼が近づいていくと徐々に魔物が出てこなくなった。
彼が球体に手を伸ばせば触れるほどに近づいた時に何かあったらしく、俺達に張ってくれたのと同じ壁を球体に張った。
すると周りで牽制していた魔物たちが一斉に少年に飛びかかっていったが、少年は舞うような動きであっという間に魔物を討伐していった。
すると、少年が黒い球体の方に振り返った時、球体から人の手のようなものがぬっと出てきた。
彼はそれを見た途端、突然透明な壁を消してその腕を切り落としたので、俺は驚いた。
……あの腕は何だったのだろうか?
俺はそう思ったのだが、切り落とされた腕が這って少年に近づくのを見て恐怖が湧く。
あの腕は悍ましい者の腕だったのではないかと思った時、黒い球体の上空に巨大な白い竜が飛来した。
竜が大きな声で少年に何かを叫ぶと、彼はすぐさまそこから距離を取り、次の瞬間ものすごく大きな白い光の柱が黒い球体に直撃した。
その光が収まるとそこにあったはずの黒い球体はなくなっていた。
俺はそれを見てホッとして体から力が抜けたが、少年はまだ何かから逃げる素振りをした。
よく見ると、彼のいた場所にあの腕が這いずっていた。
それを見て白い竜が、切り落とされた腕と彼の間に立ち塞がり、彼を守るような仕草をする。
すると白い竜が目の前に来ると、這っている腕が徐々に膨らみ、真っ黒い竜へと変化した。
黒い竜がそばまで来た時、少年の持っている剣が突如白い光をまとい、彼は白い竜の後ろから前へと出た。
そして竜との戦闘が始まったのだが……結果から言うと、彼の圧勝であった。
彼が竜を倒したと思ったら、急にまたもや上空から白い光の柱が。黒竜へと降り注ぐ。
光が収まると、やはりそこには何も残ってなかった。
全てが終わると、彼は力尽きたように倒れ、白竜に抱えられた。
……一体、彼らは何者なのだろうか?
少年と白竜は共にとても神々しい見た目と存在感で、さらにとても強い。
もしかして……彼らは神の使い、なのだろうか?
以前歴史の授業で『神竜』の話を習ったことがあるが、まさにあの竜のようではないだろうか?
震える足を懸命に動かしながら、フォグと一緒に彼の元へと向かう。
彼の元へは仲間たち皆が集まっていた。
彼らの話によると、彼は力を使い果たしてはいるがどうやら無事らしい。
「お前……いや、あなたは一体何者ですか?それにその竜も。」
俺は思わず彼にそう聞いてしまった。
返事を期待していたわけではなく、思わず心の声が口から出てしまったのだ。
だが返事は、彼ではなくリッキーから聞くことができた。
「コイツらは俺の大事な友人で、冒険者チームのメンバーだ。それ以上でも、それ以下でもない。」
リッキーの突き放つような声が俺に向けられる。
だが俺は、その答えだけで十分だった。
俺は少年を抱えている竜に向って軽く頭を下げ、胸に手を当てた。
「…こんな騒ぎを起こしてしまった私たちも救っていただき、ありがとうございました。……本当に…本当にっ!ありがとうございました!」
俺は彼らに向って御礼の言葉を告げた。
その言葉には、激しい後悔と反省、そして感謝の気持ちを込め、途中から涙が止まらなくなった。
フォグを見ると、やはり俺と同じく泣いていた。
白竜に抱かれた彼は、俺たちの方を見て微かに微笑むとそのまま眠りについてしまった。
俺たち兄弟の、彼らへの感謝の気持ちや敬う気持ちは、一生忘れられないものとなった。
そして絶対に俺たちは一生忘れないだろう、今日の出来事を……。




